観光庁の「観光DX」事業に採択された3団体が成果報告、観光地域のデータ収集と活用で成功したポイントと新たな課題を聞いてきた

観光庁は、「観光DX」成果報告会として「Next Tourism Summit 2023」を開催した。これは、観光分野のDX推進の一環として推進している「持続可能性の高い観光地経営の実現に向けた観光DX推進緊急対策に係る実証事業」及び「DXの推進による観光・地域経済活性化実証事業」に参画する事業者が、その成果を報告するもの。2022年度に採択された14事業のうち「豊岡観光DX推進協議会」「福井県観光DX推進コンソーシアム」「スポーツイベントツーリズムコンソーシアム」が成果報告をおこなった。発表された3つのプレゼンテーションをレポートする。

旅館が共通のPMSを使用、「まち全体が一つの温泉旅館」

豊岡観光DX推進協議会は、「”まち全体が一つの温泉旅館”のDX化実現事業」を進めている。豊岡市は、城崎温泉を中心とした「共存共栄」の考え方が根付いており、JR豊岡駅を「玄関」、メインストリートを「廊下」、旅館を「部屋」、土産物屋を「売店」、外湯を「大浴場」と位置付け、従来から「まち全体が一つの温泉旅館」として温泉街全体で観光客を受け入れてきた。

しかし、これまでは城崎温泉や豊岡市の宿泊データをリアルタイムで把握する手段を持っていなかったところに課題があった。また、冬の稼ぎ頭であるズワイガニ(松葉ガニ)の価格が年々高騰するため、先々の予約を見通すのが難しい状況にもなっていた。

さらに、宿泊客1人1泊あたりの観光消費額は2万2650円(2019年度)、平均宿泊日数は1.12泊(2019年度)で、京都市などと比較すると低く、観光消費額の点でも課題認識を共有しているという。

そうした課題解決に向けて、まち全体でDXを推進。地域の宿泊(旅館)、物販(土産屋)、飲料(飲食店)のデータを取得・統括することで、旅行者の動きをリアルタイムで把握し、仕入れや従業員のシフトなどを調整する取り組みを始めた。

実施に向けては、若手経営者からの意見を集約し、DMOや行政が課題の整理をおこない、地域と課題解決の方向性を共有。その上で、2021年度に「豊岡観光DX基盤」を構築し、宿泊施設のサイトコントローラーやPMSに収集されている宿泊データを1つのシステムに集約。リアルタイムに宿泊データを把握する仕組みを整えた。また、蓄積された共通PMSをもとに、リピーター獲得に向けてメールマーケティングを実施した。

実証事業を通じて、2022年の追加観光消費額は目標の41%(3.8億円)まで到達。再訪率はKPIの39.4%を超える41.4%に、1人1泊あたりの消費額もKPIの2万3580円を上回り、3万2438円となった。顧客データはKPIの5000件に対して8393件、共通PMS導入施設はKPIの15軒に対して23軒と成果を挙げた。

今後は、実証事業の次のステップとして、CRMシステムを整備することで、顧客満足度を高め、周遊の促進やリピーターの獲得を通じて、現地消費額の増加を目指していく。また、CRMで得られた知見をECにも生かし、地域産品の販売を強化。3年後には、宿泊客約2割のデータを収集・分析することで、年間9.3億円の追加消費を生み出していきたい考えだ。

事業を通じて、新たな課題も抽出。自走に向けて、次年度では、ITリテラシーの低い経営者も含めさらなる事業者の巻き込み、個人情報保護法の対応整備、データ収集の範囲を改善していく。データ収集では、生年月日や年齢など抜け落ちているケースが多かったため、今後は地域アプリなど他のDXサービスとの連携を模索していく。

プレゼン資料より各種データを集約してオープンデータ化、地域の事業者が活用

福井県観光DX推進コンソーシアムは、「観光データ連携機能構築による観光事業者の収益向上に向けた実証事業」を推進。来年3月の北陸新幹線の延伸に向けて、データを活用しながら県内各地に「キャッシュポイント」と「集客ポイント」を作り、「稼ぐ観光」を目指す。2024年のKGIとして、年間観光消費額1700億円を掲げた。

福井県では、観光客の消費や移動の実態が把握できるデータが乏しく、観光施策立案や商品開発は経験と勘に頼っており、施策の効果や結果が可視化されていないという課題認識があった。

そこで、最初の実証事業として、データを収集し実態を可視化することに取り組んだ。スマートフォンアプリ「ふくアプリ」での消費やクーポン利用履歴、SNS、アンケートなどから収集された観光関連のデータをDMPである福井県観光データ分析システム「FTAS(エフタス)」に集約・解析し、オープンデータとして公開。地域の各事業者が、FTASに蓄積されたデータを観光商品・集客ポイントの開発や既存観光地の磨き上げに活用できる仕組みを構築した。

