北海道観光振興機構トップに聞いてきた、就任後に推進した組織改革から、札幌五輪の誘致、「アドベンチャートラベル」への期待まで

北海道観光振興機構は、全国に10団体ある広域連携DMOのひとつ。広い北海道全域の観光振興に取り組んでいる。2022年6月にアイティ・コミュニケーションズ会長の小金澤健司氏が新たに会長に就任。機構の組織改革を進め、北海道観光の司令塔としての役割を明確化した。小金澤氏は、今年9月に北海道で開催される「アドベンチャートラベル・ワールドサミット2023(ATWS 2023)」実行委員会では筆頭副会長も務める。

同機構が未来の北海道観光で果たす役割とは?「北海道にとって観光は総合産業」と話す小金澤氏に単独インタビューで聞いてみた。

スリム化で機動的かつ効果的な組織運営

小金澤氏が会長就任後、まず手掛けたのが機構の組織改革だ。元観光庁長官の田端浩氏を座長とする有識者10人からなる改革プロジェクトチームが立ち上げられ、広域連携DMOとしての機構の役割を議論。今年2月には提言書が小金澤氏に手交された。

ポイントは、組織のスリム化。副会長を13人から3人に、理事も26人から12人にそれぞれ減らし、機動力のある意思決定プロセスを構築するとともに、それぞれの担務を明確にした。また、新たに幹事会を創設。その中に分科会を作り、これからの北海道観光について自由な議論を行なってもらい、提言をまとめてもらう。小金澤氏は「業界を問わず、インバウンド市場を見据えて外国人にも参加してもらう。画期的な幹事会になるだろう」と期待を寄せる。

さらに、「もっと様々なバックグラウンドを持った人材に参加してもらいたい」ことから、出向元を拡大するほか、プロパー職員の新規採用も進める考えだ。

このほか、広域連携DMOとして、4つの地域分科会の機能も活性化させていく考え。その分科会では、地域DMOや地域連携DMOなど地域ごとの課題や施策を議論してもらい、機構はその議論を吸い上げ、調整していく。

輸出額よりも大きい外国人消費額

こうした改革を進める背景には、「北海道にとって観光は総合産業」という考えがある。同氏は「観光は北海道経済を牽引している。あらゆる産業に寄与することを考えると幅広い人材が必要になる」と話す。現実的に、コロナ禍で観光客が激減したことで、一次産業の売上も激減したという。

特にインバウンドによる北海道経済への貢献は大きい。機構によると、2019年度の観光入込客数約5277万人のうち、外国人は5%に過ぎないが、観光消費額では総額1.52兆円のうち、外国人は29%を占めた。

また、外国人消費額4323億円は、北海道の輸出額3121億円よりも多い。日本全体では、輸出額約77兆円に対して外国人消費額はその5%ほどの約4.8兆円に過ぎない。それだけに、小金澤氏は「道民に『観光は総合産業』であることを意識してもらうことが、機構の大切な役割になる」と強調する。

観光従事者の待遇改善にも意欲

小金澤氏は、機構の役割としてデスティネーションマネージメントについても言及。「観光を持続可能な産業にしていくためには、地域住民の満足度の向上が大前提」と話し、そのためには観光従事者の賃金の引き上げが重要との認識を示す。

「道民に『観光は魅力的な産業』であると思ってもらわなければならない。道外の人たちにも北海道の観光の仕事に就きたいと思ってもらえる環境にしていくことが必要だろう」と小金澤氏。賃金引き上げの一つとして、海外のチップに相当する宿泊施設への「サービス料」を従業員の給与として還元する仕組みも「機構として考えていきたい」と意欲を示した。

コロナ禍の3年間で北海道でも宿泊施設や運送業で人手不足が深刻化したという。その解消のためにも、付加価値をつけて給与水準を上げていく必要がある。小金澤氏は、アドベンチャートラベル(AT)がそのきっかけになると見ており、9月に開催されるATWS2023に大きな期待をかける。

小金澤氏は、昨年スイスのルガーノで開催されたATWSに参加した。「観光従事者の給与は高く、地元では観光事業を目指している人が多い」ことに感銘を受けたという。

「ルガーノを訪れた時、スイスはサステナブルツーリズムが進んだ観光立国だと感じた」と小金澤氏ATを根付かせることで稼ぐ力の強化を

アドベンチャートラベル(AT)とは、自然とのつながり、異文化体験、身体的アクティビティの3つの要素のうち2つ以上を含む旅行形態のこと。従来のマスツーリズムとは異なる、高付加価値化に重点を置いた旅行形態だ。北海道には豊かな自然でのアクティビティだけでなく、アイヌ文化など異文化体験のコンテンツも豊富で、ATのポテンシャルは高い。ATWSで北海道のATが評価を受ければ、外国人入込客数のうち9%ほどにとどまっている欧米豪からの旅行者を増やし、総合産業である観光での消費額をさらに増加させることにも期待が持てる。

ATWSには世界からATに携わる約800社が来道することから、小金澤氏は「市場規模70兆円と言われるAT旅行者を呼び込む最大のチャンス」と位置付ける。

一方で、それだけに「責任も大きい」と話す。機構は、ATWS前の取り組みとして、道内に向けて「ATは冒険旅行だけではなく、サステナブルツーリズムの第一歩になることを理解してもらう」ことに注力していく。また、ATWS後は、そのレガシーを内外に発信していく施策も進めていく。小金澤氏は、札幌商工会議所魅力創造委員会の委員長という立場も生かしながら、ATWSで設定されるデイ・オブ・アドベンチャー(DOA)ツアー31コースを、札幌市民や道民にも発信することで、ATを道民に根付かせる取り組みを進めてく考えも示した。

実は、北海道観光の最大のマーケットは道内客。2019年度の入込客数は全体の84%を占めた。一方、消費額は日帰りも多いことから全体の43%と半分にも満たない。道民でも、札幌丘珠空港から奥尻や利尻へ飛行機で30分ほどで行けることを知らない人は多いという。離島はATWSのプレ・サミット・アドベンチャー(PSA)ツアーにも組み込まれているところだ。インバウンドだけでなく、この道内客や消費額で28%を占める道外客のATへの関心が高まれば、全体の消費額の規模もさらに拡大し、北海道観光の稼ぐ力はさらに強まることになる。

総合産業のためにも2030年札幌冬季五輪誘致を

小金澤氏は、2000年にコールセンター事業を展開する「アイティ・コミュニケーションズ」を創業した。最初のクライアントはAIRDO。その後、航空各社の予約業務を請け負い、国内OTAや大手旅行会社に事業を拡大した。また、15年ほど前には北海道の地場産品の販売マーケティングを手掛ける「北海道マーケティング総研」を創業し、海外販売向けには「クール北海道」を立ち上げた。

その経歴からも、北海道の観光振興への思いは強い。「2030年札幌冬季五輪誘致の旗は下ろさない」と公言するのも「観光は総合産業」という考えがあるからだ。「観光は、宿泊や運輸などの業界だけで成り立つものではない。波及効果は非常に大きい。それを道民に理解してもらうのも機構の大きな仕事」と小金澤氏。

身体的アクティビティ、自然とのつながり、異文化体験の3つの要素のうち2つ以上を含むものと定義されるATには、観光の総合力が求められる。ATが普及していくことで、北海道の総合産業としての観光力も高まっていくのだろう。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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