鉄道と航空が対立する時代の終焉、欧州での排出ガス削減の取り組みを整理して、次の注目ポイントを考えた【外電コラム】

Markus Mainka - stock.adobe.com

ヨーロッパの航空各社と政府当局は、欧州大陸内の短距離移動について、フライトより鉄道利用を促進したい考えだ。だが航空便から鉄道への乗り継ぎには、最近、筆者がパリで経験したような問題点もある。空と陸のパートナーシップが成功するためには、関係者の熱意だけでなく、さらに多くの課題解決が必要であり、何より旅行者に便利だと感じてもらえるかが問われている――。

パリのシャルルドゴール空港は、1日当たり6万人以上の利用者で混雑しており、世界でも最大級の航空ハブの一つだ。とはいえ、すべての旅行者が、乗り継ぎ便に向かって急いでいるわけではない。まだ数は少ないものの、最近増えているのが、鉄道からフライト、あるいはその逆の乗り継ぎをする旅行者だ。

エールフランス航空では、こうした航空便と鉄道の乗り継ぎ利用に「Train+Air」という名称を付けて、フライトと都市間の鉄道区間をまとめて一度に予約できるようにしている。そのメリットは、万一遅延が発生しても、乗り継ぎ便のチケットが無効になるリスクを回避できること。さらに航空会社のロイヤルティプログラムでの獲得ポイントも増えるため、特にフリークエントフライヤーの間では好評だ。

以前から複数の交通機関を含む旅程はあったが、産業界がこぞって温暖化ガスの排出量削減に力を入れるようになるなか、ヨーロッパの航空各社も政府当局も、この分野に大きな関心を寄せている。ただ、前途には難題もある。まず、概して鉄道網が充実しているヨーロッパでも、鉄道インフラが充分でない地域では、活用できる区間は限られてしまう。さらに、それ以前の問題として、旅行者にとって、もっと分かりやすく、簡単に乗り継ぎできるようにする必要がある。

エールフランス航空の「Train+Air」では、フランス国鉄SNCFの協力により、パリのハブ空港とフランス国内18都市以上、さらにブリュッセルとをつなぐ路線が対象になっている。同様に、KLMオランダ航空は高速鉄道タリスと組んでベルギーまでの鉄道区間を販売。ルフトハンザ航空はドイツ国内でドイツ鉄道ドイチェ・バーンと提携している。イベリア航空も2022年3月、スペイン国鉄Renfeとのパートナーシップを発表したところだ。パンデミック以前、エールフランスとルフトハンザ航空が販売したフライト&鉄道のチケットは、年間73万5000枚という。

2022年3月に開催された「スキフト・ヨーロッパ・フォーラム」に出席したエールフランスのアンヌ・リガイユCEO(最高経営責任者)は、航空会社の排出ガス削減策についての質問に対し「短距離の路線で、鉄道が運行している区間については、SNCFとの連携を深めていく方針。当社のハブ空港へのフィードとして期待している」と話した。

2021年、エールフランスではSNCFとのパートナーシップをさらに拡充すると発表。提携する鉄道路線を8本増やしたほか、デジタルソリューションの試験導入にも着手。リール/ストラスブール線で、エールフランスのアプリから鉄道のチェックイン手続きや搭乗券の受け取りができるようにした。狙いは、フライトと鉄道をまとめて予約する人を増やすこと。さらに同社が2024年までの目標としている国内線の排出ガス半減の達成だ。

同社のサステナビリティ&ニューモビリティ担当副社長、ヴァンサン・エチェベーレ氏は、「空路がある路線でも、鉄道があるなら乗りたいという考え方が、当社利用客の間で高まっている」と指摘。背景には、排出ガスがより少ない「低カーボン」な交通手段への関心の高まりがあると話した。

「鉄道と航空が対立する時代は終わった、とエールフランスでは確信している」とエチェベーレ氏。

2019年実績では、Train+Airの予約数はざっと16万件ほどで、これより新しい数字は公表していない。パンデミックの影響で「数字の追跡が難しくなった」(同氏)ことが理由という。だがエールフランスもSNCFも、取扱いをさらに増やしたいと考えている。2019年にエールフランスを利用した旅客数は世界全体で5220万人。この数字に対し、(SNCFも予約した人の)シェアはまだ微々たるものだ。

