大手グローバルOTAは、景気が悪化しなければ、2023年に自社株を買い戻す動きを強めることは間違いないと言われている。それでも、買収や合併など新たな事業を展開するための資金は十分に残されている。
ブッキング・ホールディングス(Booking.com)、エアビーアンドビー(Airbnb)、トリップ・ドットコム・グループ(Trip.com)、エクスペディア(Expedia)の手元資金は、2022年末時点で合計約340億ドル(約4.6兆円)。コロナ前の2019年末よりも、さらに自由に使える現金が増えている。
ブッキングの2022年末時点の手元資金は122億ドル(約1.6兆円)。2023年3月に中国の配達アプリおよびホテルアグリゲーター「Meituan」の株式の売却を完了したことで、さらに14億ドル(約1890億円)が追加された。エアビーは2019年の20億ドル(約2700億円)から96億ドル(約1.3兆円)、トリップ・ドットコムは85億ドル(約1.14兆円)から87億ドル(約1.17兆円)と増やしたが、エクスペディアは46億ドル(約6210億円)から41億ドル(約5500億円)に減らした。
ブッキングの戦略、優先順位は?
ブッキングには多くの戦略的選択肢がある。その一つが、フライトテクノロジーパートナーであるスウェーデンのetraveli Groupの買収。2021年11月に、その意向を発表したが、依然として欧州委員会から認可は下りていない。ブッキングは、この買収によって「コネクテッドトリップ」戦略を加速させようとしている。
自社株の買い戻しについては、最高財務責任者のデビッド・ゴールデン氏が「旅行需要が成長し続けると仮定すれば、今後4年間で累計240億ドル(約3.2兆円)の買い戻しを完了させるつもりだ」と明かしている。
それでも、新たな買収の余力は十分に残している。米国市場のシェア拡大と若者層の獲得を狙って、成長著しい米国ホッパー(Hopper)を買収する可能性もあるが、それよりも、etraveli Groupの買収を成功させることが優先されるだろう。
エアビーは、自社株買い戻しと買収を狙う
エアビーは、「体験」ビジネスを強化する意向だが、トリップアドバイザー傘下の「Viator」や「GetYourGuide」などのアクティビティ予約プラットフォームを買収することはないだろう。それは、エアビーのホストが提供する体験とは中身が違いすぎるからだ。
およそ100億ドル(約1.35兆円)の手元資金があるため、テクノロジー系の小規模ツアー・アクティビティ企業、あるいはラグジュアリー分野の体験企業と取引を行う可能性ある。売却されそうな不動産管理会社もあるが、予約プラットフォームのエアビーは、労働集約型の不動産管理ビジネスよりもはるかに収益性の高いビジネスをしている。
エアビー最高財務責任者のデビッド・ステファンソン氏は「2023年初頭にさらに自社株の買い戻しを行う可能性が高い」と明らかにしている。2022年8月には20億ドル(約2700億円)の買い戻しを発表しているが、そのうち5億ドル(約675億円)がまだ実行されていない。
同社は2022年に初めて19億ドル(約2570億円)の黒字化を達成。2020年以降、体験やホテルへの投資は中断し、中核となるバケーションレンタルに経営資源を集中させてきた。現在のバケーションレンタル、長期滞在、体験以外の新しい分野にビジネスを広げるビジョンを持っているが、2023年も新たな事業分野への拡大には慎重な姿勢になるかもしれない。
トリップ・ドットコムは、既存事業の再生を優先か
トリップ・ドットコム・グループは、2023年に自社株の買い戻しを進める可能性がある。一方で、87億ドル(約1.17兆円)の手元資金を活用して、買収を仕掛ける可能性もある。
同社は、2022年12月にドバイで開かれたSkift Global Forum Eastで、中東市場に大きな関心を寄せていることを明らかにした。中東の企業を買収することも考えられるが、まずは中国の旅行市場が回復していくのに合わせて、既存事業の再生に力を注ぐだろう。
エクスペディアは、買収の優先順位は低い?
エクスペディア・グループは、過去数年間、事業ポートフォリオを整理してきたため、大規模な買収や合併の優先順位は高くないだろう。同社は2023年、バケーションレンタル「Vrbo(バーボ)」のエクスペディアプラットフォームへの移行を進め、新しいロイヤルティ・プログラムの立ち上げを予定している。
同社最高財務責任者のジュリー・ウォーレン氏は「2023年も『機会に応じて』自社株の買い戻しを行う予定」だと語っている。2022年第4四半期に、370万株を約3億5000万ドル(約473億円)で買い戻したことで、「株主還元を最大化することができた」という。
トリップアドバイザーは、「GetYourGuide」買収に動く?
トリップアドバイザーの2022年末時点の手元資金は10億ドル(約1350億円)。同社は、2022年に体験予約のViatorを別会社化する計画を立てていたが、市場環境が悪化していたため断念した。新CEOのマット・ゴールドバーグ氏は、今後の計画について明らかにしていないが、ある投資家は「GetYourGuide」を買収して、ツアー・アクティビティ事業を強化する可能性はあると見ている。
Viatorは昨年、2019年比171%増の収益をあげ、トリップアドバイザーのビジネスを牽引した。GetYourGuideは、8億8600万ドル(約1196億円)の資金調達を行ったが、事業規模はViatorよりもおそらく小さい。投資家によると、買収する場合、トリップアドバイザーにとって手頃な価格になるだろうと見る。
※ドル円換算は1ドル135円でトラベルボイス編集部が算出
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Booking and Airbnb Have a $22 Billion Wad of Cash — How Will They Spend It?
著者:Dennis Schaal氏