欧州で国内線の一部を廃止、エールフランス/KLM航空の日本支社長に、環境対策の国策と一体の取り組みを聞いてきた

航空業界の脱炭素化で世界の先頭を走る欧州。社会的ムーブメントのなかで、大手航空会社は時代の要請に応えるさまざまな取り組みを進めている。エールフランス/KLM航空もそのひとつ。中期的なロードマップとして、エールフランス航空は「Air France Horizon2030」、KLMオランダ航空は「Fly Responsibly」を策定し、両航空とも2030年までに旅客キロあたりのCO2排出量50%削減を目指している。その先の長期的目標は2050年の実質ゼロエミッションだ。

同航空が本気で進める環境対策と、その施策によるビジネスへの影響とは?同航空日本・韓国・ニューカレドニア支社長のギヨーム・グラス氏に聞いてみた。

4本柱で脱炭素化を推進

エールフランスとKLMは、共同経営のもとで同じ取り組みによる脱炭素化を目指している。その柱は、燃費効率のいい最新機材の更新、運航効率の向上、カーボオフセット、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuel)の活用の4つだ。

最新機材の更新では、同航空は短中距離路線向けにA220-300型機60機を発注し、長距離路線向けには2025年までにA350-900型機を38機受領する計画。すでに羽田/パリ線には2021年8月にA350-900型機を投入した。さらに、4発機であるA340とA380の退役を進めた。

運航効率の向上では、グラス氏は「機体の重量を減らすために、ものすごく細かい取り組みをしている」と明かす。例えば、パイロット・ドキュメントをデジダル化。これで1フライト23kg削減。機内の新聞雑誌を廃止。これで1年間で940トンの紙の削減が可能になり、年間3000トンのCO2削減に相当するという。また、座席も軽量化。最新のA350では、複合材やチタンを使うことでプレミアムエコノミーの座席は従来機の座席よりも13kg軽量化した。

さらに、地上では航空機の効率的なタキシングを実施するほか、ディーゼルエンジンのコンベヤーベルト車を電気化。これだけで、年間1台あたり3トンの排出量削減になるという。

カーボオフセットでは、EUあるいはグローバルなスキームを活用して、法人向けには「対価プログラム」を展開。参加企業はカーボンクレジットを購入することで、森林再生プロジェクトに寄付する。また、消費者向けには「Trip and Tree」プログラムを提供し、エールフランスのウェブサイトで航空券を購入する際に、植樹のための寄付を募る。グラス氏によると、この取り組みによって、2020年1月末時点で、国内線で排出されるCO2の100%を名目上オフセットしていることになるという。

「日本ではANAとJALによるSAFの拡大に期待している」とグラス氏「コーポレートSAFプログラム」で普及拡大目指す

SAFの活用は日本支社としても重視しているポイントだ。SAFは、従来の石油由来のジェット燃料と異なり、藻類や廃食油、一般ごみなどを原料とする代替燃料。

グラス氏は「電気航空機や水素航空機の開発も進んでいるが、まだ先の話。実現しても短距離が中心になるだろう。日本/パリ・アムステルダム線のような長距離路線ではSAFが重要な部分を占める」と話す。

エールフランス/KLMでは、SAFの供給体制の構築とともに、その認知度と需要を高めていくために法人向けに「コーポレートSAFプログラム」を各市場で展開している。日本ではすでに、ナブテスコ、堀場製作所、旅工房、アルファインテルと契約した。

メーカーとの契約では、ビジネス出張での航空利用に伴うCO2排出量より算出されるSAF換算値の一定額をパートナー企業が寄付し、その寄付金がエールフランスKLMでのSAF購入費用に充当。利用企業には第三者機関が発行する認証が供与される。これにより、どれくらいのCO2が削減されるかが可視化されるという。

一方、旅行会社との契約では、サステナブルなツアーの造成で協力。例えば、旅行会社は、同航空のサステナブルフライトと、環境対策に積極的なホテル、電気自動車による移動、ペットボトルの不使用などを組み込んだパッケージツアーを販売することで、消費者の環境への意識向上を高めていきたい考えだ。

グラス氏は「このプログラムはまだ始まったばかり。現在もさまざまな企業と話し合いを進めており、2022年はさらに契約企業が増えるだろう」と期待を寄せる。

SAFの最大の課題はその価格。平均価格は化石燃料の約5倍にもなるという。「需要が高まれば、価格は下がる。そのためにも、航空会社がしなければならないことは、SAFの活用を進めていくこと」とグラス氏。SAFの普及に向けては、スカイチームで協業していく可能性にも触れた。

2021年5月、エールフランス、エアバス、ADP、トータルの4社で食用油を原料とするSAFを利用し、パリ/モントリオール便を運航パリ・オルリー空港で国内線一部廃止、鉄道とのコードシェア増加

フランスでは2021年7月、温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で40%以上削減する目標を法制化した「気候変動対策・レジリエンス強化法」が成立した。このなかで、航空分野については、鉄道によって2時間半以内で移動可能な国内航空路線は2022年3月までに廃止することも盛り込まれた。

この方針を受けて、エールフランスはすでに、パリ・オルリー空港からリヨン、ナント、ホルドーへの路線から撤退した。春までにはさらに増える見込みだ。エールフランスでは「Air France Horizon」のなかで、国内線でのCO2排出量を2024年に2019年比50%まで削減する目標を掲げていることから、グラス氏は「この目標達成のためにも必要なこと」と捉えている。

この法案では、国際線乗り継ぎ需要の高い路線は、2時間半以内であっても存続させることが認められているため、グラス氏は「縮小の中心はオルリー路線で、シャルル・ド・ゴール空港の国内路線は変わらない。日本人の旅行には基本的に影響はないだろう」と強調した。

国内線の縮小にともなって、エールフランスでは鉄道とのコードシェアを拡大している。5年ほど前からこの「Train+Air」は始まったが、年々その数は増加しているという。現在は、シャルル・ド・ゴール空港駅からは18路線のTGV(フランス国内の特急列車)で、オルリー空港駅からは15路線でAF便名が付いており、同一チケットとして予約することが可能になっている。

グラス氏は「欧州では、飛び恥(Flight Shame)に代表されるように、航空に対する風当たりが強い。こうした鉄道との連携も、そうした市民からのボトムアップ要求が大きい」とフランスの社会背景を説明する。

2019年9月に日本支社長に就任したグラス氏。来日当初は日本で大量のプラスティック袋が消費されていることに驚いたという。しかし、この2年半で日本の環境対策の変化も感じており、「欧州に近づいているように思える」と話す。エールフランス/KLMが「コーポレートSAFプログラム」を拡大すれば、さらに日本での脱炭素化への意識は進むかもしれない。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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