グーグルは、全フルタイム従業員のうち約6%に当たる約1万2000人を解雇した。これまでで最大の人員削減だ。2011年に買収したITAソフトウェアは、Googleフライトの開発で重要な役割を果たしていたが、買収によってグーグルに入社したシニアマネージャーやエンジニアも解雇の対象となった。約100人いたGoogleフライトに携わっていた従業員のうち10~12%が解雇されたことから、今後、Googleフライトの戦略が変更される可能性がある。
ITAソフトウェアは、Googleフライトのほか、アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空、アラスカ航空、エア・カナダ、中国東方航空、イベリア航空、LATAM航空、ターキッシュ・エアラインズ、ヴァージン・アトランティック航空など航空会社のeコマースサイトを動かすエンタープライズ・フライト・プラットフォームの基盤にもなっている。
Googleフライトは2011年秋にベータ版をリリース。航空会社にとっては、重要な顧客獲得ソースとなっていた。情報筋によると、今回の大量解雇によって、Googleフライトはトラベル事業の他コンテンツやグーグル全体よりも大きな影響を受けているという。
考えられる今後の影響では、独立型ウェブサイトとして、Googleフライトの重要性が低下し、Googleフライトより収益性の高いGoogle.comにまとめられる傾向が強まるかもしれない。これにより、旅行計画におけるGoogleトラベルの一貫性が失われるリスクがある。
一方で、ホテル、バケーションレンタル、体験(Things to do)などのGoogleトラベルは、収益性が高いため、これまで以上に重視されることも考えられる。
さらに、航空会社向けのエンタープライズ・フライト・プラットフォームへの投資が削減される可能性もある。
これに対して、Google広報担当者は「 私たちは常に、旅行者が必要な情報を見つけられるように支援し、オンラインで顧客とのつながりを求めている旅行パートナーをサポートすることに重点を置いており、これは変わることない」と説明するにとどめている。
Googleの航空事業とは
ここで、Googleが進める航空事業ををまとめる。
- 現在のところ、Googleトラベル(travel.google.com)にあるGoogleフライト(flights.google.com)は収益を生み出していない。ユーザーがGoogleフライトの航空会社のリンクをクリックすると、航空会社あるいはOTAのサイトに移動し、予約することになる。
- Google.comでのフライト検索では、OTAとメタサーチからの広告収入を得ている。
- グーグルは、航空会社との契約でも収益を得ているが、航空会社の合併や大手OTAやメタサーチとの競合のために、この分野への関与や投資は弱体化している。
- Googleクラウドには、航空会社ではルフトハンザ航空、GDSではセーバーが顧客として参画している。
「Googleトラベル」におけるGoogleフライト
Googleフライトは、多くの航空会社にとって、直販を除いて最大の顧客獲得ソースとなっている。ユーザーがリンクをクリックして航空会社のウェブサイトに移動しても、グーグルは航空会社に料金を請求しない。このため、この機能は航空会社にとって「無料」となっている。 ただし、航空会社は グーグルに正確な運賃と空席状況のデータを提供する義務があるため、Googleフライトに参加するために独自の経費を負担している。
グーグルは、Book on Googleで予約の際にコミッションを得ることでマネタイズを試みたが、航空会社との話し合いの結果、結局このサービスを停止した。ユーザーを惹きつけることができず、逆に混乱させた。航空会社は自社で顧客を獲得したがった。
また、グーグルは、Googleフライトで企業の出張サービスをパッケージ化しようとしたが、うまくいかなかった。法人はより柔軟なフライト計画を求めていたが、グーグルにはフライト変更を処理するリソースがなかったためだ。
さらに、Googleフライトで、航空会社のプレミアム商品のアップセールも試みたが、大金を稼ぐまでには至らなかった。
「Google検索内」のGoogleフライト
グーグルは長年にわたって、travel.google.comのGoogleトラベル と Google.comでのGoogle検索内のフライトについて、そのバランスと収益の可能性について、議論を行なってきた。今回のGoogleフライトでの大量解雇は、グーグルとして、Googleトラベルでのフライトよりも、Google検索でのフライトを重視し、投資を増やしていくことを示唆しているように見える。
Google.comでフライトからの収益性を上げる新たな仕掛けを考えるのかもしれない。それは、たとえばOTAや観光関連の広告の価値を引き上げることにもつながる。
グーグルは、大量解雇を発表するまで、Googleフライトの改善を続けてきた。2022年5月には任意の日付の航空運賃を追跡する機能を導入。9月にはフライト検索でCO2排出量フィルターも設定した。しかし、今回の大量解雇の後、そうした取り組みが継続されるのかどうかは疑問だ。
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Google Flights Could Shift Strategy After Heavy Layoffs
筆者:Dennis Schaal氏