北海道の地元事業者が挑む「アドベンチャーツーリズム」、世界に売り込む準備と課題、見据える未来を聞いてきた

「アクティビティ」「自然」「異文化体験」の3つの要素のうち、2つ以上を組み合わせた旅行形態として定義されるアドベンチャートラベル(AT)。北海道にはそのコンテンツが豊富に揃う。北海道アクティビティのスペシャリスト「北海道宝島旅行社」、2023年3月に開業した北海道ボールパークFビレッジにエクスペリエンスセンターを構える「スペシャライズド・ジャパン」は、いずれも2023年9月に開催される「アドベンチャートラベル・ワールドサミット北海道・日本(ATWS2023)」を契機に、北海道の特徴を盛り込んだATを世界に売り込む準備を進めている。

北海道の価値を観光で高める、北海道宝島旅行社

北海道宝島旅行社は、北海道に特化したタビナカ事業者。「宝の島、北海道の価値をみんなでカタチに」を理念に、北海道らしい体験コンテンツの造成・販売を通じて、観光地域づくりに取り組んでいる。

その事業は主に3つ。国内向けには1300件以上の体験プログラムをOTAプラットフォームとして販売しており、現在のところ道内約350の事業者が参画している。

2つ目の事業がインバウンド個人旅行者向けのテーラーメイドツアーの企画・造成・催行。顧客のニーズを受け取り、アクティビティから宿泊、移動、ガイドの手配を行い、着地型のパッケージ旅行をサポートする。マーケットとしては、東南アジア、ハワイ、米国本土、オーストラリアなどからの受注が多いという。

3つ目が観光地域づくり。地域の観光コンテンツづくりや言語対応などの受け入れ環境の整備を支援している。同社観光地域づくり事業部の雨池さやかさんは「地域の農業や漁業の素材を生かして、持続可能な地域づくりを進めたいという観点から、観光に注目しているところも多い」と話す。その背景には、人口減少への危機感や消費者の顔を直接知りたいという生産者側のニーズがあるという。

ATWSで地域の観光素材を表舞台に

北海道宝島旅行社は、北海道に根ざしたタビナカ事業者という強みを生かし、2023年9月に開催されるATWS2023では、世界から集まる参加者向けのプレ・サミット・アドベンチャー(PSA)で8コースを担当。大雪山ハイキング、洞爺湖有珠山トレッキング、知床サイクリング、箱庭・大沼カヌー、離島ハイキング、女性のためのSDGs文化体験など多彩なATを提供する。これまでインバウンド向けテーラーメイドツアーでの経験と実績を活かしたものだ。

雨池さんは「有名な観光地でなくても、素晴らしい観光資源を持っている地域は多く、そこで頑張っている方々も多い。その地域をATWSの機会に表舞台に出して、海外にアピールしていきたいと思っています」と話す。

ATは一般的に滞在日数が長く、消費金額も大きいことから、観光の高付加価値化を可能にする旅行形態と認識されている。ATが定着・浸透することで、北海道の、日本の観光が変わることへの期待は大きい。「大切なのはATWS後のこと」と雨池さん。インバウンド向けに展開しているテーラーメイドのATが、道内の国内旅行にも広がれば、観光産業の発展や観光地域づくりの深化につながると見ている。

その国内での変化の芽は、コロナ禍を経て、少しずつ見え始めている。「以前はアトラクション的な商品が人気でしたが、現在では、人や体験にお金を使うようになってきていると感じています」と明かす。特定のガイドにリピーターが付くという傾向も見え始めたという。

「インバウンド対応をしたいという地域からの要望も多い」と話す宝島社の雨池さん(左)。「農家さんとの協力で収穫体験なども山岳ツアーに組み込めれば」とガイドの尾櫃さん。

「稼げるガイド」で観光の高付加価値化を

ATによる高付加価値化で重要になってくるのが、そのガイドの存在だ。雨池さんも「弊社の事業はガイドさんの力なしには成り立ちません」と、その重要性を強調する。そのガイドの力とは、ツアーの引率だけでなく、その場所、そのコト、そのモノの背景にあるストーリーを語れることだという。

ニュージーランドで2年、北海道で4年、山岳ガイドを務める尾櫃友香さんは「参加者のニーズは本当に幅広いので、自分の専門だけでなく、いろいろな情報をアップデートしていく必要があると思います」と話す。

尾櫃さんによると、日本人旅行者は風景や野生動物に関心を寄せる傾向がある一方、外国人旅行者は、旅慣れた人が多いため、たとえば、この木の年齢は? この石の種類は? この地形の成り立ちは? など、一歩踏み込んだ質問が多いという。そこで、「周氷河地形や玄武岩の成り立ちの話をすると、北海道らしさを感じて感動されるようです」と明かす。

