サービス・ツーリズム産業労働組合連合会(サービス連合)はこのほど、2023年春季生活闘争(春闘)の結果を発表した。今回も、賃金改善では中期的な賃金目標「35歳年収550万円」の実現に向け、1.0%以上の実質的な賃金改善(ベースアップ)に取り組んだ。
観光需要の回復基調と賃上げに対する社会的な機運を受けながらの交渉となった今年の春闘は、多くの加盟組合がベースアップを含む賃金改善で合意。賃金改善額は、集計可能な20組合の平均で9471円(改善率3.23%)となり、サービス連合結成以来の過去最高額となった。実質的な賃金改善額に限っても、集計可能な15組合の平均で7890円(同2.67%)となり、改善率は目標の1.0%を大きく上回った。(2023年6月19日現在、以下同)。
コロナ前の2019年より大きな賃金改善があった背景には、コロナ禍で凍結された分の賃金改善をした加盟組合があったことも影響しているという。
一時金も、過去3年の水準を上回り、2019年を上回った加盟組合もあった。ただし、国際航空貨物は情勢不安の影響を受けた荷動きの鈍化が影響し、前年の水準を下回る傾向となった。
このほか、契約社員やパートタイマーの待遇改善についても、多くの加盟組合が 正規労働者との同様の考え方に基づいた待遇改善を要求。特に今春闘では、賃金改善で実質的な賃金改善を要求した組合も多く、要求した73組合のうち49組合が合意に至った。
【賃金改善額】
※対象<組合数2023年/2022年>:賃金改善額<改善率>/2022年実績<改善率>/2019年実績<改善率>
- 全体<20/11>:9471円<3.23%>/8130円<2.83%>/6472円<2.28%>
- ホテル・レジャー<9/5>:1万73円<4.12%>/4733円<2.07%>/5097円<2.07%>
- ツーリズム・航空貨物<11/6>:9303円<3.04%>/9186円<3.01%>/7103円<2.36%>
【実質的な賃金改善額】
- 全体<15/6>:7890円<2.67%>/5350円<1.79%>/4614円<1.62%>
- ホテル・レジャー<8/3>:5015円<1.99%>/2002円<0.84%>/1012円<0.48%>
- ツーリズム・航空貨物<7/3>:9045円<2.90%>/5944円<1.92%>/5561円<1.83%>
【年間一時金 平均支給カ月数】
※対象<組合数2023年/2022年>:平均月数2023年/2022年/増減/2019年
- 全体<27/11>:3.13/3.51/-0.38/2.95(32組合)
- ホテル・レジャー<12/5>:2.34/1.36/+0.98/2.63(25組合)
- ツーリズム<10/‐>:3.94/-/-/4.06(4組合)
- 国際航空貨物<5/6>:3.78/5.89/-2.11/4.07(3組合)
【夏期一時金 平均支給カ月数】
- 全体<75/58>:1.53/1.15/+0.38/1.40(93組合)
- ホテル・レジャー<39/25>:1.17/0.86/+0.31/1.27(42組合)
- ツーリズム<28/25>:1.96/1.00/+0.96/1.45(45組合)
- 国際航空貨物<8/8>:1.98/2.52/-0.54/1.92(6組合)
※いずれも、2023年6月19日現在
女性初の会長就任、「働く者の声を届ける」取り組み強化
サービス連合は今年、役員の改選期。2023年7月18日に開催した定期大会で、新会長には前副会長の櫻田あすか氏を選任した。
櫻田氏は2023春闘について「まさに転換期になった」と振り返り、成果を強調した。一方で、人手不足のために急回復する需要に対応できていない現状にも言及。「離職が進んでいたことを考えると、安定性や将来性に不安を感じた方が多かったのだと思う。産業競争力を高めるためには、労働環境の改善が欠かせない。賃上げに関しては観光白書でも指摘をされており、賃金が低い産業と位置付けられている。改めて労使で現状を認識し、人材への投資について継続して取り組まなければならない」とも話し、今後も労働条件の向上と労働環境の整備に力を入れる考えを示した。
その一環として、組織強化・拡大も重視する。特に組織拡大は「働く者の声をしっかり届けていくためには欠かせない。そうでなければ産業の実情全体が見えてこない」とし、産業の課題や将来に向けて、働く者の声を政策の議論や要請、提言などの形で上げていく方針だ。
また、櫻田氏はサービス連合で初の女性の会長となったことに加え、自身を含め3名の女性専従者を置いたことも説明。サービス連合では従来からジェンダー平等に取り組んできたが、その活動の「ステージを上げる」考えだ。
具体的には、サービス連合の本部に新たに「ジェンダー平等推進局」を設置し、フォーラムの開催や業界団体への働きかけ、人材育成など、これまで以上に具体的な取り組みを推進する。「人手不足は日本の構造的な問題。働きやすい環境整備の中で男女平等の取り組みを継続し、さらに前進させる。そういう雰囲気を醸成させ、産業内だけでなく社会にも発信していく」と話した。