世界の若者旅(バックパッカー)の新潮流、昔とは違い十分な旅行予算、先入観を捨て再評価を【外電】

バックパッカーが多かった旅先の中には、パンデミック後のターゲットを富裕層に変えるところもあるが、アウトドア・ツーリズムにおいて、こうした客層が消滅した訳ではない。逆にコロナ禍によって進化し、新しいマーケットとなっている――。

何十年もの間、バックパックを背負い、地球の隅々まで出かけていく旅行者たちが途切れることはなかった。東南アジア旅行の定番とも言えるバナナパンケーキ・トレイルを辿ったり、途中で紛失した旅行日記から様々なドラマが生まれたり。多くの旅行者にとって、人生に大きな影響を及ぼす体験となってきた。

だがパンデミックによって、今後バックパッカーの旅がどうなるのか、不安もある。ニュージーランドを始めとするバックパッカーに人気のデスティネーションが、もっとハイエンドな富裕層の開拓に力を入れるようになるかもしれない。

バックパッカーの姿が消えてしまった影響も懸念される。例えば、こうした若者向けに安価な航空券を提供してきた航空会社が便数を減らす可能性もある。少しでも赤字を抑えなければならないからだ。

だが、そんな不安は杞憂に終わるだろう。「アウトドア・ツーリズム」は、ソーシャルディスタンスを確保した上で楽しめるアクティビティを求める旅行者から、今も大人気だ。

世界青年学生教育旅行連盟(WYSETC)のリサーチ&教育マネジャー、ウェンディ・モリル氏は「若者が旅行しなくなるなんてあり得ない」と話す。ちなみに「若者の旅行」というのは「バックパッカー旅行」を指し、「オーストラリアやニュージーランドのブランディング手法では、30~35歳あるいはそれ以下で、ワーキングホリデー枠を活用する層」を示すという。

東南アジア旅行のオンライン・コミュニティ、Southeast Asia Backpackerを手掛けるニッキー・スコット氏も、モリル氏の意見を支持する。「もちろんパンデミックの影響でバックパッカーの旅行も変わるだろう。とはいえ、最も回復が早い旅行形態の一つになるのではないか」との見方だ。

バックパック旅行はどうなるのか

コロナ禍で消滅しないと仮定して、では、これからどう変わっていくのか?

意外かもしれないが、パンデミックにより、むしろバックパッカーは増える可能性が高い。「旅行の制限が解除されたら、待ちかねていた人たちが一斉に動き出し、旅行ブームになるはず」というのがスコット氏の予想だ。「この自粛期間に、自宅からラップトップで効率的に仕事できると実感した人は多い。移動しながらだって、同じことができるはずだ」。

「自宅勤務」が当たり前のこととして定着するなか、バックパックを背負った「デジタルノマド」(※)になる旅行者は増えていくとスコット氏は話す。
(※「デジタルノマド」とは、パソコンを持参して仕事しながら旅行するライフスタイルのことを指す。ノマドは「遊牧民」という意味)。

モリル氏も、こうした新しい客層について、ビジネスになるかどうか「大急ぎで検討しているところは多い」と付け加える。

バックパッカーたちのデジタルノマド化が進むかどうかは別にしても、DMOの立場であれば、この市場を長期的に活性化するために必要な施策は検討するべきだ。(ツーリズム・リサーチ・オーストラリアによるバックパッカーの定義は、「少なくとも1泊、バックパッカー向けの宿またはホステルに滞在する」人のこと)

なぜなら、まず一つ目の理由として、若年層の旅行マーケットは非常に潤沢だからだ。ニュージーランドのバックパッカーおよびアドベンチャー旅行業界団体、バックパッカー・ユース・アドベンチャー・ツーリズム協会(BYATA)によると、国内における同マーケット(レベッカ・アナンBYATAジェネラルマネジャーによると18~35歳の旅行者)は年間15億ドル。さらにタスマン海峡を越えてオーストラリアを訪れた若い旅行者は、2019年実績で240万人。訪問客による消費額は全体の45%を占める200億ドルとなっている。


受け入れ地域コミュニティにもたらす恩恵も

また、バックパッカー旅行には、地域コミュニティを活性化するという効果もある。ある調査結果によると、バックパッカーは、平均的な旅行者に比べて(外資や大手企業より)地域のローカル事業者のサービスを利用する傾向が強いので、受け入れ国や地域が直接、経済的なメリットを享受できる。

BYATAのアナン氏は「バックパッカー旅行は、間違いなくニュージーランドにもたらす実質的な利益が大きい。特定分野だけに偏らないからだ」と指摘する。「ニュージーランドには、旅行関連ビジネスで生計をたてる中小事業者が多いので、旅行者が国中あちこちを訪れ、滞在し、現地でものを購入することは、国全体の経済に影響する」。

ただし、各地を訪問して経済効果をもたらす前に、いくつかのハードルも抱えている。まずワクチン接種だ。「航空便を利用する前にコロナのワクチンが義務付けられる可能性は非常に高いし、コロナ感染に備えて旅行保険に加入する必要もある」とスコット氏は指摘。コロナ以前のように手軽に国境を超えることができなくなるとも危惧している。

それでも世界各地を訪ね歩くことが、それほど難しくなることはないだろう。「欧州から東南アジアへの航空運賃が、もし倍に値上がりしたとしても(今のところそんな兆候は見られないが)、西から東へ、バックパッカーは旅するだろう。航空券が高くなったら、一回の渡航での滞在を長くすることはあるかもしれない。だが運賃が高いことが理由で、アジア旅行をやめることはないと思う」(スコット氏)。