尾櫃さんは、ツアーの前段階として地元とのコミュニケーションや下見も大切にしている。「たとえば、アイヌ文化の微妙な感覚を翻訳する場合でも、事前の情報収集は大切」という考えだ。また、ストーリーテラーだけでなく、「なるべく、ツアー参加者と地元の人たちをつなげる役割もしていきたい」と話す。

一方で、ATを普及させていくためには、そうした質の高いガイドを拡充していくことが求められている。雨池さんは「ガイドの収益性を改善し、いわゆる『稼げるガイド』を育成していくことが必要になってきます」と話す。稼げるガイド、商品単価の引き上げ、ガイド技術の向上、旅行者の満足度アップ。この好循環が観光の高付加価値化を生み出す。北海道も、その課題を認識し、従来の「北海道アウトドアガイド制度」を土台に、ATを見据えた新しいガイド認定制度の創設に動き出している。

また、雨池さんは、課題として「北海道にはブランド力はあるが、それを加工する力がない」ことも挙げた。一つ一つの素材の素晴らしさは国内外で認められているが、「それを伝える仕組みが弱い気がします」と話し、それはガイドの質にもつながる話だと続けた。

北海道の自転車体験をブランディング、スペシャライズド

自転車の世界的ブランド「スペシャライズド(Specialized)」は2023年3月、北海道ボールパークFビレッジの開業に合わせて「北海道スペシャライズド・エクスペリエンス・センター」をオープンした。自転車の販売ではなく、ロードバイクからマウンテンバイクまで自転車体験の楽しさを伝える施設として、世界で6番目、アジアでは初のエクスペリエンス・センターになる。常時50台以上のバイクを揃え、すべて試乗車としてレンタルすることができる。

日本でも、コロナ禍を経て、移動手段としてだけでなく、サステナブルで健康的なタビナカ体験の一つとして、自転車の魅力が再認識されているところだ。北海道出身のシニアデジタルコマースマルネージャーの谷口幸生さんは「世界中の人たちに、北海道での自転車体験のポテンシャルを伝えていきたい」と話す。

北海道のパウダースノーは今や世界中のスキーヤーやスノーボーダーに憧れの的。谷口さんは「同じようなブランディングが自転車でも可能だと思っています。雄大な景色の中で、気持ちよく走れる体験は北海道の強み」と強調する。

北海道でのサイクリングの課題となる冬に向けては、エスコンフィールド3塁側に隣接する場所にマウンテンバイク用の「パンプトラック」を新たに設置した。パンプトラックとは、アメリカ発祥の凹凸のあるコースで遊ぶアクティビティ。谷口さんは、「冬はパンフトラックで汗をかいて、エスコンフィールド『TOWER11』の温泉サウナに入って、『そらとしばbyよなよなエール』でクラフトビールを楽しむ、そんな過ごし方も提案していきたい」と意欲を示す。

「手ぶらで立ち寄っていただいても最新のバイクを楽しめます」と谷口さん。

Fビレッジがある北広島市は、サイクルツーリズムにも力を入れているという。スペシャライズドも北広島市と連携協定を結び、「ツール・ド・キタヒロ」などのサイクルイベントを共同開催している。

また、北広島市には「エルフィンロード」というサイクリングルートが整備されていることから、スペシャライズドとしても、体験プログラムとして積極的に活用していきたい考えだ。

オープンして間もないことから、現在はプロ野球観戦で訪れた人たちが立ち寄るケースが多く、「昼は家族でサイクリングを楽しみ、夜はナイターでファイターズを応援するといった人たちが目立つ」という。

ATWS2023トップパートナーとして世界に発信

スペシャライズド・ジャパンは、ATWS2023のトップパートナーにもなっている。期間中、参加者向けのサイクリングツアーも企画。会場となる札幌コンベンションセンターに特設テントを設置し、そこで試乗体験を提供するほか、北広島市のエルフィンロードは札幌市の札幌コンベンションセンターまでつながっていることから、3時間ほどのツアーも企画しているところだ。

「世界中の旅行関係者の人たちに、北海道でのサイクリングの楽しさを知ってもらい、サイクリングを絡めた新しい北海道パッケージを商品化していただければ」と谷口さん。スペシャライズドの世界的ブランド力とATWSが開催される9月の気候は、「北海道のサイクルツーリズムを世界に広める絶好の機会」と期待を寄せた。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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