⽇本スポーツ振興センター(JSC)は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技⼤会のメインスタジアムとして使⽤された国⽴競技場で、⼤会のレガシーが体験できる「国⽴競技場スタジアムツアー」を開催している。新型コロナウィルスの影響によって無観客開催となった東京2020。競技場のさまざまなスポットが一般公開されるこのツアーは、新たな東京の観光コンテンツになりうるのか。プレスツアーに参加して、その可能性を探ってみた。
ツアーは、国立競技場モニュメントが立つEゲートから入場。ゲートを抜けると、1階コンコースからは、鮮やかな芝生のフィールドと茶褐色のトラックとともに、無観客開催だったためにテレビ観戦では余計に目立ったモザイク状の座席が目の前に広がった。この座席のおかげで「無観客感は多少は弱まった」という声も聞かれたが、確かに空席にも関わらず賑やかな景色に映る。
このツアーの特徴のひとつが、そのままスタンドからトラック&フィールドに下り立つことができることだ。世界各国のアスリートが実際に競った場所から見上げるスタンドは、見下ろす景色とは異なり、競技に臨むアストリートの緊張感が伝わってくるような気がしてくる。トラックの上を歩くと、心地よい柔らかさが足に伝わってきた。
フィールドでは、フォトスポットとして、実際に使われたパラリンピック表彰台、スターティングブロック、ハードルなどが設置されている。また、メダリストがカメラ画面にサインをするビクトリーサインを体験できるのも、このツアーの楽しみのひとつだ。カメラに設置されたアクリル板に自分のサインを描き、その様子を音楽ともに動画撮影。そのデータをその場でQRコードからダウンロードすることができる。
次に向かうのが、スタジアムのB2階にある「フラッシュ・インタビュー・ゾーン」。実際に選手が試合後にインタビューを受けた場所だ。天井には、隈研吾氏デザインの行燈をイメージした照明が設置。インタビューパネルのほか、聖火リレートーチ、オリンピック表彰台などのフォトスポットもある。大会レガシーと一緒に写真を撮れば、自身のレガシーにもなるだろう。
この階にある「選手ロッカールーム」の見学もツアーに組み込まれている。競技場の外観と同様に、木の質感を活かした温かみのある空間。普段は選手以外は立ち入ることができないので、貴重な体験だ。
インタビュー・ゾーンの外にあるリンクロードには、大会に参加したアストリート約300人のサインが書かれた「サインウォール」がある。男子400メートルリレーに出場した桐生祥秀選手、多田秀平選手、山縣亮太選手などのサインもあり、殴り書きのような筆跡に生々しさを感じる。
最後は、エレベーターで4階の展望エリアへ。大型ビジョンの下からは、競技場が一望。約6万8000席の座席、鉄骨と木材を組み合わせたハイブリッド構造の大屋根が眼前に広がり、そのスケール感とユニークなデザインに、アングルを変えながら、カメラのシャッターを何度も切ってしまった。
ツアーの購入は、日時指定の事前予約優先制。予約はインターネットで。毎月、中旬頃に翌月1ヶ月分の販売を始める。料金は大人1400円、高校生以下800円。1回の所要時間は約60分。ツアーにはガイドはつかないが、各所で設置されたパネルにQRコードがついており、それを読み込めば音声ガイドを聞くことが可能だ。
日本のスポーツのメッカになるであろう国立競技場。旧国立競技場がそうであったように、これから、さまざまな名勝負が繰り広げられることで、競技場の価値は高まり、レガシーが積み重なることで、競技場という枠を超えた存在になっていくのだろう。
トラベルジャーナリスト 山田友樹