また同氏は、あと数か月間、自宅で過ごすことで旅費をさらに貯めようという人もいると見ている。「旅行保険、航空運賃、加えてコロナ検査もあり、以前よりも旅費は高くなる。宿泊客の人数が以前より減れば、昔と同じ薄利多売では成り立たない。ホステルや地元のツアー料金も値上げになるだろう」。

欧米のバックパッカーが戻らない場合も想定

パンデミック以前のように、大勢の欧米バックパッカーが東南アジアを訪れなくなったとしても、受け入れ地域のDMOはそこまで落胆しないだろう。なぜなら中国や日本のバックパッカーがいるからだ。「地域側も、欧米客が戻ってくるまでの間、近隣アジア市場をターゲットにするのではないか」とスコット氏は予測する。「トラベル・バブルや特別なビザ協定により、こうした動きが先行する。アジアの大半の地域では、欧米よりも感染拡大が抑えられているため、まずはアジア各国が相互の観光プロモーションに着手するのではないか。感染者数を実質ゼロに抑えられている国から動き出すだろう」。

パンデミックの間、デスティネーション・マーケティング活動は、振り出しに戻ることになったが、ニュージーランドも同じだ。「先ごろニュージーランド観光局は、フォーカス分野を再定義した。国土と国民を豊かにしてくれるツーリズムに力を入れる。具体的には自然、経済、社会、そして文化の4つの面で充実をもたらすものに注力する」というのが同局の方針だ。

同様の変化が、東南アジアでも起きることが予想される。「世界各地でロックダウンが実施されていたとき、有名観光地の多くは空っぽになってしまったが、美しい景勝地を汚す混雑が減り、地元の人々がそのメリットを実感する機会にもなった。観光当局の多くは、持続可能なツーリズムをプロモーションし、本来の自然の魅力を取り戻すことにフォーカスしている」(スコット氏)。

こうした機運が高まるなか、バックパッカーの間ではお馴染みのフルムーン・パーティー(満月の夜に踊り明かすイベント。何千人もが騒ぎ、アルコールやドラッグまみれとの懸念も)などの催しは、消えゆくのだろうか。「タイのパンガン島の人々がどう考えているのか、私には何とも言えない。ただパンデミックが収束したら、フルムーン・パーティーの代わりに、もう少し健康的な楽しみ方を模索するのではないか。島にやってくる旅行者の人数が減ったとしても、滞在が長くなり、消費額も増える」。

一方、ニュージーランドでは「バックパッカー向けの体験全般を向上するにはどうしたらよいか、観光のステークホルダーたちが考えているところだ」(アナン氏)。「文化と持続可能性の両側面から、どんな商品の選択肢があったらよいのか、もっと価値ある体験を提供できないかを検討している」。

満足度向上を目指すためには、問題の芽をつぼみのうちに摘み取ることが大切だ。こうしたなか、ニュージーランドのスチュアート・ナッシュ観光大臣が、海外からの旅行者にワゴン車を貸す場合、トイレ付の車両に限定するべきだと話し、話題になった。大臣は「ドライバーや同乗者がトイレに行きたくなったらどうするか。ご存じの通り、車を道路に停めて、水路で用を足してしまう」。

この問題のポイントについて、アナン氏は「要は、ニュージーランドでキャンプする人や、各地方を訪れたり、キャンプする海外からの旅行者への啓蒙活動をどうするか。観光業界には今もキャンプ用ワゴン車に関する規則があるので、これを必要に応じて見直すのが我々の仕事だ。トイレ付の車に乗っていないキャンパーを排除しても解決にならない。我々の側から教育し、規則を整え、必要な設備を用意すること。それがトラブル防止につながる」。


「バジェット・トラベラー」という先入観

若年層の旅行マーケットについての先入観を捨て、再評価することも必要だ。「オーストラリアやニュージーランドでは、ユーストラベルや特に35歳以下の客層について、限られた予算しかない旅行者だという旅行業界の思い込みを払拭し、実際はそうではないことが理解されるよう努力を重ねてきた」とモリル氏は話す。「こうした若者は、長期滞在する場合もあり、週末だけ、あるいは1週間ほどのヨーロッパ旅行に行く客層より、実は消費額が大きくなる」。

現代のバックパッカーは十分な予算を持っていて、昔とは異なる。「かつてはケチ臭くて、わずかな旅費で暮らすヒッピーのようなイメージだったが、そうではなくなって久しい」とスコット氏。「最近のバックパッカーはお金を持っている上、他の旅行者にはない『時間』がたっぷりある。平均的な観光客とは違い、バックパッカーは訪問先の国に3カ月ぐらい滞在するので、2週間の自主隔離期間も、それほど大きな負担にはならない」。

ひとつのデスティネーションに長く滞在する旅行者という存在は、DMOにとって、これから目指すべき新境地を示すものと言える。モリル氏は「ニュージーランドでは、観光業界が海外の学生マーケットの開拓に取り組んでいる」と話し、「一つのデスティネーションに長く滞在し、新しいことを学びたいという旅行者ニーズがあるからで、パンデミック以前から、こうした層に対するアプローチは始まっていた」。同国のこうした戦略は、アムステルダムなどの都市で見られるような、滞在期間が短く、迷惑だと敬遠されがちな学生グループに向けたものではない。

「迷惑」。確かにバックパッカーがそう評される事例もあるだろう。だが彼らの姿を懐かしむ地域もたくさんある。心配無用、彼らは必ず戻ってくる。

※この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Backpacker Tourism Faces a Changing Landscape Post-Pandemic

著者:ラシャード・ジョーダン(Rashaad Jorden)、Skift

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