グーグル検索データから見る旅行トレンドを聞いてきた、日本でも「サステナビリティ」検索が急伸

2022年1月、2年ぶりにハイブリッドで開催された「WiT JAPAN & North Asia 2022」では、グーグルのAPACトラベル&バーティカル・サーチのセクターリードであるハーマイオニー・ジョイ氏が登壇。2022年の旅行市場を考察した。グーグル検索データから見える2021年の旅行トレンドの変化としてあげたのは、「ウェルビーイング」「人とのつながり」「デジタル化」の3つ。それらを、パンデミックの後に現れる「エンデミック・トラベラー(流行の旅行者)」として旅行者の動きを予測した。

トラベルボイスでは、ジョイ氏に追加取材。さらに、2021年の検索傾向を深掘りし、アフターコロナの流行トレンドを探ってみた。

長期化、ラグジュアリー、厳選される旅行先もトレンドに

まず、WiTを振り返る。Googleの検索結果から、アジア太平洋では「セルフケア」関連の検索が前年比で70%増、スポーツ関連は130%増、ペット関連が35%増となっていることを背景に、ジョイ氏は「ウェルビーイング」に対する関心の高まりを指摘した。

「人とのつながり」については、オンラインコンサートなど、リアルをバーチャルで擬似体験するコンテンツの検索が520%増と急増していることから、「人間的なつながりを求める欲求は引き続き高い」として、旅行事業者は顧客とのパーソナライズされた関係性を高めていく必要性に触れた。

「デジタル化」については、マレーシア、オーストラリア、インドネシア、シンガポールでデジタルウォレットやデジタル決済に関する検索が最大170%増となっており、日本では消費行動の多くがオンラインに移行していることなどから、「2022年もデジタルファーストのライフスタイルはさらに拡大する」とした。

このほか、ジョイ氏は「年間の旅行頻度は減るものの、滞在は長期化し、ラグジュアリーで利便性の高い旅行が好まれる」と予測した。海外旅行の検索のうち87%が5日以上の旅行。日本でも81%となり、2019年の平均が3.8日だったことから、1回の旅行の長期化が見込まれる。

また、訪問国の数については、アジア太平洋全体では「できるだけ多くの国」が20%に対して「1~2カ国」が57%と約3倍の開きがあった。日本だけで見ると、この差は9倍にもなることから、「日本人旅行者はこれまでよりも旅行先を厳選し、長期滞在する傾向が強まるのではないか」と見通した。

検索データからラグジュアリートラベルの傾向も見て取れる。日本では、1泊300ドル(約3万5000円)以上の宿泊施設の検査が2019年比で125%も増加。ジョイ氏は「コロナ後の最初の旅行として、贅沢な旅をしたい気持ちの表れではないか」と指摘した。

WiTでEndemic Travelerについて説明するジョイ氏追加取材で聞いてみた、「サステナビリティ」の検索動向

アフターコロナのキーワードのひとつとして、旅行業界でも「サステナビリティ」が挙げられている。その傾向は、グーグルの検索からもはっきり見て取れる。

ジョイ氏によると、2021年の日本における「サステナビリティ」の検索は、前年比33%増、2019年比89%増となり、「カーボンニュートラル」に関しては、前年比で実に1950%増と急増。改めて、SDGsや気候変動などへの関心の高さが伺える結果となった。

また、日本を含むアジア太平洋全体での「電気自動車」や「電動バイク」の検索は前年比で約70%増加するなど、移動分野でも環境への関心は広がりを見せている。

ジョイ氏は「今後、サステナビリティは旅行の決定に大きな影響を与えるのは間違いない」と指摘。グーグルも、ホテル検索では宿泊施設のサステナビリティの取り組み情報を掲載し、フライト検索では、検索結果にフライトの二酸化炭素排出量を反映させるなど、消費者の関心に応えるツールを導入していると付け加えた。

さらに、コロナ禍では、密が避けられるアウトドアアクティビティへの関心が集まったが、その傾向も検索データから見て取れる。日本では、2021年の「キャンプ」の検索が2019年比で38%増。「自然」関連の検索も30%以上伸びた。

このほか、パンデミックを機にワーケーションに関する検索も世界的に増加。日本を含めたアジア太平洋全体でも伸びている。ジョイ氏によると、日本だけでなく、フィリピン、タイなどでも政府が地域活性化の政策としてワーケーションを推進していることが背景にあるようだ。

旅行事業者はファーストパーティデータの活用を

ジョイ氏は、今後の旅行市場におけるデータマーケティングについても言及。ファーストパーティデータの重要性を指摘し、「それを持ち、理解することが非常に重要になってくる」と強調した。グーグルが、ボストン・コンサルティング・グループと行った調査によると、自社で収集するユーザーのデータであるファーストパーティデータをマーケテイングに活用している企業は、最大2.9倍の増収を達成し、1.5倍のコスト削減に成功しているという。

旅行業界では特に、ファーストパーティデータの重要性は増すという。その理由のひとつは、旅行事業者は国境を越えたビジネスを展開するため、それぞれの国のプライバシー規制を遵守する必要があることから、サードパーティ・クッキー(第三者によるデータ)の有効性に疑問が出てしまうためだ。また、コロナ禍のこの2年、さまざまな入国規制なども含めて、旅行形態は複雑化しているため、パーソナライゼーションや顧客体験価値の向上がこれまで以上に大切になっている点もファーストパーティデータが必要とされる理由だとする。

そのうえで、ジョイ氏は、ファーストパーティデータを効果的に活用している企業として、スーパーアプリの「グラブ(Grab)」を挙げた。グラブは、フードデリバリーで得たファーストパーティデータを食品配達サービスの構築に活用している。

また、フードデリバリーのデータに基づいて、プラットフォーム上で家庭では料理しずらい少し高級な料理を提案することでパーソナライゼーションを進めている。このサービスを受けるうえで、大部分のユーザーは個人情報の共有を厭わないという。

グラブは、アプリ上でさまざまな独自調査を実施することでファーストパーティデータを取得。例えば、「安心して生活するためには、どのような衛生対策が必要か?」などだ。こうしたタイムリーで即効性のあるフィードバックによって、より機動的なサービス展開が可能になっているという。

ジョイ氏は、ファーストパーティデータの有益性は理解されているものの、実際に活用できる企業はまだ少ないと指摘する。そのうえで、「企業は、顧客に対してデータを提供してもらう代わりに何らかの価値を返礼することで、データ取得のための動線を構築する必要がある」と話す。また、データを洞察し、それを実際の戦略に落とし込むためのテック人材や、テスト、学習、改良、実証のサイクルを反復する仕組みも必要になると提言した。

※ドル円換算は1ドル115円でトラベルボイス編集部が算出

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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