観光庁・観光戦略課の役割と目標を聞いてきた ー観光庁・課長インタビューシリーズ

アフターコロナ社会が目前となり、日本の観光は新たな挑戦のときを迎える。「第2のふるさと」「全国旅行支援」「インバウンドの復興」といった話題に事欠かない一方で、コロナ以前からの生産性の低さ、他業界へ流出した人材確保など課題も山積。こうした変化へのあらゆる対策を、行政としてけん引していくのが、2023年に発足15年を迎える観光庁だ。

そもそも、日本の観光行政を担う観光庁とはどんな組織モデルで動いているのか。それぞれの組織は、今後の取り組みについてどう考えているのだろうか。トラベルボイスでは、「観光の未来を、観光庁の課長に聞く」インタビューシリーズを企画。連載第1回目は、観光に関する基本政策の企画・立案を担う、観光戦略課課長の田島聖一氏に聞いてきた。

データから政策を立案

観光庁に「課」と区分される組織は、「総務課」「観光戦略課」「観光産業課」「国際観光課」「観光地域振興課」「観光資源課」と6つある。国際観光課が訪日プロモーション統括、観光資源課が観光資源磨き上げ、新コンテンツ開発を管轄するといったように、それぞれ役割を持って動いているが、観光戦略課について田島氏は「全体の仕事を見ながら横串を刺していく、調整役を担う存在」と端的に表現する。

主な役割は、観光に関する基本的な政策の企画・立案であり、税制立案も担う。あまり知られてないが、観光戦略課内には下部組織として「観光統計調査室」がある。観光統計の整備は、観光施策の企画・立案等のために不可欠。都道府県、さらに詳細な地域レベルの旅行者数を把握し、地域への誘客や消費拡大など、地方創生、観光地域づくりに大きな役割を果たしている。

観光白書をはじめ、宿泊旅行統計調査、訪日外国人消費動向調査、旅行・観光消費動向調査といった政策分析ツールを公表する役割も観光戦略課のひとつ。整備しながら全体の政策立案に役立てている。2022年6月時点で、観光戦略課20名、観光統計調査室7名の27名で、刻々と変わる観光行政の基礎を築いている。

“戦略課”が誕生した背景

今でこそ、観光行政を統率し、全ての課の調整役を担う観光戦略課だが、観光庁が発足した2008年10月から2013年6月までは、予算、国会対応、人事などに対応する総務課内の一組織、企画室だった。観光戦略課が発足したのは、2013年7月の観光庁組織再編。2013年は国の成長戦略に「観光立国実現のためのアクション・プログラム」の内容が盛り込まれ、史上初めて、訪日外国人客数が1000万人を超えた年だ。

「国の組織名称で『戦略』が付くのは珍しいこと。まさに企画を超え、戦略として国の観光を考えていこうという意思の表れだったのだろう」と、田島氏は当時の状況 を振り返る。

観光庁の体制強化を踏まえ、後を追うかのように、鳥取県観光戦略課、奈良市観光戦略課、山形市観光戦略課などと、地方創生のために観光誘致に戦略的に取り組む意思表示として組織改編する地方自治体が相次いだ。2010年代、訪日インバウンドとともに日本の観光産業が急成長した背景には、こうした行政の体制強化も働いたと考えられる。

アフターコロナだからこそ、観光を成長戦略の切り札に

国内外の旅行に加え、訪日観光も再開するなか、田島氏は「コロナ前の実績を鑑みると、消費額の拡大と地方への誘客が求められる。コロナによる旅行者の意識の変化も踏まえ、今後のインバウンド回復に向けて戦略的に取り組みたい」と意気込む。デジタルマーケティング、アドベンチャーツーリズムなど、新たな視点も重視する。

人口減少を迎えている日本において、国内外からの交流人口を生み出す観光は、成長戦略の柱、地域活性の切り札だ。「観光産業の抱える課題の解決を進めながら、しっかり地域経済を支えていく。経済的な側面とあわせ、住民側も地域の良さを改めて認識できる『住んでよし訪れてよし』の観光地域づくりや、地域環境や伝統、産業の維持と観光が両立する『持続可能な観光』の実現を図っていきたい。さらに、国際交流によって諸外国との相互理解が進むことも重要。こうした観点から、観光の復興、観光立国の実現・発展にしっかり取り組んでいく」(田島氏)。

全国旅行支援による観光需要喚起、2年ぶりのインバウンド再開など、さまざまな動きが同時多発的に進んでいる。観光庁が今後さらにどんな変革を進め、それによって観光産業がどのように変化するのか、目を離せない。

観光庁 観光戦略課課長 田島聖一氏

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