アンケートについては、県内70ヶ所にQRコードを設置し、回答者には抽選でプレゼントを進呈するキャンペーンを展開。2023年3月7日時点で約1万8500件を収集した。この情報をオーフンデータ化し、さまざまなアプリを開発した。

FTASについては、動線を含めて使いやすさを改善。利用を増やす取り組みとして、行政や観光プレイヤー向けの勉強会、観光プレイヤーとコンサルティング事業者との連携を進めた。また、人材育成として、オープンデータを活用して、高校生向けにシビックテック入門を開催した。

次に、データを活用した集客ポイントの造成をおこなう実証事業を展開。Googleやインスタグラムの投稿を分析し、新しい集客ポイントの開発に繋げた。

3つ目の事業が民間事業者が稼いでいくためのデータ活用。日本最大級のオープンファクトリーイベント「RENEW」で、デジタル商品券(RENEW Pay)を発行し、その消費動向を分析した。

これまでの実証の総括として、データは実態の可視化で戦略やアクション立案の基になること、効果測定ツールとして地域を活性化するためにオープンデータは有益であるとまとめた。また、実証が成功した背景には、参画者とのリアルの信頼関係が欠かせないとした。

今後は、マーケティングデータの整備を継続するとともに、バックエンドとして観光データを作り込んでいく。観光客が利用するデバイスは今後変化していく可能性があるが、観光データベースがしっかりしていれば、どのような変化にも対応できるとの考えだ。

プレゼン資料よりJリーグ試合当日の周遊促進、統合データベースの活用で

スポーツイベントツーリズムコンソーシアムが実証したのは「一極集中下の来場客を活用した地域経済活性化事業」。スポーツイベント来場者を周辺地域に誘導することができていないという課題を解決するために、スマートフォンアプリ「ユニタビ」を開発。Jリーグ試合観戦の前後に周辺地域への観光を促すだけでなく、スタンプラリー機能を活用した来場者の動態データを分析する取り組みも実施した。

これまでは、Jリーグクラブ、自治体、地域内事業者が個別にのチャネルで情報発信してきたことから、情報伝達率が低く、周遊・消費を誘発できてこなかった。また、来場者の属性や行動が把握できておらず、ニーズも特定できていないことから、効果的な施策や戦略が立てることが難しかった。

実証を展開したのは、札幌市、鹿島市、亀岡市、清水市、福岡市。1拠点に数万人が集まるJリーグの試合日で、ファン・サポーターの行動変容を誘起し、商圏エリア拡大に伴う地域活性化を目指した。

5市では、それぞれのステークホルダーからの情報を集約して、データベースとして統合。観戦QRチケットを基軸としたアプリで地域内の情報を発信し、周遊・消費を促進。そこで得られたサービス利用ログのデータ分析をステークホルダーにフィードバックし、次の施策に活用するサイクルを実証した。

開発したアプリでは、「ユニフォームを着て、街を旅する」をコンセプトに、観戦QRチケットを登録すると、地域内のおすすめ店舗紹介、観戦&観光ガイド記事、経路検索などの地域に紐づく情報を配信し、観戦日の体験価値を上げる取り組みを進めた。

その結果、約1ヶ月半の実証期間で、アプリのダウンロード数は4368回で、KPIとしていた5000回をほぼ達成。5市で掲載地域情報は182ヶ所、スタンプラリースポットは121ヶ所を集めた。

スタンプラリーについては、KPI2万チェックインを下回ったが、平均チェックイン回数は3.90回となり、一人当たり平均2か所以上の周遊がおこなわれたため、イベントによる行動変容は一定の効果を発揮したと評価した。

アンケート回答者の消費金額全体の変化では、実証前の平均消費金額が5802円とほぼ変わらない5843円。これは訪問するスポットが無料提供の場所も多かったためとし、今後は有料の場所を増やした場合の効果を見ていく考えだ。

今後の自走に向けては、事業者同士の連携が不十分、リソース不足、アプリによるマネタイズなどを課題として挙げた。その上で、2023年度の戦略として「ムーブメント&リテンション」を掲げ、ファン・サポート向けには、試合前後の「顎・足・枕」を強化し、体験コンテンツを拡大していく。また、Jリーグ全試合で利用できるようにし、ユーザーを増やしていくとともに、ホームタウンでの横連携を強化する仕組みを構築していく。

プレゼン資料より

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