旅行ビジネスへの世界の投資環境を識者が議論、旅行系スタートアップへの投資熱が鈍化、投資家が注目しているポイントは?【外電】

コロナ禍による規制から解かれ、活気を取り戻した旅行マーケットでは、インフレや金融不安の逆風下でも、需要は順調に推移している。

だが旅行ビジネスへの投資熱については、2023年上期の段階で鈍化傾向が見られる。米調査会社フォーカスライトによると、2023年1~3月の投資ペースが年末まで継続した場合、旅行業への投資額は、2015年レベルまで後退する見込みという。

こうした傾向は、生成AIを除く全ての業種で同じなのかもしれないが、旅行業の場合、需要は依然として力強い。投資家は、今後の成長を期待しつつ、タイミングを見計らっている段階なのか。あるいは、利率やイールド面でハードルが上がったことが阻害要因となっているのか。

このほどスペイン・バルセロナで開催された旅行テックの国際会議、フォーカスライト・ヨーロッパでは、今後の旅行産業を取り巻く投資環境について、3人の専門家が議論した。

登壇したのは、ロシュ・ベンチャーズのマネジングパートナー、ボビー・デムリ氏、レイクスターのパートナー、クリストフ・シュー氏、そしてエンネア・キャピタル・パートナーズのオペレーション担当ディレクター、ヨハンナ・ヴァン・ハーマン-キム氏。旅行業への投資が伸び悩む要因からスタートアップへの提言まで、様々な知見を語った。

モデレーターはフォーカスライトの調査&イノベーション担当マネジャー、マイク・コレッタ氏。

旅行業に対する投資家の期待度は?

レイクスターのシュー氏は「経済のマクロ、投資額やIPOの状況は、2000年や2008年など、過去の景気後退局面と似ている」と指摘。「同じパターンが繰り返されている。当時、投資額は40~70%減少したが、今も全く同じ。危機の後、2年ぐらいでカーブは上向きに転じており、今回もそうなるだろう。目下、投資家は評価額の動きを見守っているところだ」と見ている。

レイクスターでは、2023年にすでに10社に出資しており、「いずれも旅行業ではないが、我々が投資を再開している証だ」と同氏。「旅行業の回復ペースは、他の産業よりも早く、力強い」とも指摘し、「非常に楽観視している、とまでは言えないが、今年後半に向けて、投資はさらに活発になるだろう」と予測している。

左から、クリストフ・シュー氏、マイク・コレッタ氏(モデレーター)

旅行業に特化したファンド、ロシュ・ベンチャーズのデムリ氏は、「まずトラベル系の起業家は、評価額を見直してほしい。まだ高すぎるので、投資家を遠ざける要因になっている。次に、投資家側の問題として、攻める姿勢が足りない」と指摘した。「今、旅行マーケットの需要はすさまじく、積極的に投資しない理由は見当たらない。ただし、ここ5年ほどの高すぎる評価額と、現状とのバランスはとる必要がある」と話した。

エンネア・キャピタル・パートナーズのヴァン・ハーマン-キム氏は、「パンデミック下で、プロダクトや業務プロセスの改善に取り組み、より強い経営体質になったスタートアップ」に注目している。

またフォーカスライト調べによると、2023年に旅行系事業が獲得した投資額を地域別に見ると、欧州がアジアや北米を上回っている。この点についてデムリ氏は、「欧州における旅行スタートアップへの投資額は、旅行業がGDPや雇用に占める大きさに比べて、これまでがむしろ少なすぎた。旅行・観光資源が豊富な欧州は、この分野のリーダーであるべき」と持論を展開。

シュー氏は「これまで欧州での起業は、マーケットプレイス型やB2Cが多かったが、最近ではB2Bも増えている。収益源がバランスよく複数あると、事業の成長も予測しやすくなり、投資家からの関心も高くなる」と話した。

ヴァン・ハーマン-キム氏は、開催地となったスペインを例に、域内や国内での旅行需要が一定以上の規模があることも付け加えた。

左から、ボビー・デムリ氏、ヨハンナ・ヴァン・ハーマン-キム氏

起業のチャンスは逆境下にあるとき

エンネア・キャピタル・パートナーズでは、スタートアップ育成の一環として、起業の初期段階にある創業者を対象とした5週間のプログラムも開催している。

「投資家は、以前よりも念入りにターゲットを選定するようになった。これは健全な状況ではあるものの、起業の難易度は高くなっている。そこで、スタートアップが機関投資家からの出資を獲得するための準備をサポートすることが狙い」とヴァン・ハーマン-キム氏はその趣旨を説明。プロダクトの良さだけでなく、事業モデルから創業者自身まで、一貫性あるプレゼンテーション力などがカギになると説く。

デムリ氏は、旅行業の問題点として「非常に専門特化された業種。例えばGDSと航空流通の関係などは、一般投資家には理解しづらいところ。私が変革したいと考えているところでもある」と指摘。また、多くの起業家が米国マーケットを目指すなかで、「欧州の旅行産業の未来のために、欧州生まれの旅行テック会社を育てること」にも意欲を示した。

ロシュ・ベンチャーズの設立は、2022年8月。デムリ氏は当時を振り返り、「旅行マーケットの回復に賭けたが、実際、その通りになっている」。またケネディ米大統領の母、ローズ・ケネディ氏の「逆境下でこそ、その人の真価が問われる」との言葉を引用し、「最高のチャンスに恵まれるのは、逆境の中にある時。だから昨年夏に決断した」。

シュー氏は、逆境を克服し、さらに成長を続けているスタートアップに共通する要素として、「まずは創業者である経営トップの危機管理力とリーダーシップ。もう一つ重要なのは出資している投資会社の陣営。長期的にサポートするところが揃っているかも、危機においては重要なポイントになる」と指摘した。

最後に、これから起業するスタートアップへのアドバイスとして、ヴァン・ハーマン-キム氏は「無駄を削ぎ落とすこと、フレキシブルであること、自己管理」を挙げた。

デムリ氏は「投資マネーがあふれかえっていた時代は終わった。今は、高い利率とインフレに賢く対応しなければならない。我々の世代は、本格的なインフレを経験したことがなかったが、実はこれまでが非日常だった。今の状況が、これからの日常になるのだろう」と話した。

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