今年の「旅行フィンテック」の進化を予測した、自国通貨で「決済」望む旅行者から、事業者の連携まで【外電】

旅行需要は2022年、順調に回復を続けた。IATA(国際航空運送協会)では、航空産業の売上が2021年比43%増と予測しており、当社でも、需要の反発は力強く、消費者は住居やファッションより旅行への出費を優先する傾向にあると分析している。

こうしたなか、旅行フィンテックは2023年にどう進化していくのか? あるいは、フィンテック業界から見て、旅行産業にはどのような新しい成長機会があるのだろうか?

非金融系サービスとの連携

銀行に新しい口座を開設する場合、大通りに構えた立派なオフィスに出向く必要があった頃のことを覚えているだろうか? 金融サービスを提供している銀行の数も限られていた。当時に比べると、世界はずいぶん変わった。デジタル・ファーストのサービスを掲げる金融事業者が台頭し、フィンテック・サービスを利用する機会も増えている。

なかでも非金融事業者が提供するサービスの中に、金融サービスが組み込まれる形が増えている。支払いや貸付、口座などの機能が、日常的に利用するデジタルサービスの中に組み込まれたものだ。ベイン社によると、すでに米国でやり取りされる金融サービスの5%以上は「非金融サービスの中に組み込まれたもの」が占めており、2026年には7兆ドル(約903兆円)規模に拡大すると推計している。

ロイヤルティ・プログラムが浸透しており、顧客との信頼関係も良好な旅行産業は、非金融でありながらも金融サービスを組み込むのに適した分野だと言える。では、いずれ航空会社が銀行機能も提供するようになるのか? 答えは、銀行の定義によって変わるだろう。

旅行会社が貸し付け業務を始めるために許認可を申請する、というのはあまり想像できないが、こうしたサービスを提供する事業者との連携であれば分かる。最近では、世界の旅行会社のアプリやウェブサイトの中で、自分の口座や決済サービス、ローンなどを利用できる仕組みも増えているようだ。旅行会社が自らフィンテック・サービスを手掛けたり、顧客を金融サービス事業者へとつないだりするより、外部サービスを自社内でも利用できるように最初から組み込んでおくという手法だ。

非金融サービスの中に、金融サービスを組み込んだ事例はいくつもある。なかでも秀逸なのがショッピファイ(Shopify)だ。同社では、様々な種類のSaaS(ソフトウェアを使用した分だけ請求する仕組み)を一式揃えてくれるので、誰でも簡単にオンラインショップを開設できる。ショッピファイ売上の半分以上は、eコマース販売事業者に提供している決済や融資サービスが占めている。

現在のボラティリティ

2022年は、マクロ経済の調整局面となる一年だった。世界全体で通貨価値は大きく変動したが、引き続き、今年も通貨ボラティリティは大きくなると考えるのが妥当だろう。

大きな変動幅にうまく対応する手法を考え、少なくとも、旅行事業者や消費者が保護されるようにすることは、2023年の重要なトピックになる。

B2Bの領域では、様々な通貨での決済が生じる旅行ビジネスに役立つのがテクノロジーで、為替変動に伴う差損をこうむることなく、パートナーと取引できる。同様に、旅行者からは、自国通貨での決済を望む声がますます強まるだろう。外貨取引で生じるスプレッドや顧客体験の改善という側面からも、ますます重要性になるだろう。

生体認証

決済手続きに欠かせないのが、スムーズかつ安全な本人確認だ。本人確認ができる2つ以上の要素をオンライン決済で義務付けるEUの規則、SCA(Strong Customer Authentication:強力な本人認証)の登場により、生体認証を使った「第二の確認」が脚光を浴びている。アップルペイやグーグルペイでは、すでに生体認証をオンラインでの物品やサービス購入で実用化済みだが、旅行産業では、これよりさらに一歩先を行くべきだと我々は考えている。

生体認証は、旅行中の様々な場面で急速に広まりつつある。アマデウスでは現在、ブリティッシュエアウェイズと共同で、ヒースロー空港ターミナル5の一部フライトを対象に、生体認証のテスト導入を実施しているところだ。協力してくれる搭乗客は、機内に荷物を預けたり、チェックインや搭乗する際、パスポートや搭乗券の提示が不要となる。そのかわり、各チェックポイントで顔認証による本人確認を行う。同じことは、ホテルチェーンでも始まっており、生体認証を使ったセルフ・チェックインに活用されている。

同じ本人確認の手法を、旅行中に発生する様々な決済でも応用できるはずだと考えるのは当然だろう。例えば、機内食を事前に注文したり、座席をアップグレードしたり。生体認証を選んだ旅客は、誰にも分からないようにひっそりと支払いを完結できるようになるかもしれない。

CBDCsとステーブルコイン

中央銀行デジタル通貨(CBDCs)とは、最初からデジタル形式で中央銀行から発行される通貨のことで、通貨価値はその国の通貨(米国ならドル)と連動している。伝統的な銀行やカードのネットワークとは切り離されており、ブロックチェーン技術を使って迅速かつ安全なオンライン取引ができるようになっている。

現在、欧州中央銀行やイングランド銀行など、複数の国で、CBDCs発行について検討している。国際決済に関する銀行調査によると、今後3年間でCBDCs発行に踏み切る中央銀行は、世界人口の20%をカバーする規模になると予測している。

一方、実在する通貨にバックアップされたステーブルコインというのは、民間事業者が発行するものだが、各国政府が発行する通貨、例えばドルやユーロなどに1:1で連動した価格設定になっている。実在通貨に連動しているので、価格変動もその範囲内にとどまる。こちらもブロックチェーン技術を使って流通する仕組みだ。

中央銀行のお墨付きがあるCBDCsとステーブルコイン、どちらがグローバル決済の改善により貢献するのかは未知数だが、今後の動きには注目しておきたい。

基本的に、最初からデジタル形式で発行されている通貨のメリットは、迅速かつ安価な決済サービスであること。特に国境を越えた決済や事業者間の取引が発生する旅行においては、関心が高いはずだ。デジタル通貨が広く採用されるようになれば、よりコスト効率の良い支払い方法として、旅行者から支持されることは想像に難くない。

2022年は、決済やフィンテック改革の重要性について、旅行産業全体で理解が深まった。アマデウスの調査結果では、この分野への投資は優先度が高いとする旅行関連企業が大多数を占め、OTA、航空会社、法人旅行などでフィンテック導入が進んでいる。

こうした流れは2023年にさらに加速すると我々は予測している。スムーズでコネクティッドな決済手段を提供できるかどうかは、旅行ブランド間の競争において、ライバルとの差別化につながる重要な要素になっており、旅行とフィンテック事業者の連携はさらに進むだろう。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:TRAVEL FINTECH TRENDS TO WATCH IN 2023

著者:デビッド・ドクター氏、アマデウスの決済担当エグゼクティブ・バイスプレジデント 兼 同社の新事業アウトペイスの最高経営責任者(CEO)

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