観光庁・観光産業課に、組織モデルと宿泊業のあり方を聞いてきた ―観光庁・課長インタビューシリーズ

日本の観光産業が、2年半以上に及んだコロナ禍からようやく脱出しつつある。「全国旅行支援」が2022年10月11日から開始し、地域で使えるクーポンを活用した平日旅行の促進とともに、県内や地域ブロック内にとどまらず、日本全国で再び人々が動き出すことが期待される。一方で、観光需要の激減により観光地・観光産業は疲弊し、廃業も相次いでいる。とりわけ、中核の宿泊業は、コロナ以前からの生産性の低さや家族経営をはじめとする旧来型の事業モデルへの依存が課題となっている状況が今も変わらない。

こうした宿泊業が抱える根本的な課題への対策を、行政として担っているのが観光庁の観光産業課だ。トラベルボイスでは「観光庁の未来を、観光庁の課長に聞く」インタビューシリーズを展開している。基本政策の企画・立案を担当する観光戦略課への取材に続き、観光産業課課長の柿沼宏明氏に、観光産業課の組織モデルとともに、アフターコロナ、withコロナ時代の宿泊産業のあり方を聞いてきた。

地域経済動かすゲートウェイに

あらためて整理すると、観光庁に「課」と区分される組織は、「総務課」「観光戦略課」「観光産業課」「国際観光課」「観光地域振興課」「観光資源課」と6つある。このうち、「観光産業課」は、観光産業の発達・改善の全体統括、宿泊業、住宅宿泊事業(民泊)、観光ファンド(REVICなど)を担当している。すなわち、旅に欠かせない旅館、ホテル、民泊といった日本の宿泊業の発展に向けたプロジェクト全般を行政としてけん引しているのが観光産業課である。

2021年11月から複数回開催され、2022年5月31日に今後取り組むべき国の主な施策として「観光地の面的な再生・高付加価値化の推進、持続可能的な観光地経営の確立」、「観光産業の構造的課題の解決」の2点を指摘した「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会」を主管したのも観光産業課だ。

柿沼氏は、宿泊施設について、「地域のショーケースであるべき」と力を込める。コロナをはじめとした危機に右往左往されるのではなく、競争力ある骨太な産業になっていくことが前提としつつ、「特に旅館をはじめとした宿泊施設は、地域固有の文化を象徴する観光資源、伝統・歴史などのストーリーが集約された場所。例えば、従業員など地元の人の話を聞き、食や文化に触れあうことで旅のストーリーが生まれ、地域を回遊しようとするきっかけにつながる。地域経済を動かすゲートウェイとして、宿泊施設の役割は非常に大きい」と話す。

宿泊施設は企業的経営に転換を

もっとも、柿沼氏が「危機に右往左往されるのではなく骨太な産業になるべき」と言及するように、コロナ前から宿泊産業が内包している課題は根深い。宿泊業の経営については、かねてから収益性の低い家業的手法・商慣習の存続、低賃金、時間を問わない長時間労働による担い手不足、設備投資の滞りによる施設の魅力低下、団体から個人旅行への変化といった旅行スタイルへの対応の遅れが指摘されてきた。これらの多岐にわたる課題について、柿沼氏はどう考えているのだろうか。

まず、家業的手法・商慣習については、「お客様を家族のような形でお迎えするのは一つの大きな価値」と評価しつつ、「『アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会』でも有識者から指摘があったように、データや財務諸表などを活用することで、収益確保、借入金既存からの転換、適切な投資継続などが可能になる企業的経営へ転換しなければならない」と話す。

データの活用は、地域全体でマーケティングを進め、面的DXによる地域の中長期的なビジョンを構築していくためにも不可欠との見解だ。将来的に、企業経営に関するガイドライン策定、ガイドラインに則って事業をおこなう事業者への積極的な支援にも意欲を示す。

変革進め、魅力的な職場に

宿泊産業にとっては、生産性向上と担い手確保も大きな課題となっている。各種調査でも旅館・ホテルの人手不足は鮮明だ。インバウンドが活況を呈していた時も人手不足が課題となっていたが、特にコロナ禍で、GoToなど旅行支援がスタートしてはストップが繰り返されるなか、疲弊し、不安を感じた従業員が他産業へと流出するケースが増えるようになった。

柿沼氏は、「近年、観光でもDXが叫ばれているが、大切なのはD(デジタル)を上手く活用してX(トランスフォーメーション)、すなわち変革を起こすこと。まずは、企業経営化を進める中で、意識改革も行い、業務の無駄を徹底的に省いて効率化し、生産性を高めたうえで、D(デジタル)の導入がある。こうして従業員の満足度を向上し、若者を中心として多くの人に宿泊業に魅力を感じてもらわなければならない」と話す。今後、健全に事業を再生していくためには、稼働率にこだわるのではなく、データを活用しながら需要を予測して収益を最大化するための販売管理、レベニューマネジメントなどを推進することも重要だと説く。


観光産業課が主管する宿泊業について、「宿泊施設は地域のショーケースであり、地域創生の核にならなければならない」と熱を持って語る柿沼氏。全国旅行支援のスタート、訪日個人旅行の解禁、ビザ免除の再開など、需要の本格回復に向けて一気に動き出したいま、観光庁が今後さらにどん変革を進めるのか。大いに注目される。

観光産業課課長の柿沼宏明氏

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