ヨーロッパの観光産業の現状は? 国内線は5割まで回復、カギは「キャンセル・変更の柔軟性」や「直前予約」対応など ―「フォーカスライト欧州2020」取材レポート

アメリカの旅行調査会社フォーカスライトが主催する「フォーカスライト・ヨーロッパ2020」が9月上旬に開催された。今回は、コロナ禍の中でオンラインによる開催。メインステージでは2日間にわたって、ヨーロッパの旅行業界のキーパーソンが集まり、さまざまなテーマで現状の認識や今後の展望について議論を行った。まず、メインステージ初日の主な議論をレポートする。

航空旅行再開に向けて各国の協調を

新型コロナウイルスによる旅行制限は、世界中の旅行業界に甚大な影響を及ぼしているが、なかでも航空業界は依然として先が見えない状況が続いている。「航空旅行の現実」をテーマにしたプログラムでは、国際航空運送協会(IATA)ヨーロッパ地区副社長のRafael Schvartzman氏と航空業界団体SITAヨーロッパ地区社長のSegio Colella氏が議論を展開した。

SITAのColella氏は8月最終週のヨーロッパの旅客数について、国内線は前年の50%~60%で、7月からは上昇しているものの、国際線は依然として前年の26%ほどにとどまっており、厳しい状況が続いているとの認識を示したうえで、業界が回復に向けてニューノーマルを受けれていく必要性を訴えた。

IATAのSchvartzman氏も、依然として航空需要は冷え込んだままとしたうえで、改めて2019年レベルに回復するのは2024年以降になるとのIATAの予測を紹介。IATAとしては、感染防止ガイドラインの徹底を重視しているが、それを実施するうえで、各国政府、航空会社、空港などとの協調と調整が重要になると指摘した。

また、航空旅行は極めて安全な交通手段であることを強調。「人々は旅行を望んでいるが、出入国規制や検疫強化を続けている。これでは、航空旅行が安全でも旅行することができない」とし、各国の統一した国境管理とともに、安心して旅行するためには検査体制の拡充が必要との見解を示した。

このほか、コロナ禍の航空旅行で重要なこととして、Colella氏はSITAが推進しているデジタル旅行を紹介。旅客体験の向上だけでなく、非対面・非接触での手続きが可能なため、空港での混雑解消にもつながることから、コロナ禍では重要なソリューションになると主張した。

(左から)SITAのColella氏、IATAのSchvartzman氏、フォーカスライトのRogl氏

勝者はバケーションレンタル、コロナ後も人気続く

「ホテル vs バケーションレンタル」のセッションでは、宿泊施設のトレンドについて議論が展開された。コロナ禍の傾向として、宿泊施設の比較サイトHomeToGO共同設立者兼CEOのPatrick Andrae氏は、短期間のバケーションレンタルを「勝者」と位置づけ、OYOバケーションホームズCEOのRaj Kamal氏は、「ローカル」「直前予約」「キャンセルや変更の柔軟性」「清潔さ」「ブランド力」の5つを特徴として挙げた。

バケーションレンタルマネージメント会社GuestReady共同設立者兼CEOのAlexander Limpert氏はフランスの状況について説明。OYO同様、間際予約が進んでおり、予約は約20日前、平均レンタル期間は9日間、リヨン、ボルドー、カンヌなど中都市の需要が高まっていると明かした。

Wyndham Hotels & ResortsのEMEA担当副社長Julie White氏は、ホテルの現状として、国立公園の近くや自然が多い地域のホテルの人気が高まっており、また、ロックダウン中は、医療従事者、輸送機関、建設会社などエッセンシャルワーカーの利用が多かったが、社会活動も徐々に再開されるにつれて、国内レジャー客も戻ってきていると説明した。

また、バケーションレンタルマネージメント会社AwazeグループCEOのHenrik Kjellberg氏は、「今回の危機で、消費者はバケーションレンタルの存在に気づいた。これまでの大手チェーンホテルあるいは独立系ホテルの選択に新たな選択肢が加わった」と話し、消費者にとって宿泊施設の幅が広がっているとの認識を示した。宿泊施設に予約システムを提供するTravelClick副社長のJerome Wise氏も、「宿泊施設の選択としてホテルとバケーションレンタルの垣根がさらになくなっていくだろう」とした。

他のパネリストも、この考えに同意。消費者のニーズが多様化している中で、パンデミック後もバケーションレンタルの人気は続き、旅行スタイルによってホテルとの使い分けが起こるとの意見も出た。

また、パンデミック後はホテル業界の再編が進むだろうとの予測でもパネリストの意見が一致した。

(上段左から)HomeToGOのAndrae氏、OYOバケーションホームズのKamal氏、AwazeのKjellberg氏、(下段左から)GuestReadyのLimpert氏、Wyndham Hotels & ResortsのWhite氏、TravelClickのWise氏

タビナカでもデジタル化は必須

初日のメインスタージでは、ツアー・アクティビティの現状についてのラウンドテーブルも開催された。

テーラーメイドのラグジュアリーツアーを催行するTourlane共同設立者兼共同CEOのJulian Weselek氏は、ヨーロッパのツアーオペレーターの現状について、デジタル化が遅れていることを指摘。そのうえで、パンデミック中、シームレスな顧客体験を提供するためにテクノロジー開発への投資を強化しているとした。

国際的にDMCを展開するMTS GlobeでCEOを務めるMichael Frey氏は、「このパンデミックは、伝統的なツアーオペレーターにとってチャンス。コロナ以前は、フライトやホテルなど旅行素材に投資を続けてきたが、この不確実性の時代のなかで、消費者は以前とは異なる価値観を求めている。カスタマーサービスを見直すための投資が必要ではないか」と持論を展開。

観光施設などのチケットを取り扱うTiqets設立者兼社長のLuuc Elzinga氏は、「現地ツアーやアクティビティでも、個人予約でも、旅行会社を通じた予約でも、オンライン化がますます加速するのは間違いない。ここ数年、旅行者は、自分がやりたことに合わせて、自分のタイミングで、それぞれの素材を予約する傾向が高まっている。そのニーズからもオンライン化は必須」と発言。

さらに、消費者の傾向について続け、今後モバイルによる非接触が増えるとともに、キャンセルや払い戻しなど、より柔軟性の高いチケットが重要になるのではないかとの見解を示した。

また、今後のマスツーリズムの展望について、ドイツのツアーオペレーターFalkensteiner Ventures AGの共同設立者でマネージングパートナーのBeat Blaser氏は、現在グランピングやキャンプなど小グループの旅行が好まれているが、「マスツーリズムが復活しなければ、多くの観光関連事業者を抱える地域の復活はないのではないか」と危機感を表した。

一方、MTS GlobeのFrey氏は、パンデミックによって、消費者は密な場所を避ける傾向が強まっているため、「マスツーリズムは以前とは少し異なる傾向で回復する」との見方を示した。

(上段左から)Falkensteiner Ventures AGのBlaser氏、MTS GlobeのFrey氏、(下段左から)TiqetsのElzinga氏、TourlaneのWeselek氏

取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹

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