モバイルの位置情報をもとに情報配信をおこなうロケーションマッピングとターゲティング機能に、別れを告げる時が来た――。
いずれもiPhoneやiPad、その他のMacデバイスに搭載されている機能だ。しかしアップル社は、次期リリースの新しいiOS15で仕様を一部変更する計画であることを明らかにした。
新たなプライバシー保護機能、「iCloudプライベートリレー」をオンにすると、ブラウザ「Safari(サファリ)」を使ってネットサーフィンしているユーザーのIPアドレスは隠されることになる。そのため、これまでは多くの観光地域づくり法人(DMO=Destination Management Organization)が、IPアドレスを使って旅行者の位置情報を把握してターゲット選定に活用していたが、今後は難しくなるだろう。
アップルの仕様変更で、IPアドレスに従来ほどの価値はなくなるということだ。
位置情報に応じて情報配信などができる「ロケーションターゲティング」機能自体は、サファリ上でも引き続き可能だが、追跡できるIPデータの数や正確性には限界が出てくる。
DMOにとっては、マーケティング活動への影響が大きく、これまでのやり方を見直すべきタイミングにある。例えば、隣の州からやってくる旅行者に狙いを定めたとしても、相手がMacOS12またはiOS15ユーザーだった場合、トラッキングできなくなってしまう。
さらに、ターゲティング機能には、この先も様々な見直しが加えられる見通し。グーグルChrome(クローム)など他のブラウザからも、同じような発表がありそうだ。これからの戦略立案に際しては、IPアドレスに頼りすぎないことが、賢い未来への投資になる。
IPアドレスの先を見据えて
IPアドレスによる位置情報を使ったターゲティングは、多くのDMOやマーケターから支持されており、その理由はたくさんある。
IPアドレスはアクセスしやすいうえ、スケーラビリティも非常に高い。国内でも海外でも、あらゆる相手が対象になり、使い勝手もよい。
ただし、正確性には欠けるというのも事実だ。ある調査によると、IPアドレスが示す所在位置データの精度は、町名の識別では50~70%、地域や州になると、もう少し上回る程度だ。数字の真ん中をとり、だいたい66%と仮定するなら、ターゲティング相手の3人に1人は、想定エリアの対象外にいることになる。つまり予算の3分の1が無駄になってしまう。
こうしたIPアドレスの真実は、これまで見過ごされることが多かったが、今回、アップルがIPアドレスへの制限を厳しくするのを機に、DMOとしてもより精度の高い、別のアプローチ方法に目を向けてみてはどうだろう。選択肢の一つとしてお勧めしたいのが、「許諾を得た位置データ(consented location data)」だ。分かりやすく言うなら「旅行者が認知しており、その利用をDMOに許可した位置データ」だ。
ここで最も注目するべきポイントは、相手の同意を得てデータを取得することが、将来的な訪問客予備軍との間に、本当の意味で一対一の関係を築くことにつながるという点。幸い、昨今の消費者は、サービスの利用規約が明示されていて、なおかつデリバリーなど位置情報が必要なサービスである場合など、状況に応じて、位置情報の提供に喜んで応じてくれる。その結果、DMOは(データ利用を認められた)直接の受益者となることができる。
「許諾を得たデータ」を収集するという選択肢
旅行者から許諾を得た位置データを集めるためには、やるべきことがいくつかある。まず、DMO側には、今までとは違う戦略やパートナーシップが必要になる。DMOが直接、旅行者にデータ提供をお願いするだけでなく、すでにこうしたデータ収集に取り組んでいる組織や事業者とも提携するべきだ。
欧州のGDPRや米カリフォルニア州のCCPA、その他、各国の州などがそれぞれ定めたプライバシー保護法が続々と整うなか、各地のDMO側も、訪問客のインサイト収集時には相手の許諾をきちんと確認するようになった。せっかくなので、収集するデータの中に、位置情報も加えてはどうだろう。例えば、ウェブサイトで情報収集している人に、当該地域を訪問予定の人を対象とした特別オファーはいかが? と聞いてみよう。
DMOが自らデータ収集するのはもちろんだが、IPアドレス情報を失った分を補い、十分な数を確保するためには、パートナーと手を組むことも必要になる。早めに着手することが秘訣で、何らかの理由でDMOが直接リーチできる旅行者数が伸び悩む前に、一定以上の数を確保したいところだ。
また、DMOには、ウェブサイトを見ている旅行者の動きをグラフ化し、どのチャネルやリソースへのアクセスが多いのか把握することも、ぜひやってみてほしい。最初に「基本データ」を作成し、デスティネーションにやってきた旅行者像、旅のスタート地点と最終地点を把握しよう(たいていの場合、フライトやホテル予約データが活用できる)。
次に旅行者がどこからやってきたのか、自宅の場所などを加える。そして最後に、現地滞在中の行動や嗜好に関する重要な情報を加えて、肉付けしていく。例えばコンサート、博物館、ショッピング、レストランなど。
また、新しい情報源を探す前に、DMOがすでにアクセスしているところや、地域内に蓄積されているデータもチェックしてみよう。
地域内に大型の観光アトラクション施設があるなら、こうしたところで、すでに位置データを収集している場合もある。一方、訪問客のプロフィールがバラバラで、位置データを収集しているところもない場合は、データ収集をおこなうコンソーシアムを組織したり、パートナーシップを組むことが、問題解決につながるかもしれない。
最後に、データの品質向上やスケール拡大が期待できるパートナーを探して、情報が足りない部分を埋めていく。旅行者の動きをまとめたグラフを参考にしながら、重要な場所、重要なチャネルで、旅行者に効率的にリーチするためには、どのようなパートナーが必要なのか考える。
「許諾を得た位置データ」を構築するには、時間も手間もかかるが、その価値は十分にある。DMOが、地域への訪問客とそのデータを直接、管理できるようになれば、もっと正確に管理できるようになり、キャンペーンの成果もさらに向上するだろう。
長い道のりではあるが、DMOが今日からすぐに着手できることであり、一度に全部、やる必要もない。位置データ収集に向けて、小さな取り組みを重ねていくことが、やがて大きな差を生むことになる。
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営するニュースメディア「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:WHAT DESTINATIONS CAN DO ABOUT APPLE'S LOCATION DATA OVERHAUL
著者:ニコライ・ショルツ氏(Nikolai Sholz) ADARA社 プロダクトマネジメント担当ディレクター