旅行者の回復スピードが加速するカナダ、変化する旅行スタイルに対応した戦略と予測を本国キーパーソンに聞いてきた

リアルイベントとしては3年ぶりの開催となったカナダ最大の旅行業界商談会「ランデブーカナダ2022(RVC2022)」。カナダ観光局が重点市場と位置付ける10カ国からバイヤー351人、カナダ側からセラーとして557人が参加した。オンラインによる参加も含めて、商談アポイントメントは4万8000を超え、インバウンド旅行復活に向けたカナダの本気度が表れたイベントとなった。

国境再開後は欧米からの旅行者増

RVCの記者会見でランディー・ボワソノー観光大臣兼准財務大臣は、「カナダの将来にとって、観光は重要な産業。特にインバウンド旅行者の回復は欠かせない」と言及。コロナからの経済復興を進めるカナダにとって観光が重要な輸出産業であるとの認識を示す。

カナダでの旅行消費額はコロナ前の2019年で約1050億カナダドル(約11兆円)。そのうち、インバウンド市場は280億カナダドル(約3兆円)。それが、2020年には約528億カナダドル(約5.6兆円)と半減。インバウンドに至っては、約47億カナダドル(約4980億円)まで激減した。2021年は前年増とはなったものの、約580億カナダドル(約6.1兆円)にとどまり、インバウンドはほぼ横ばいに終わった。

それでも、2022年4月にワクチン接種完了者には入国前検査を撤廃するなど国境を開いて以降は、アウトバウンド、インバウンド双方で市場は活発化しており、2022年3月のインバウンド旅行者数は2019年同月比で58%減まで回復した。「欧米からの旅行者の回復スピードは早い」と手応えを示すセラーは多い。

会見でリアル開催のRVCを高く評価したボワソノー観光大臣

ウィズコロナで競争力の高いカナダ

カナダ観光局国際担当副社長のモリーン・ライリー氏は、観光収入ベースで「米国は来年、欧州も来年から再来年にかけて、2019年レベルに戻る」との予測を示す。

一方、日本市場については、6月から水際対策が緩和されたものの、回復には時間がかかると見ており、ライリー氏は「日本人のリスクに対する警戒心を考えると、2019年の水準に戻るのは2025年までかかるのではないか」と見立てる。2019年のカナダへの日本人渡航者数は約24万人、1旅行あたり1人の消費額は約1945カナダドル(約20万6000円)、総消費額は4.7億カナダドル(約500億円)だった。

それでも、カナダ観光局では長期的には日本市場は有望と見ている。

同局の調査によると、今後2年のうちカナダを訪れてみたいと思っている潜在旅行者は約2300万人。その動機のトップとして挙げられているのが「リラックス/日常からの解放」で42%。2位は「友人や家族訪問」(40%)だが、3位には「安全性」(39%)が入っており、ウィズコロナでのカナダの競争力の高さが伺える結果となっている。

「カナダへの日本人留学生からのメッセージ発信にも期待したい」とライリー氏変わる旅行スタイル、カナダでしか体験できない旅行を

そのなかで、カナダ観光局が訴求を強めていくのが「レジェンダリー・エクスペリエンス」。「再生型観光」を推進していくにあたって、消費者向けにカナダでしか体験できない素材を提案していく。

ライリー氏は「贅沢だが、豪華ではない。時間の豊かさ、体験の豊かさを味わえるハイエンド旅行」とその意味を定義する。例えば、「先住民と釣りをして、釣れた魚を自然の中でスモークにして食べる。湖に張った氷に穴をあけて、アイスフィッシングを楽しみ、釣れた魚を刺身で食べる。そういった体験がカナダ」と話す。食そのものだけでなく、体験としての食という視点だ。

また、ウィズコロナでは「旅行スタイルも変わらざるを得ない」との考えも示す。「例えば、バンクーバー2泊、ロッキー2泊、ナイアガラ2泊といった従来の周遊型の旅程ではなく、ひとつの州でゆっくり過ごす旅行が好まれるのではないか」と見ている。回復に向けては個人旅行的な旅行がより好まれ、従来型のバスツアーもいずれは戻るが、時間がかかるとの認識だ。

さらに、都市から地方への旅行者の流れも増えると予測する。すでに、欧米市場では、コロナ前にも増して、その傾向が強まっており、「街から出て、オーダーメイドのアドベンチャー旅行を楽しむ旅行者が増えている」という。

オンタリオ州の「ツーリズム1000アイランズ」のメグ・ダボラス氏も「欧米からの旅行者の間では、キャンプの需要が高まっている」と明かす。コロナ禍で日本でもキャンプ人気が高まっていることから、「日本も新たなマーケットになり得るのではないか」と期待をかけた。

また、同じくオンタリオ州の「スーセントマリー観光局」も日本市場に地方の魅力をアピール。同局のリンゼット・オークランド氏は、「湖での夏のソフトアクティビティは、日本人旅行者にも受け入れられやすいと思う」と話し、トロントやナイアガラなど定番観光地とは異なる過ごし方を提案した。

会場ではカナダ先住民観光協会のエリアも広く取られた。需要回復を見据えて、復便を加速するエア・カナダ

カナダへの旅行需要回復に合わせて、その供給を担うエア・カナダも日本路線の復便を進めている。6月4日には成田/モントリオール線を週2便で再開。9月には週5便に増便する。さらに、今年10月からの2022/23冬スケジュールでは羽田/トロント線を週7便で運航。現行の成田/トロント線も継続することで、同航空の運航便数は全体で週21便に拡大し、2019年同時期の運航規模と同水準になる見込みだ。

同航空日本支社長の伊藤正彰氏は「今年9月には、日本へのインバウンドも回復し、相互往来は活発になるのではないか」と期待をかけ、東京路線については、成田はアジア/北米間のハブとして活用し、一方、羽田は日本国内からの乗り継ぎ需要の取り込みに力を入れる考えを示した。

さらに、来年には関西/バンクーバー線の再開も検討しているところだという。同航空アジア太平洋地区統括支社長のワイス貴代氏は「関西で再開を待ち望む声は多い。また、本社でもアジアの他の都市よりも関西への期待は高い」と明かす。留学など日本からのアウトバウンド需要だけでなく、2025年の大阪・関西万博を見据えて、日本へのインバウンド需要への期待も大きい。

今夏に向けて旅行意向が高まっている一方で、懸念材料となるのがコスト高だ。原油価格の高止まりにより、燃油サーチャージも高騰。急激な円安ドル高によって、海外旅行費用の増加は避けられない。それでも、ワイス氏は、いち早く国境が開いたオーストラリアや韓国を例に挙げ、「ペントアップディマンド(抑制されてきた需要)は力強い。日本でもその需要は大きいのではないか」との見解を示し、今年後半に向けた市場回復を見据えた。

※カナダドル円換算は1カナダドル106円でトラベルボイス編集部が算出

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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