航空券の新規格「NDC」、期待大でもなぜ導入が進まないのか? その課題を考えた【外電コラム】

国際航空運送協会(IATA )が推進する航空サービスの新しい流通規格、NDC(New Distribution Capability)。インターネット時代に最適化するための重要プロジェクトであり、航空会社などサプライヤー側が流通における主導権を取り戻すカギになるとの期待も大きい。

NDCを導入すると、XML(構造化言語)ベースでデータのやり取りが可能になり、航空会社の流通インフラが一新され、トラベル素材の売り手と買い手、両方にとって使い勝手がよくなる。

航空会社側は、運賃情報を各個人の関心に合わせてパーソナライズしたり、日々変動するプロダクトを自由自在に組み合わせて提案したりできる。一方、旅行会社側は同じ画面上で多数の選択オプションを比較検討し、顧客の要望に沿った商品作りが可能になる。

ところが、この待望の新しい流通システムの普及は、遅々として進んでいない。NDCが登場して10年経つが、導入には時間がかかっている。

いったい何が問題なのか? NDCが広く流通全般で利用されるようになるために、解決しなければならないことを以下に挙げてみた。

ハードル1:導入コスト、難解さ、そして時間もかかること

最大の問題点は、NDC導入に伴う時間的、金額的な投資だ。

大がかりな仕事になる上、XMLについての専門知識も必要。また、なにしろ膨大なデータ・モデリング言語なので、旅行の予約に伴う複雑なやり取りで導入するとなると、極めて手間がかかる。

その結果、現在、NDC認証を取得している企業は216社だが、このうち最上位レベルの認証を受けているのが99社にとどまっている。テクノロジーに強く、資金も豊富なところでないと導入が難しいため、大企業がNDC認証を取り、NDCアグリゲーターとなる一方、中小事業者は、こうした大手NDCアグリゲーターに接続するしか選択肢がない。つまり中小事業者はサプライヤーと直接、取引をするのではなく、仲介業者に頼る構図となり、今までの流通とあまり変わらない。

またNDCの認証取得や、技術刷新に伴う業務には、かなりの時間がかかる。社内的にも大規模なプロジェクトとなるため、特定の担当者だけが動けばよいのではなく、各部署間で様々な調整や協力も必要になる。

非効率的なチーム編成や、社内の政治力学によって、必要以上に時間がかかってしまう恐れもある。そもそも複雑なプロジェクトである上、集中的な投資が必要なので、コロナ危機のような予算的な問題にも影響されやすい。

ハードル2:導入状況がバラバラで分かりにくい

航空各社のNDC導入は、それぞれ異なるペースで進んでいるため、当面の間、どの航空会社でどの機能が使えるのか、あるいは導入予定なのかを確認する必要がある。例えばアメリカン航空の場合、機内食の事前注文は可能だが、事前支払いは不可。利用する側には、煩雑で分かりにくい。

その結果、旅行会社など買い手側は、航空会社ごとに複数の事業者を使い分けたり、ダイレクト・コネクト機能をいくつも社内で管理することになるので、メンテナンス業務が増えて、むしろ経費や時間の負担が大きくなる。

NDCを流通の新スタンダードとするのであれば、航空各社がもっと足並みを揃えることが不可欠だが、そうした合意や規則はなく、グローバル規模での導入が実現するのはまだ先になりそうだ。NDC導入の是非や進め方については、各社の裁量に任されており、本当の意味でのスタンダードにはなっていない。

むしろ現状は、様々なNDCの機能が、航空会社ごとに導入されるパッチワーク状態に近い。航空券販売を一新するという当初のビジョンからは程遠い状況が続いた結果、バラバラなデータを標準化する「NDCエクスチェンジ」まで登場し、ますます複雑になっている。

ハードル3:アグリゲーター(仲介業者)をまとめる仲介業者の出現

ダイレクト・コネクションの問題点は、その数があまりに多いことだ。

旅行代理店がGDS利用時と同レベルの在庫を確保するためには、複数のダイレクト・コネクション機能を管理する必要がある。それぞれについて契約を結ぶので、条件などの交渉も増える。航空会社側には、NDC対応のAPIに加えて、顧客アカウントの管理や技術サポートといった業務が発生し続ける。

このように変動要素が多い状況では、NDC対応APIへのアクセスにかかる時間が、大幅に長くなる。

その結果、NDCアグリゲーターに頼ろうとするニーズが増えている。NDCアグリゲーターとは、様々なNDC機能を集め、その中から必要な部分だけを提供するNDCの「as a service」事業者。こうしたNDCアグリゲーター各社をさらにまとめて、多種多様な機能を提供する「アグリゲーターのアグリゲーター」まで登場している。

こうして流通経路の中に、どんどん複雑な階層が増えていく状況に、既視感を覚える人も多いだろう。利用コストは安くなったが、まるでGDSのライト版だ。GDSと同様、導入当初のコストは抑えられても、仲介業者との力関係によって、最終的には高くつく。

ハードル4:法人旅行

NDCの弱点は、コーポレートトラベル市場だ。なぜなら法人客の場合、重要なのはむしろ販売した後のサポート体制になるからだ。法人旅行の取扱いでは、予約だけでなく、出張の前、旅行中、そして帰国後と全体を通じて支援業務がたくさんある。

法人旅行会社では、NDCコンテンツと従来型のGDSの両方を組み合わせて使うことになるため、デスクトップ対応の包括的なトラベルマネジメント・ソリューションがなければ、NDC活用は難しい。このようにNDCが広く浸透するまでには、まだ数々の問題が残っている。

さて、これからどうするべきか?

2018年の調査では、NDC認証を取得した航空会社14社が、販売の主導権を強化し、利益を増やすこと、使いやすくすること、そしてコスト削減をその理由に挙げていた。

こうした状況は、今も同じだ。航空会社は、もっと自らの戦略に沿った営業活動を必要としているし、旅行会社は顧客に合わせたカスタマイズやパーソナル化が必要だ。旅行業界が共有する課題であり、目標と言える。

ところがコロナ危機のせいで、時代遅れの航空産業インフラを全面的に刷新しようとする動きは、停滞の危機にある。

引き続きNDCに投資する航空会社や旅行会社、テクノロジー企業はあるものの、NDC導入を中断した企業もある。旅行業界は今、かつてないほど売上増とコスト管理に力を入れるべきだが、これではなかなか改善できない。

NDCがようやく普及し、標準仕様になる頃、そのテクノロジーは時代に追いついているだろうか?それとも、別の新たな問題に直面し、さらに課題が増えているだろうか?NDCに限らず、時代に合わせた刷新は常に需要だ。

多くのビジネスで、決済のデジタル化が一気に進んだのと同じように、旅行業も大きく飛躍するべきだ。

NDCの機能をバラバラにしたり、一部だけを取り入れるやり方ではなく、本来のメリットを最大限に活かせるような、危機に強く、将来的にも通用するソリューションが必要だ。

アグリゲーターや法人旅行会社、OTA、旅行代理店に頼るのではなく、NDCを導入した航空会社にアクセスし、無駄な売買コストを可能な限り省くべきだ。流通全体を俯瞰して、(旅行会社に限らず)誰でも利用できるシンプルかつオープンなソリューションを目指すべきだ。

NDCの中核的な機能の導入を急ぐべきだ。仲介業者の影響力を減らし、コスト削減を進めよう。ゴール達成までの道のりはまだ長い。ここで立ち止まってはいけない。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:NDC in 2020: so close but too far?

著者:ペドロ・アンダーソン ワインディング・ツリー創業者兼COO(最高執行責任者)

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