白馬村観光局が描く「関係人口」の創出戦略、リモートワーク+イベント開催など、訪日客・スキー客の減少に立ち向かう打ち手を聞いてきた

長野県白馬の冬の人気は、国内スキー人口が増加するとともに上昇し、1998年の長野五輪でスキージャンプ・ラージヒル団体が白馬ジャンプ競技場で金メダルをとったことで、さらにそのブランド力が上がった。しかし、その後、市場環境は大きく変化。レジャーの多様化によって国内のスキー人気が凋落する代わりに訪日スキー客が増加してきた。そして、今年。白馬でもコロナ禍によって市場が混乱している。日本でも有数のスキーリゾート白馬は、今後の観光戦略をどのように描いているのか。白馬村観光局事務局長の福島洋次郎氏に聞いてみた。

右肩下がりの国内スキー人口、頼みの訪日もコロナで壊滅

日本のスキー人口は右肩下がりだ。状況は長野県でも同じ。県観光部が公表している統計によると、県内スキー場の利用者は1992年度の2120万人をピークに、長野五輪が開催された1998年度は前年比を上回ったものの、ほぼ毎シーズン前年比減。2019-20年(2019年11月1日~2020年5月31日)は、前年比14.4%減の553万人に落ち込み、ピーク時の実に4分の1にまで減った。福島氏は「日本の人口減少にあわせるように、スキー人口も減少。加えて、近年の少雪の影響も大きい」と話す。

その日本人需要の落ち込みを埋めるように、近年では訪日外国人スキー客が増加してきた。白馬村と大町市、小谷村など近隣市町村で構成する「HAKUBA VALLEY」地域のスキー場利用者は年間約135万人で、そのうち、約35万人がインバウンドだという。白馬村の統計でも、2019年の外国人観光客延べ宿泊者数は前年比69.6%増の16万4377人。今では、北海道のニセコに並び、海外でも人気のスキーリゾートとなった。

しかし、コロナ禍が状況を一変させた。「今シーズン以降の戦略は、まだ先が読めない」と福島氏。白馬村観光局も入る広域DMO(観光地域づくり法人)のHAKUBA VALLEY TOURISMでは、インバウンド再開のシナリオを想定し、国ごとにスキー客入り込み数を予想しているが、「今は悲観的な方向を考えざるを得ない」状況。2020-21年シーズンは前年の15%ほどまで落ち込むと見ており、「最悪のシナリオに備えて、各スキー場にコストダウンをお願いしている」と明かす。

国内旅行もコロナ禍の直撃を受けた。白馬村の入り込み数は4月が前年比80.3%減の1万7100人、5月が同94.3%減の6700人。6月は回復傾向を見せたが、それでも同39.9%減に終わった。特に50室以上の宿泊施設は団体のキャンセルで大きな影響を受けたという。

インタビューはオープンしたばかりの「Snow Peak LAND STATION HAKUBA」で行った。ウィズコロナからかけ離れた「GoToトラベル」

そのなかで、7月22日から「GoToトラベル」キャンペーンが始まった。白馬でも夏休みシーズンの需要回復への期待は大きく、宿泊施設の予約も戻りつつあったが、東京発着が除外され、全国的に感染者が再拡大したこともあり、キャンセルが相次いだという。そのキャンセルのなかで多く聞かれるのが「行ってもいいんですか?」という問い合わせだ。

福島氏は「白馬はウェルカムなのに……」と困惑を隠さない。「白馬村の就業者のうち7割がサービス業。何らかの形で観光業に携わっている。生活していくためには、最大マーケットである東京から来てもらわなければ困る」と話す。

一方、移動すれば感染が広がるリスクは高まるが、福島氏は「地方では感染するのが怖いのではなく、感染したことで地域のコミュニティーから疎外されるのを怖がっているところがある」と地方の別の現実も吐露する。

「ウィズコロナの時代と言われながら、陽性であれば隔離され、感染者が出た施設は休業に追い込まれる。そのような状況で観光業を営むのは厳しい」。発地も着地もコロナのことをしっかりと理解することが求められるが、現実はウィズコロナには程遠い。

