気候変動に伴って、科学者たちはヨーロッパアルプスでのハイキングや登山での危険が高まっていると警鐘を鳴らしている。スイス・アルパイン・クラブ(SAC)の夏季トレーニング兼安全夏期責任者のロルフ・セーゲッサー氏は、「間違いなく山の危険は増大している」と話す。ロイター通信のレポートをまとめた。
パンデミック以降、大自然を楽しみたいとハイキングなどのアクティビティの人気が高まっているが、オーストリアの山岳ガイドは、リスクの拡大に合わせて、専門のガイド付きツアーの必要性も高まっていると指摘する。
ザルツブルク山岳ガイド協会の会長ヴォルフガング・ルセッガー氏によると、「氷河が完全に消滅する前に氷河を見たいと思う人も多いが、気候変動によって、厚い氷に非常に深いクレバスが増えているため、これまで以上に危険度が増している」と明かす。
さらに、降雨量が増えていることから、遊歩道が使えなくなったところも出てきている。ルセッガー氏は「準備時間と事前の知識がこれまで以上に必要になっている」という。
今年6月にはチロル地方のフルヒトホルンで大規模な地滑りが発生した。崩れ落ちた岩や土はトラック約12万台分に相当したと言われている。これは、気候変動によって永久凍土が解凍し、引き起こされたと考えられている。
こうしたことから、オーストリアでは山岳ガイドの需要が高まっている。多くの旅行者は数日間ににわたるツアーを予約。ガイド料は1日平均約540ユーロ(約8万4000円)だ。
一方で、多くの経験豊富なガイドは引退しているため、供給側に問題が出てきている。ルセッガー氏は、「需要は高まっているが、新しいガイドを見つけるのは容易ではない」と嘆く。危険度増しているため、ガイド基準のハードルを下げることはできない。
登山ルートの難度にも変化
スイス山岳ガイド協会は、「ガイドへの要望が多様化している」と明かす。3000~4000メートル級の山に登る登山ガイドを予約する人は減っているが、4000メートルを超える有名な登山のガイドを求める人は増えているという。また、全体的に登山者は減っているが、ハイカーは増えているようだ。
セーゲッサー氏は、「以前は何の問題もなかったルートも、今では難しいコースになっているところもある。かつては雪や氷河で覆われていたところで大きな岩が剥き出しになっている斜面も出てきたためだ」と話す。
セーゲッサー氏はによると、スイスでは氷原がどんどん消滅しているという。「現在は、事実上、気温が低い冬から春にかけてのツアーが現実的。落石の危険があるため、気温が高い場合は、気温が低い早い時間にツアーを始めた方が安全かもしれない」と指摘する。
※ユーロ円換算は1ユーロ156円でトラベルボイス編集部が算出
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。