昔からあるアイデアと新しい目標

「マルチモーダル(2つ以上の交通機関を利用する)」な旅行は目新しいものではないが、今、改めて注目されている。

おそらく公式に初のエア&レールの試みだったのは、ルフトハンザ航空が1982年、ドイツの鉄道会社ドイチェ・バーンと提携して走らせた特急列車「ルフトハンザ・エアポート・エクスプレス」ではないか。デュッセルドルフからハブ空港のあるフランクフルトまでを、空路ではなく鉄道でつないだ。

その後、1989年にはスイス航空と同国の鉄道会社、SBBが連携し、鉄道駅でチェックイン手続きと荷物のタグ付けができる仕組みを導入。同航空が営業を終了する2002年まで続いた。エールフランスとSNCFが両社のチケットをまとめた「TGVエア」(当時)の取扱いを始めたのは1990年代半ばだ。

こうしたタイアップについての考え方は、今や大きく変わっている。

当初、航空会社にとって鉄道会社と協力するメリットは、希少なハブ空港の発着枠を、短距離路線より収益性の高い長距離路線に振り分けられることだった。だが、現在は、温暖化ガス排出量の集約度が高い短距離路線を減らすことで自社の排出量を削減し、旅行者にはより環境にやさしい鉄道を勧めるためだ。

ドイチェ・バーンの欧州地区運輸方策責任者、クリストフ・ラルケ氏は、3月に開かれた「ユナイテッド・ヨーロッパ」のイベント席上でこう話した。「気候変動対策の目標達成に関する議論では、インターモダリティ(複合的かつ一貫性のある旅客輸送)がカギになる」「航空会社との緊密な協力が非常に重要だというのが我々の考えだ」。

航空機のかわりに鉄道を利用して排出ガスを削減する、という考えは世界中で支持されるようになったが、では、どのぐらい?という議論になると、意見は分かれる。その一つは、オクセラ(Oxera)社が2022年3月、航空業界団体の依頼を受けて実施した調査結果だ。業界団体の立場としては、大々的なアピールは無理でも擁護はしたい。同調査によると、欧州内の500キロメートル(311マイル)以下の航空路線をすべて廃止したとしても、排出ガスの削減幅は、欧州大陸全体で3~5%にしかならないという。

これに対し、フィンランドのユヴァスキュラ大学のステファン・バウマイスター氏と、豪州グリフィン大学のアブラハム・レオン氏による調査では、フィンランドの国内線をすべて鉄道に置き替えると、同国内の排出ガスはなんと95%も削減できるとしている。

「既存の普通列車(高速鉄道ではないもの)を利用した場合も、移動距離400キロメートル以下の区間ならば、航空便と所要時間は変わらない。高速鉄道を利用するならば、800キロメートルまで同じになる。こうしたケースでは、フライトを利用する真のメリットはない上、環境面での負荷はかなり重くなる」とバウマイスター氏は説明する。ただし、気候変動対策の名のもとに、行き過ぎた制限を課すこと、特に小さな地域空港への規制は、政治的に難しいとも指摘している。

短距離の航空路線を禁止すると決めたのは、今のところ、欧州ではフランスだけだ。ドイツ、イタリア、スペインでも同じような規制を検討しているが、結論はまだ先になりそうだ。フランスの場合、鉄道で2時間半以内に移動できる区間は、航空機の利用を禁じることが、2021年の気候対策法で決まった。その後、エールフランスが撤退したのは3路線、パリとボルドー、リヨン、ナンテ線で、接続便の一部は、今も規制の対象外となっている。その結果、同3路線では、高速鉄道TGVのマーケットシェアがすでに大きくなっている。

大抵の場合、パリからリヨンまで移動する人に、鉄道を選んでもらうことは比較的容易だが、ニューヨークからパリ経由でリヨンに向かう旅行者となると話は別だ。パリ在住の人にとって、ドア・ツー・ドアの移動時間は、飛行機より鉄道を利用した方が短い。だが、空路でやってくる旅行者は、とりあえず最短距離のルートを予約しようとする。こうした旅行者にも鉄道利用を促すためには、予約の手配中に注意を喚起したり、何かしらアピールする必要がありそうだ。

ユナイテッド・ヨーロッパの会場で、欧州委員会(EC)モビリティ&運輸当局の次長、カトリン・オブスト氏は「魅力的な選択肢になれば、いずれにしても、鉄道を選ぶようになるだろう」と話し、ECとして、極端なフライト制限には懐疑的であると付け加えた。

「必要なのは、(鉄道の)利用環境を改善することの方だ」(オブスト氏)との考えだ。

アナログ接続

エールフランスによるTrain+Airの宣伝を見る限り、フライトを乗り継ぐのと同じような手軽さで、鉄道に乗り換えられると思ってしまう。だが2022年4月、シャルルドゴール空港でフランス国内線からTGVへ乗り継いだ時の実体験は、全く違った。

