2021年3月初旬、グーグルがそれまで有料広告扱いだったホテル予約リンクの掲載を無料化したことで、ホテル予約のメタサーチ界隈は大騒ぎになった。巨大な影響力を誇るグーグルに無料で予約リンクを掲載できるのだから朗報だ。
一方で、でも、なぜ? という疑問も浮かんでくる。世界の二大OTAは、グーグル掲載広告にそれぞれ年間60億ドル(約6600億円)前後を費やしてきた。グーグルがこれを手放すとは考えられない。
当社Freetobookは、2年前からグーグル・ホテルアドのプロバイダーであり、広告管理も手掛けているため、その方向性や強み弱みについて、多少の知見がある。特にメタサーチ分野では、主にトリップアドバイザーなどのライバルの動きを意識していることも考えられる。
今回、無料化された予約リンクの表示枠は、ページ上部の広告枠のすぐ下に位置。表示されるリストの順位の決まり方は、いわゆる「ナチュラルリスティング(オーガニックリスティング)」方式。ユーザーが頻繁に選択するもの(情報が充実、価格が安いなど)が上位になる。
広告ではないため、グーグルにフィードを提供しているサプライヤーなら、誰でも表示される可能性があるものの、掲載順位を決めるアルゴリズムの詳細は、グーグル以外には分からない。ただし、広告などグーグルとの取引関係が一切、影響しないことは確かだ。
無料掲載される「ナチュラルな」リスティング広告のメリットは?
グーグルの世界には、ユーザーの嗜好から導き出されたリスティングと、有料広告クライアントのためのリスティングの2種類がある。同社のビジネスモデルの中核は、ユーザーによるクリック率が最も高いところ、つまりページ上部の広告枠を巡る競争入札と、ユーザーが求めるコンテンツを提供し、満足度を高めることのバランスをどうとるかだ。
おそらく利用者の10%ぐらいが、掲載無料となったナチュラルリスティングのリンク先へと流れていくのではないか。この数字は、実際の予約数からざっと推計したものだが、ユーザー主導の部分と、広告ビジネスのバランスからも、理に叶った比率と言える。
少ないと思うかもしれないが、宿泊施設にとっては、十分に魅了的だ。グーグルに出稿していないホテルや宿泊施設はたくさんある。こうした企業にとって、この10%はまったくの新規顧客であり、しかもコストはゼロで開拓できる。
OTAから得ていた60億ドルの広告料の一部を失うかわりに、顧客に提供する内容を大幅に充実させることができるし、新規の広告クライアント発掘にもつながる。決して悪い投資ではない。さらに無料掲載リストを管理しているのはグーグル自身なので、これまで同様、状況に応じて表示方法や事業構造を変えることもできる。
一方、宿泊施設にとっては、直営の公式サイトが直接ユーザーの目にふれる機会が増えるようになり、OTAへの依存を減らすことができるかもしれない。一般的に、価格など諸条件がすべて同じなら、消費者はホテル直営サイトを選ぶ傾向があるため、本来なら、表示される位置は、ホテル公式サイトが最上位になるはずだ。
ただし、OTAの方が競争力のある価格を掲載するなら、OTAがホテル公式サイトよりも上に表示される可能性が極めて高くなる。こうした状況を避け、リストの最上位に表示されるためのアドバイスは以下の通りだ。
ナチュラルリスティングでトップになるためのヒント
- ベストレートは直販で扱うこと
- 直接予約分の在庫は、最優先で確保しておく
- OTAのバーチャルカードによる決済は受け付けないこと。OTAによる直販レ―ト以下の値付け可能になってしまう。
- 自施設のビジネスプロフィールを表示するための「Googleマイビジネス」の内容を充実させること。レビューや写真、アメニティ情報をできる限り増やし、他と差別化しよう。直営サイトが最上位に表示されない理由は、こうした簡単なことを放置しているのが一因だ
価格をきちんと管理できているなら、これはホテルが直販を増やす大きなチャンスだ。今やOTAとまったく取引していない、という宿泊施設は少数派だが、もしそうであれば、直販を巡るやっかいな競争がなく、商機はさらに大きい。
なぜ今、グーグルは無料化に動いたのか
充分な理由がいくつも挙げられる。まずグーグルは、ユーザー体験の満足度を常に重視している。グーグル検索をなぜ利用するのかと言えば、それはユーザーにとって最適な検索エンジンだからだ。同様に、予約を入れる際も、グーグルのメタサーチを選んでもらいたいと考えている。そのためには、最も競争力ある価格と在庫が見つかるメタサーチになる必要がある。
- グーグルがベストな価格と在庫情報を表示するためには、世界中すべての宿泊施設がグーグルにデータ提供すること、さらに一番いい商品も提供してくれることが不可欠になる。今、起きていることは、世界中の宿泊施設を掲載し、予約できるようにする陣取り合戦との見方もできる。
- グーグルのユーザーが求めているのは「ベストな」価格だ。だが広告スポンサーのリストでは、価格と表示順位は無関係だ。入札額が最高だった企業が最上位に表示されており、ユーザー最優先のやり方とは言えない。お買い得情報は、OTAリストの下位に紛れ込んでいるので、ユーザーの満足度は低くなる。こうした問題を解決するのが今回の新展開で、一番人気が高いリンク(価格がベストというケースが多い)が上位に表示されるようになった。
- 新しい広告クライアントを獲得するための布石。グーグルへの出稿は入札形式なので、入札企業が多ければ多いほど、グーグルにとってありがたい。有料広告リンクをクリックする90%のユーザーに関心をもってもらう導入段階として、まずは無料で獲得できる10%のユーザーとの窓口をお試しあれ、という訳だ。
- 広告に影響されていない、正真正銘のリストを見ることが、ユーザー側の究極の願望だ。一番人気のリンク先が分かるように、広告枠は別になっている方がよい。
- おそらくグーグルは、大手チェーン系ホテルに加え、独立系の中小ホテル(いわゆるロングテール)もすべて網羅することが、予約数の拡大につながると理解しているのではないか。利用者が選択肢を求めているからこそ、OTA各社もあらゆる施設を揃えようとしている。
- レビューやコンテンツの提供が、グーグルにとって、以前より重要な課題になりつつある。宿泊施設を利用した人によるレビューのすぐ隣に、客室の在庫情報があれば、非常にスマートだ。グーグルもフェイスブックも、レビュー収集に力を入れるようになっている。この問題については、別途、取り上げたい。
サプライヤー各社が顧客獲得にかける熱意と、消費者側の要望とを上手にやりくりするのはグーグルの得意技だが、メタサーチについては、消費者からの支持が成功に不可欠だということも理解している。最も信頼できるホンモノだと認めてもらうには、ナチュラルなリストを提供する必要があり、その最上位に冠するのは、消費者から選ばれたリンク先であるべきだ。
グーグルには、最高の技術力がある。広告入札ではどこよりも優れた計算力を駆使している。間もなく、価格や客室在庫の品揃え、利用者のレビューやその他の各種コンテンツも充実し、ホテルや旅行関連サービスの予約で大いに利用されるようになるだろう。
もし私がレビューサイトやOTAの運営者なら、売上を維持するための対策を真剣に考えるところだ。宿泊施設であれば、無料になった機会を活かしつつ、グーグルとOTAと大手レビューサイト、それぞれの力量を見極めようと考えるだろう。
追伸:グーグルが挑戦し、成功を収めた領域には、フェイスブックやアマゾンも関心を強めるのがいつものパターンだということも付け加えておく。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Google’s free booking links for hotels – too good to be true?
著者:クレイグ・スチュアート氏(Craig Stewart)、Freetobook共同ディレクター