中国で国内旅行の回復に貢献した「健康コード」アプリとは? 中国内での感染症対策の実態からライブ販売まで聞いた  ― トラベルボイスLIVEレポート

新型コロナウイルスの感染者数が増加を続けるなか、世界の旅行市場は先行き不透明なままだ。そのなかで注目されているのが、いち早く感染拡大を阻止した中国。海外旅行市場は依然として停止しているが、その需要が国内旅行市場に向かい、力強い回復力を見せている。年明けには、感染者の増加に転じ、春節期間の中国人旅行者は前年比4割減といわれているが、それでも17億人の人々が移動するとみられている。

トラベルボイスでは、1月中旬に「中国の成功事例にみる観光復活のカギ」と題して中国大手オンライン旅行Trip.comグループと「トラベルボイスLIVE」を共催。Trip.com Group市場開拓・マーケティング戦略日本地区本部長の唐澤人傑氏から、2020年に同社が進めた観光復興に向けた取り組みとともに、中国人旅行者の訪日旅行への期待や回復へのヒントを聞いた。

中国国内市場回復に健康コードが大きな役割

中国市場の回復ぶりは数字に表れている。2020年第2四半期の純利益を見ると、世界3大OTAのうち、ブッキング・ドットコムは前年同期比マイナス84%、エクスペディアは同マイナス82%だったのに対して、Trip.comは同マイナス64%にとどまった。

また、2020年10月1日にスタートした国慶節期間の同社の予約データを見ると、鉄道チケットは前年同期比300%増、ホテルGMVは同100%増、観光施設の入場券予約量は同100%増、レンタカーの予約日数は同50%増と好調に推移。唐澤氏は「こうした結果は、中国市場の早い回復ぶりを示すもの」と話す。

Trip.comでは、中国国内の感染状況に応じて、回復モデルを構築。昨年の感染拡大期の1月~2月にかけてはサービス保証を充実させ、封じ込めで効果が現れ始めた3月~5月はライブ配信などで商品のプロモーションを強化した。6月は小規模クラスターの発生で旅行意欲は減退したが、7月からは政策誘導によって、国内需要を再喚起させたことで、回復の勢いがついたという。

唐澤氏は、こうした回復をサポートしてきたのが徹底した感染防止策だとし、そのなかでも健康リスクを色分けして示す「健康コード」による情報管理システムを挙げ、「政府、民間、通信企業が力を合わせて、社会全体で安全な環境を造り上げてきた」と説明した。「健康コード」で安全を示すグリーンでなければ、施設や公共交通機関などを利用することができない。「本人が感染していなくても、居住地や職場に感染者がいれば、本人の健康コードはグリーンにならない」(唐澤氏)という徹底ぶりだ。

日本のCOCOAの普及率の低さに対して、唐澤氏は「健康コードは日常とリンクしているため、普及率はほぼ100%」と応えた。中国では空港施設に入るだけでもグリーンが必要。必然的に搭乗者は全員グリーンということになるという。

Trip.comでも、観光関連事業者と協力し、独自にシステムを開発。時間ごとの予約状況を示すことで、3密回避を促す取り組みを進めている。また、観光地や観光施設と個別に連携し、復興を後押し。たとえば、浙江省湖州市では、政府の補助金を活用し、湖州旅行クーポン券56万枚を全国に配布するとともに、ライブ配信による湖州商品の販促を仕掛けた。ライブ配信での成約数は1.3万件を超え、売上高は実に2691万元(約4億3000万円)にのぼったという。

トラベルボイス鶴本(左)と唐澤氏中国人訪日客の回復には、日本の安全対策がカギに

唐澤氏は、コロナ収束後の中国人の海外旅行意向調査も紹介。一番行きたい海外旅行先では、日本が18%で1位。2020年1月~10月のシートリップユーザーの検索データでも日本が1位となった。しかし、唐澤氏は「この結果はあくまでもこれまでの日本の印象に基づくもの。今年に入って、日本では感染が再拡大し、対策も緩いことから、訪日意欲は少し変わってくるのではないか」と懸念を示した。

Trip.comのプレゼンテーションよりトラベルボイス鶴本も「対策が徹底されている中国から見ると、日本は緩い。これが外からどのように受け取られるか心配だ」と唐澤氏に同意。唐澤氏は「中国での対策は高いレベルが高い。それと同程度、あるいは、それに近くなければ、中国人旅行者はなかなか満足しないのではないか」と続け、安全性の担保が今後の訪日再開に向けて鍵になるとの考えを示した。

Trip.comプレゼンテーションより訪日復活には観光事業者の支援が不可欠、ライブ販売などでサポート

唐澤氏は、今後の訪日旅行市場の再開に向けて、「観光事業者の支援が不可欠」と主張。そのうえで、回復へのヒントとして、まず「プラットフォームでのデータを洗い直し、感染状況と照らし合わせながら、日々ニーズに合った商品をアップデートしてくことが求められる」とした。また、ライブ配信やKOLなどの活用、話題性の高いコンテンツとの融合などコンテンツコミュニティを多様化したうえで、ターゲットを絞ったプロモーションの必要性を訴えた。

加えてTrip.comでは、宿泊施設のサポートを推進している。まずは、2021年の個人旅行復活に向けて、無料バナー掲載で露出の拡大を支援。その後、食事や体験を組み込んだパッケージ商品を販売し、プロモーション動画の制作やSNSでのコンテンツ配信などで知名度を向上させていく。

また、Trip.comがコロナ期に成功した取り組みとしてライブコマースを紹介。旅行者と観光事業者双方を支援する取り組みとして日本向けにもライブ配信を実施した。昨年7月の実施時には、日本の宿泊施設を約40分間で2万2912室の成約、宿泊バウチャーの取扱高は3.9億円にのぼったという。また、ライブでは旅行商品だけでなく、ECによる物販も併催し、中国で人気の「洋服の青山」と協業した。唐澤氏は「以前のような爆買ではなく、日用品や好きなものを旅先で購入する傾向は強い」と中国人の購買傾向を説明し、旅行と直接関係のない商品の販売も、旅行意欲を刺激する効果があると指摘した。

さらに唐澤氏は、ライブ配信の強みについて、「TVショッピングはTVの前にいる必要があるが、ライブ配信はスマホがあれば場所にとらわれない。ライブ配信は、オンラインでその場で購入することも可能。また、リアルタイムのため、視聴者は直接質問することもでき、事業者ににとってはQ&Aや『いいね』などで視聴者の反応を直接把握することができる」と説明した。

そのうえで、中国人向けのオンラインコンテンツについて、「中国人は情報収集もPCではせず、すべてスマホ。それに合わせたコンテンツを開発しないと拾ってもらえないだろう」と話した。

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