筆者が飛行機から降りた後、鉄道に乗り継ぐ旅客に駅の方角を示すサインは見つけられなかった。出発便を掲示したボードにも、乗り継ぎ「便」としての案内はなかった。まずは到着便の搭乗客としてバゲージクレームまで進む必要がある、ということを事前に知らないと大変だ。

国内線ターミナル2Fの下にあるバゲージクレームを通過すると、ようやく最初の案内表示が目に入る。とはいえ「鉄道」とあるだけのシンプルな案内だ。エールフランスのTrain+Airの案内が見えたのは、駅構内にある同社のオフィスまで来たとき。旅行者には、ここで鉄道チケットを受け取るという手間もある。エールフランスでは昨年から、デジタルアプリを使ったソリューションの試験運用が始まっているが、まだ完全導入には至っていない。

「Train+Airが商品として認知され、顧客から選ばれるようにするには、カスタマーエクスペリエンスを最優先する必要がある」とエチェベーレ氏は話す。現段階では、まだエールフランスの顧客サービス基準に「達していない」部分もあると同氏は認める。例えばオンラインまたは同社アプリで、全旅程のチェックインを済ませることはできない、といった具合だ。

エールフランスでは、完全にデジタル対応可能なTrain+Airを目指しており、社内では今夏、Train+Air2.0版の完成を目標にしている。

同社広報によると、空港やSNCFと共に、シャルルドゴール空港での案内表示の改善も進めているところだ。

一方、エールフランスが他社より進んでいることの一つが、予約手続きだ。同社ウェブサイトでブリュッセルへの乗り継ぎ便を探すと、フライトより上に、鉄道が表示された。これは世界的にも稀なケースだ。排出ガスが少ない交通機関の選択肢が、予約画面に表示されていたら、鉄道やバスなど、他の乗り継ぎ便を予約していたのに、と嘆く旅行者は少なくない。

次に注目するべきもの

エア&レールの乗り継ぎが、もっとスムーズな体験となるよう、航空会社と鉄道会社による取り組みは進んでいる。ユナイテッド・ヨーロッパのイベントでは、ドイチェ・バーンもSNCFも、経営幹部からこうしたコメントが相次いだ。

「所要時間が短く、運行便数も充分にあり、クオリティの高い移動体験を提供できる路線」(SNCFの欧州担当ディレクター、ジェレミー・ペレリン氏)については、鉄道がフライトの替わりになると話す。だが問題もある。フライトの替わりに鉄道を利用できるのは、すでに路線などのインフラが整備されたルートに限られる。

「鉄道ネットワークを円滑に機能させる大前提として、インフラが必要になる」と欧州委員会のオブスト氏。鉄道網の拡大には、少なくとも数年の歳月と多額の投資が発生するが、エア&レール接続を一部限定ではなく、全面的に拡大するのであれば、こうした投資が必要になる。

イベリア航空では、新サービス「チケット&フライ」の提供開始に伴い、エア&レール接続利用に対する旅行者の需要がどのぐらいあるのかを調査する予定だ。マドリード・バラハス空港から市の地下鉄や鉄道に乗り継ぐことは可能だが、例えばグーグルマップを見ると、それぞれの最寄り駅、チャマルティン駅とアトーチャ駅までの所要時間は、空港から17分と32分となっている。こうしたインフラの不便さはあるものの、イベリア航空では、年間10万人が「チケット&フライ」を利用すると試算している。

一方、鉄道網があまり充実していないフィンランドや米国で、航空各社が低炭素な乗り継ぎ手段として注目しているのはバスだ。フィンエアーは5月から、ヘルシンキのハブ空港発の短距離路線2本で、大半の便をバスに差し替える計画だ。米ユナイテッド航空やサン・カントリー航空、そして間もなくアメリカン航空でも、国内線の新しい乗り継ぎ便として、また一部の再開路線でバスを選択している。

KLMのピーター・エルバーCEO(最高経営責任者)は昨年、エア&レールによる大幅な排出ガス削減の可能性について問われると、「巨額のコストがかかるだろう」との見方を示した。「インフラ建設は政府の役割になる。欧州全体で考えるなら、合成燃料の方が投資効果は高いだろう。鉄道が解決策になるエリアもあるが、地域によって状況は異なる」と指摘している。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Trains Offer New Promise in Europe’s Quest to Cut Aviation Emissions

著者:エドワード・ラッセル氏

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