日本は、2022年6月10日から約2年ぶりに観光目的の訪日外国人の受け入れを再開した。しかし、1日のあたりの入国者数の上限2万人は維持され、受け入れも添乗員付きのパッケージツアーに限られている。さらに、ビザの取得、マスク着用や保険加入などのガイドラインを遵守する必要があるなど、コロナ前と比較すると多くの制限がかかっているのが現状だ。この状況を、海外の旅行会社はどう見ているのか。英国の日本旅行専門会社「Inside Japan」に本音を聞いてみた。
今後の緩和方針が見えないことに苛立ち
Inside Japanは、英国ブリストルに本社を構え、米国とオーストラリアにも現地事務所を展開。日本では名古屋にランドオペレーションとカスタマーサービスのチームを置いている。顧客の80%が個人旅行で、残りが同社が催行するパッケージツアーの団体。コロナ前2019年の日本へも送客数は約1万人。同社PRマネージャーのジェームス・マンディー氏は、「2019年はラグビーワールドカップが日本で開催されたことから、非常に好調だった」と言う。しかし、コロナ禍に入り、2020年3月以降は、ほぼゼロという状況になった。
日本は約2年ぶりに観光目的の訪日外国人の受け入れを再開した。解禁となった6月10日以降、予約は徐々に入り始めているが、急増というわけではなく、「2022年の後半、あるいは2023年まで様子見をしている顧客も多い」という。現状は制限のかかった団体に限られているため、同社の主要顧客である個人旅行者に目立った動きはないようだ。マンディー氏によると、2020年の予約をそのまま保持している顧客も多いという。
国境再開となったものの、マンディー氏は「日本旅行はまだ壁が高いと感じている顧客が多い」と明かす。そのひとつとして、日本でのマスク着用を挙げた。観光庁が示したガイドラインでは、旅行業者はツアー参加者に対し、マスク着用や手指消毒など日本での感染防止対策に応じることを求めている。
「日本では屋外でのマスク着用は必ずしも必要ではないという方針が示されているなか、外国人旅行者のみにマスク着用を求めるところに違和感を感じる」とマンディー氏。すでに英国ではマスクなしでの生活が当たり前になっていることから、「マスク着用のままでは、せっかくの日本旅行も楽しめないだろう」と話す。
さらに、コロナ前は日本のおもてなしに感動する旅行者は多かったが、規制が多いと「歓迎されていないのではないかと感じてしまう。それが、日本旅行の再開を遅らせてしまう恐れがある」と警鐘を鳴らす。
また、受け入れ再開にあたっては、入国者健康確認システム(ERFS)へのツアー参加者の登録・申請に加えて、ビザを取得する必要がある。「コロナ前は英国人はビザが不要だったため、これも大きなバリアになっている」ようだ。
細かいルールに加えて、マンディー氏が気にしているのは日本の今後の方針が見えないことだ。日本政府は、完全解禁までのロードマップを示していないため、「事業の計画が立てられない」と嘆く。「次のプランを事前に発表してほしい。訪日への計画が立てられないと、顧客は旅行先を変更してしまう可能性がある」。同じアジアでは、旅行規制がほぼ撤廃されているベトナムやタイの人気が高まっているという。
英国では、夏のバケーションシーズンに加えて、10月や11月のホリデー期間でも旅行需要が高まるが、マンディー氏は「その時期に向けて、新たな規制緩和の発表があることを期待している」と話し、個人旅行が解禁されれば「円安は大きな価値となるだろう」と付け加えた。
変化する消費者マインド
マンディー氏は、パンデミックを経て、消費者のマインドにも変化が表れているという。「長い期間、海外旅行ができなかったため、他の経費を削ってでも旅行したいと思っている人はいる。長期間の旅行やユニークな体験など『ビッグトリップ』を望んでいる人は多い」と話し、いわゆるペントアップ需要(抑制されてきた需要)に期待を寄せた。
また、サステナブルツーリズムに対する意識の高まりにも言及。「Inside Japanとしても、(複数回の旅行ではなく)、1回の長期旅行を提案している」としたほか、「東京や京都だけでなく、東北など地方への旅行なども提案し、ローカルな文化を伝えていきたい」と話し、需要分散化や新たな体験の提供にも意欲を示した。
同社は、カーボンオフセット制度を導入し、環境負荷の軽減にも取り組んでいる。また、顧客に首都圏での移動のためにPASMOを配布しているが、その残金はフードロスの解消を目指すフードバンク「セカンドハーベスト」に寄付しているという。
欧州で加速するサステナブルツーリズム。本格的な訪日旅行の再開に向けてもカギになりそうだ。
トラベルジャーナリスト 山田友樹