今後の海外旅行需要の回復を見通して、今年3月末からの夏期スケジュールで日本発着便を増やしている外資系航空会社は多い。コロナ前にはまだ程遠いものの、航空データからも各方面の座席供給量は前年、前々年を大きく上回っている。しかし、依然として半鎖国状態の日本では先行きに不透明感が残っているのも事実だ。航空データ分析を提供するOAGは、日本の海外旅行市場や訪日市場の回復をどのように展望しているのか。同社セールスマネージャーの山本洋志氏に聞いてみた。
今夏に向けて急増する日本発着の座席数
欧米や東南アジアでは入国規制の緩和が進み、コロナ前の状況に戻りつつある一方、日本を含めた東アジアは依然として厳しい措置を継続している。特に、ゼロコロナ政策を続けている中国の国境開放が見通せないなか、東アジアの市場規模を考えたとき、多くの海外航空会社(外航)が水際対策が段階的ながらも進む日本に目を向けている。
山本氏は「(OAGに登録された)外航の夏期スケジュールを見ると、それがわかる。今夏の日本への座席供給量を増やしている。日本への期待は非常に高いと見ていい」と話す。
OAGの座席数データを見ると、各方面とも日本発の座席は春から夏にかけて増加している。東南アジア路線では、3月の約26万席から7月には約45万席に増え、10月には約51万席とほぼ倍増。前年比でも月によっては2倍以上の伸びになっている。
北米路線でも、3月から右肩上がり。8月には3月の2.3倍の約45万年8000席に急増、コロナ前の2019年8月の約58万7000席に迫っている。オセアニア/太平洋路線も同様だ。5月はまだ前年同月とほぼ同じ約2万9000席だが、その後倍々で増加し、8月には約14万1000席となり、2019年同月の7割ほどまで回復する。
一方で、状況が少し異なるのが欧州路線だ。
他方面と同様に、夏に向けて増加はしているものの、その伸びは緩やかで、2019年比で5割を切る月も多い。欧州最大の懸念であるウクライナ危機は、夏期スケジュール発表後のことだが、危機が長期化すれば、需要の下振れが予想され、燃料費の高騰、ルート変更によるコスト高、長時間飛行のための機材繰りなどからも、山本氏は「欧州路線の供給には今後さらに影響が出てくるかもしれない。欧州については、海外旅行回復に向けた傾向とは別の話として考えたほうがいい」と話す。
日本の地方空港、復活は中国次第
供給量回復の動きは、羽田、成田、関西、名古屋、福岡などの主要国際空港で見られ、この5空港では今夏にはコロナ前の7割ほどに回復すると期待されている。一方、厳しい状況が続くと予想されるのが地方空港だ。
コロナ前、地方空港のほとんどが中国、韓国、台湾、香港の東アジアからのインバウンド需要に支えられていた。韓国では緩和は進むものの、現状でも世界で最も厳しい旅行規制を続けている国・地域ばかり。「現実的に、中国が国境を開かない限り、地方空港での国際線回復は難しい」(山本氏)。
まず台湾と韓国からの路線復活が期待されるが、山本氏は「その場合、鍵となってくるのがPCR検査体制」だと見ている。現状の入国規制から、各自治体がその大量の検査体制を構築できるのかどうか。山本氏は「今夏までにできなければ、路線の回復基調は来春に遅れる可能性がある」と話し、地方空港の復活は相手国の水際対策への対応次第との考えを示した。
さらに、複便しても、航空会社にかかるコスト負担も大きな懸念材料。地方空港に乗り入れていた航空会社はLCCが多く、そのコストパフォーマンスを求める顧客層がコスト高にどのような反応を示すのか。山本氏は「国境が開いた時点では、需要は爆発するだろう。しかし、コストが上がれば、LCCも戦略を見直さざるを得なくなるのではないか」と予想する。
また、地方空港の課題として、山本氏は「海外の航空会社から、地方空港の運営体制が見えにくい」点を指摘する。自治体の人事移動によって担当者が変わり、空港の地上ハンドリングなど具体的なオペレーション計画が見通せないため、「飛ばす決断ができない」という。特に現在のような危機的状況で、自治体の動きは遅い。
その背景として、山本氏は「日本では、空港は公共性の高い社会インフラという考え方が強い」と指摘する。公益性があるところには、いずれは飛んでくれるだろうという受け身の考えは、海外では理解されにくい。海外の航空会社は、「儲かるところに飛ばす」と単純明快なビジネスの論理で動いている。だから、山本氏は「(地方空港の現状に)海外の航空会社はイライラしているのでは」と話す。
積極的な動きを見せる民営空港
一方、地方空港の中でも、民営化されている空港のなかには未来を見据えて積極的に動いているところもあるという。そのひとつが福岡空港。福岡国際空港会社は、三菱商事、西日本鉄道、九州電力などに加えて、シンガポールのチャンギ・エアポーツ・インターナショナルも出資して設立。2018年12月には、シンガポール航空が福岡国際空港会社とチャンギ・エアポーツ・インターナショナルと業務提携した。
「福岡は『今がチャンス』と、チャンギのノウハウを積極的に取り入れている」と山本氏。海外への情報発信を能動的に展開し、海外の航空会社が欲しい情報や将来のインバウンド再開に向けた観光情報などを提供している。そうした活動の結果、コロナ禍にも関わらず、台湾の新興航空会社スターラックス航空が台北(桃園)/福岡線を2022年2月17日に開設した。当初は週1便だが、観光需要の回復後にはデイリー運航への増便を計画している。
日本人の海外旅行、近場から回復か
供給データやGDSなどからの航空需要データなどから、山本氏は「今夏の海外旅行需要は世界的に近場から戻るのではないか」と予想する。英米の予約動向からもその傾向が出ているという。日本発では、グアムやハワイ、タイのリゾートなどが有望だとする。
一方で、ハワイなど需要拡大による受け入れ体制の逼迫がある場合などは、沖縄や離島に需要がシフトする可能性もあると見る。今後、GoToトラベルが再開されれば、海外旅行へのマインドが国内に再び向く可能性もある。
いずれにせよ、今夏に向けて国内外で人が動き、感染状況が落ち着いたままであれば、山本氏は「水際対策に対する国民や政府の意識も変わるだろう」と話し、日本の入国規制の早期撤廃に期待を示した。
取材・記事:トラベルボイス編集部 山岡薫、トラベルジャーナリスト 山田友樹