まん延防止等重点措置が全面解除された2022年3月下旬以降、県民割・ブロック割の拡大や海外旅行ツアーの催行再開などで旅行が動き出した。過去2年の動きとは異なり、本格的な回復を予感させる勢いがある。長い外出自粛要請が終わった今、旅行を検討する人はどんな形態で、どんなスタイルの旅を求めているのか。
先ごろ開催したトラベルボイスLIVEでは、ヤフーのマーケティングソリューションズ統括本部第二営業本部営業2部部長の鈴木直人氏が出演。Yahoo! JAPANの検索や位置情報のビッグデータによる、ゴールデンウィーク前から夏休みにかけての旅行トレンドを予測・分析し、旅行者の動きを読み解いていった。その結果には、抑制されていた旅行が再開した後の特殊な傾向が見受けられた。
動き出したシニア層
2年ぶりに自粛要請がなかった、2022年のゴールデンウィーク。この時期に向け、急速に旅行が活発化した印象があるが、実際どれくらいの人が関心を高めていたのか。
Yahoo! JAPANの国内旅行に関する検索(国内外の主要エリア×「旅行」「ホテル」「宿泊」「航空券」「ツアー」)のクエリー数は、2022年4月の時点で2019年比48%。コロナ以前の半分ではあるが、2021年の同28%、2020年の30%に比べれば大幅に回復している。地域別でも、ほとんどの地域で50%以上の回復を見せた。
特筆すべき動きを見せたのは、シニア層だ。2022年4月の旅行検討ユーザーのうち、50代以上の割合が全体の44%で、2021年より5ポイント増加した。鈴木氏は「検索している人の数が増えているなかで、シニアが大きく伸びたのが特徴的。旅行への抵抗が下がった雰囲気になって動き出したのが、このデータからわかる」と読み解いた。
また、旅行形態では家族旅行が全体の40%となり、2020年3月時点の約1.6倍に拡大した。鈴木氏は、「2020年末頃に大きく減った時期があったが、その後はじわじわ増え、直近でも伸びている」と家族旅行の推移を説明。感染リスクを踏まえ、シェアが大きくなっていった傾向は収束傾向となった今も続き、一人旅と同じくらいのシェアに広がっているという。
ゴールデンウィークに表れた新トレンド
では、2022年のゴールデンウィーク旅行は、どのように検討されていたのか。ヤフーでは、2022年4月29日~5月8日に300キロ以上の長距離移動をしたユーザーについて、ゴールデンウィークまでの約3か月間における旅行サイト19社への流出ログを分析した。
その結果、約75%のユーザーが複数の旅行サイトで検討しており、約25%は5サイト以上で検討していた。検討期間は1サイトだけの場合は1週間が多いが、複数のサイトを見ている人は1カ月~2カ月かけて検討していた。
また、検討する旅行先を見ても、検索の上昇スコアトップ3の「沖縄」「京都」「神奈川」では、「ロイヤルビューホテル美ら海」や「ザスクエアホテル横浜みなとみらい」など、この1年で新規開業やリニューアルしたホテルの検索が、トレンド上昇に起因しているという。
鈴木氏は、久々に自粛制限なしに旅行に行けるようになった今年のゴールデンウィークは、消費者がしっかり比較検討をして旅行を吟味していたことを指摘。「旅行サイトでは10サイト以上で比較する人もいた。この比較検討の中に入れるかどうかが、大きなポイントになるのではないか」と話した。
人気のテーマからも再開後の特性が顕著に
さらに、鈴木氏は今年のゴールデンウィークに検索需要が高まった旅行テーマとして、「サウナ」「食べ歩き」「客室露天風呂付温泉」「ラグジュアリーホテル」の4つをあげた。
「サウナ」では、サウナや大浴場のあるホテルの検索が伸び、「大浴場付ビジネスホテル」などの検索も増加。「食べ歩き」では、「観光地名×食べ歩き」の検索が増加しており、コロナ禍でできなかった観光地での「食べ歩き」に関心が高まっている様子が見える。一方で、コロナ禍で人気が安定化した「客室露天風呂付温泉」も、引き続き需要が強いことも指摘した。
鈴木氏が注目したのが「ラグジュアリーホテル」。1泊3万円以上のホテル名の検索が2019年を3割以上も上回る結果となった。10万円以上は54%増だ。逆に、1万円以下の価格帯のホテルの検索は2019年を下回った。このことから、鈴木氏は「高額なホテルを探して検討している傾向があり、特別な体験にしたい気持ちが見受けられる」と、再開後の旅行に対する消費者の期待の高さを推察した。
このほか、ユーザーの位置情報から分析した移動距離でも、首都圏と関西圏のユーザーで300キロ以上の長距離旅行をした人は約120%増で、短距離や中距離の旅行より伸長。大都市圏以外の地方でも、長距離移動は80%増から96%増程度まで伸びており、全国的に長距離の旅行が動くようになった。
鈴木氏は、2022年4月からゴールデンウィークを含む5月までの検索傾向を踏まえた、夏休み旅行の需要予測も発表。仮に、2022年8月からGoToトラベルキャンペーンのような施策が実施された場合、国内旅行需要は2019年近くの水準まで回復すると予測した。「感染者の状況によって変わると思うが、施策の打ち方によっては、コロナ以前の水準に近づくのは非現実的ではないことが、データからもわかる」という。逆に、施策がなければ今夏は2019年水準に回復するのは難しいという見通しだ。
海外旅行では欧州の検索も
海外旅行の検索数では、旅行各社がハワイツアー催行の再開を発表した2022年4月以降、大きく伸びた。2019年比ではまだ25%程度だが、2021年比では220%増。方面別では、ハワイが2019年比で61%にまで回復した。鈴木氏は、「ハワイツアー再開のニュースは多くのメディアで取り上げられ、4月11日の週は前週比680%増の驚異的な伸びを示した。ニュースから検索行動が起き、旅行の検討がされている」と説明した。
また、グアム(2019年比22%)、韓国(同23%)などの近距離に加え、長距離方面の北米(同25%)、さらには欧州も同18%と、他の方面より多く検索されていた。ウクライナ情勢により飛行時間が長くなっている欧州方面は、需要が伸びづらいとみられていたが鈴木氏は、「実際の旅行実施は別だが、検討はしている。欧州の人気のある国々、フランスやイタリアなどの検索は多い」と、需要の強さを示した。
夏休みに向けた検索は、4月の急上昇後にいったん戻り、全体ではまだ2019年比25%程度の状況だが、鈴木氏は「直近では上がってきている」と説明。回復傾向が期待できると話した。
最後に鈴木氏は、国内旅行・海外旅行について「いまは旅行需要が高まっている状況」と総括。「ユーザーに対するアクティブなアプローチが必要。マーケティング強化をすべき」とアドバイスし、講演を締めくくった。