エクスペディアのアジア責任者に聞いてきた、まもなく開始するホテル選びの新指標から、注力するBtoB事業まで

エクスペディア・グループは2023年後半から、ユーザーがホテルを検索する際の新しい指標「ゲスト・エクスペリエンス(体験)スコア」をプラットフォーム上で提供開始する。これまで価格に偏りがちだった宿泊施設に関する情報提供を見直し、「ゲスト体験の良し悪しを重視していく」とエクスペディア・グループのアジア太平洋地区マーケットマネジメント担当副社長、マイケル・ダイクス氏は話す。

2023年7月に開催されたWiT Japanへの登壇のために来日したダイクス氏に、新たな指標を提供する背景から、コロナ禍を経て注力事業となっているBtoB事業まで単独インタビューで聞いてきた。

価格競争から脱却、体験重視への転換

新たな指標「ゲスト・エクスペリエンス・スコア」とは、エクスペディアが宿泊客から収集したレビューやオーバーブッキング発生率など各種データをもとに、ゲスト体験を指標化したもの。2022年8月から、ホテルの検索結果を表示する際、リストの順位を決定する要素の一つとして社内で活用していた機能という。例えば、「おすすめ順」で検索すると、ゲスト体験スコアが非常に高いホテルは、値段が安い競合ホテルより上位に表示される場合もある。

同スコア自体は、これまで一般公開していなかったが、これをユーザーにもオープンにしていく方針。現在、スコアの表示手法などの最適化をテストしている段階だ。

ダイクス氏によると、宿泊施設を選ぶ際に「価格の数ドルの違いだけでなく、すばらしい滞在体験ができるかどうかを、判断基準として役立ててもらうこと」が狙い。背景にあるのは、同社がコロナ禍を期に進めてきたエクスペリエンス(体験)重視への方向転換、そして旅行テック企業としての経験と技術を徹底的に活かすという戦略だ。

「お客様に体験を提供するのは、ホテルや航空会社などのサプライヤー。仲介業者である我々が関与するのは難しいと、かつては考えていた」と同氏は振り返る。しかし、エクスペディア・グループが保有する膨大な旅行データやAIを活用し、体験内容をスコア化することで、価格に偏重した競争からの脱却を目指す。

実際、エクスペディアがポストコロナ期に実施した多くの調査結果からは、旅行者が、価格よりも体験内容に強い関心を持っていることが明らかになったという。「むしろ、我々を含む旅行事業者側が、消費者に価格のことばかりアピールしてきたのではないか。もちろん価格は重要だが、それ以上に、素晴らしい体験と信頼できるブランドをユーザーは求めている。特に日本人旅行者は目が肥えていて、よい体験ができるかへの関心が高い」(ダイクス氏)。

体験スコアが検索結果の順位決定に占める割合などは非公開だが、「よい体験やおもてなしがあり、お客様に喜ばれている宿泊施設に、もっと多く送客できるように変更してきた。これが好循環を生み、エクスペディアなら、安いだけではなく、体験重視のホテルや宿泊施設が見つかるという信頼につなげたい」と説明する。

スコア化へのホテルからの反応は?

ホテルや宿泊施設関係者向けには、こうしたエクスペディアの方針について、説明を行ってきた。ホテル各社は、エクスペディア・グループのパートナー施設向け管理画面から、自社のゲスト体験スコアを確認できるようになっている。ホテルからの反応は、どうか?

「実は、日本でも世界でも、驚くほど高評価だった。むしろ、やっと宿泊業のことを理解してくれたと感謝されるほど」とダイクス氏は振り返る。宿泊施設からは、「我々の本業はおもてなし。お客様によいサービスを提供すること。それをもっと前面に出したい」など、ポジティブなフィードバックが多いという。

一方、「本当に宿泊したお客様からのレビューなのか」、「いつの評価か分からなければ対応できない」といった懸念に対しては、実際にエクスペディアに寄せられたレビューなどの元データを開示しながら、同スコアの仕組みを説明している。

エクスペディアでは、ゲスト体験スコアと、その原因になっている全てのレビューや事例を紐づけできる管理体制になっているので、詳細を問い合わせた宿泊施設側も「あの日」「あのお客様」と思い当たり、善後策が講じやすい。「競合ホテルより高い体験スコアを達成するために、具体策を考えるようになり、健全な競争を促すことができる。旅行業の本来の価値にフォーカスすることにもつながる」とダイクス氏は期待している。

日本発の海外旅行マーケットの回復を後押しする上でも、やはり体験は重要だと同氏は指摘する。「世界各地で、どんなすばらしい体験ができるのかをもっと知ってもらうための工夫が必要だ。昔のイメージから大きく変わっているデスティネーションもある。例えばインドは、昔は日本人にとってバックパッカー旅行先だったが、今はラグジュアリーな滞在が楽しめる宿泊施設や現地体験が充実している」、「もちろん価格は重要だが、それだけではなく、訪れるべき新しい理由を、もっと消費者に知ってもらえるような教育や仕組みが必要だ」(同氏)。

WiT JapanではグローバルOTAのセッションに登壇(ダイクス氏は左から2番目)社内基盤を整理して開発を加速

ゲスト体験を中核に据えた旅行マーケットプレイス再構築を支えているのは、エクスペディアが蓄積してきた膨大な旅行データと技術力、とダイクス氏は指摘する。

注目の生成AI、チャットGPTについては、「インターネット上に“公開”されている膨大な情報と、自然言語を組み合わせられる点が強み。一方、我々が過去20年以上、蓄積してきた非公開データには、旅行ビジネスに特化した深い内容がある。これをチャットGPTのような生成AIと組み合わせて最大限の効果を生み出すことに今、取り組んでいる」(同氏)。

米国向け旅行アプリでは、他社に先がけてチャットGPTを搭載してみせたエクスペディアだが、こうしたスピード感は、パンデミック中に進めた社内改革が奏功したという。

「OTAとしては古いエクスペディアは、買収により複数のブランドを抱え、レガシー・システムの問題もあった。そこで、コロナ禍で旅行需要がストップしている間、これを整理して統一。社内基盤がシンプルになったおかげで、新しい技術を導入する際の調整に、手間や時間がかからなくなり、新機能の開発が加速している」(ダイクス氏)。

さらにエクスペディアが開発した旅行テックやツールを、オンラインで広く第三者に提供するBtoB事業、「トラベルOS」にも力を入れている。

「旅行市場は、世界全体では約2兆ドルと大きく、圧倒的なシェアを占める事業者がいないことが特徴。数多くのプレイヤーに、エクスペディアが得意とする旅行テクノロジーを提供していくべきと考えるようになった。我々が直接、扱うことが難しいマーケットについては、BtoB展開も積極的に展開している」。

アジア太平洋市場では、中流層の拡大が目覚ましいインドネシアやタイに強いトラベロカとの提携もその一つで、目下、人気の送客先は日本。エクスペディアが取り扱う旅行者は、2023年1~3月期は訪日客の20%、訪日米国人では50%を占めたという。

取材、記事:谷山明子

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