グリーンシーズンの集客強化、環境をテーマにビジネスイベントも

スキー人口が減少していくなか、白馬村が力を入れているのが夏季グリーンシーズンの集客だ。福島氏は、その起爆剤として今年7月23日にオープンした「Snow Peak LAND STATION HAKUBA」に期待を寄せる。「白馬は広域で、どこが観光の中心なのか分からないところがあった。この施設がオープンしたことで、ここにまず人が集まり、情報を得て、各エリアに拡散していく流れができるのではないか」。白馬村観光局は、施設内にインフォーメーションセンターも設けた。

夏のアクティビティとしては自転車を訴求。Snow Peak LAND STATION HAKUBAでは、「Snow Peak Go」として一歩踏み込んだ白馬を体験してもらうサイクリングで協力している。また、岩岳では行政と民間事業者とともにマウンテンバイクのダウンヒルコースを整備。初心者や子供向けには、マウンテンスポーツパーク「Hakuba 47」でエントリーコースを設けた。

ゴンドラは冬はスキー、夏はマウンテンバイクを運ぶまた、コロナ禍でのライフスタイルの変化や働き方の多様化は、夏の白馬にとって追い風になっているようだ。「コロナ禍中、密を避けるためのキャンプの需要が高まっている」と福島氏は明かす。その需要を取り込むために、宿泊施設も新しい企画を次々と打ち出している。八方尾根温泉の「ホテル五龍館」では、キャンプ初心者向けに、客室も用意しつつ、屋外でBBQなど簡単なキャンプ体験ができる商品を売り出した。「コートヤード・バイ・マリオット白馬」を手掛ける森トラストグループでは、ホテル隣地にグランピング施設を整備。また、ホテルでは多様化する働き方に応えるためにワーケーション向けプランも打ち出した。

さらに、白馬駅前には定額制全国住み放題サービスADDressのゲストハウス「hakuba share」もオープン。「これからノマドワーカーも増えるのではないか」と期待をかける。

ただ、福島氏は「リモートワークやワーケーションだけで、人を呼び込むのは難しい」と現実的だ。そこで、白馬村観光局では、リモートワーク+イベントとして、今年9月14日から3泊4日で法人向けに「グリーンワーク白馬」を開催する。

白馬村は2019年12月に「白馬村気候非常事態宣言」を発出。長野県とともに、2050年までに二酸化炭素排出量実質ゼロを目指している。このイベントは、その環境をテーマにサーキュラー・エコノミー(循環型経済)を学んもらおうという企画。参加企業の交流を深め、アイデアを創出し、地元企業と結びつけるのが狙いだ。

「このイベントが通例化すれば、白馬の環境という立ち位置が定まってくる。環境で起業したい人はまず白馬を目指すようにしていきたい。ここに、リモートワークで白馬を訪れる意味が出てくると思う」。環境をフックとしたビジネスでの関係人口の創出。そして、その先に移住・定住も見据える。

北尾根高原から白馬村を望む循環型の観光経済に向け、宿泊税にも注目

白馬村観光局は地域DMO(観光地域づくり法人)に登録されている。地域の「稼ぐ力」を引き出し、観光地経営を進めていきながら、自らも稼ぎ、経営し、自走していかなければならない。現在は、自主財源を確保するために旅行会社向けのリフト券販売の委託窓口や白馬ブランドを生かした商品開発や販売に力を入れている。

ただ、「課題は多い」と福島氏。そのなかで注目しているのが宿泊税だ。宿泊税は、自治体が条例で金額や使途などを定める法定外目的税で、東京都、大阪府、京都市などが導入しており、観光を主な産業とする地方自治体でも導入を検討しているところは少なくない。白馬村でも、2018年度から「白馬村観光振興のための財源確保検討委員会」で議論を進め、2019年4月に報告書をまとめたが、実現には至っていない。

その報告書のなかでは、宿泊税の徴収について消費者への意識調査の結果も提示。「積極的に協力したい」「協力したい」「使途が明確であれば協力したい」を合わせると実に95%が支払いに前向きという結果となった。

「観光客を増やせば、宿泊税も増え、それを活用して、さまざまな観光サービスを創出する。観光に還元するサイクルをつくる必要があるのではないか」。

白馬村観光局は、持続可能な観光地経営に向けて、そしてDMOとして持続的に自走していくためにも、観光客を巻き込んだ循環型経済の模索を続けている。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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