機運が高まる「アドベンチャーツーリズム」で求められる人材とは? 地域を牽引するリーダー育てるアカデミーが始動(PR)

日本アドベンチャーツーリズム協議会(JATO)は、JALおよびJTBとの連携によって、2023年4月に「アドベンチャーツーリズムアカデミー」を創設した。国内においてアドベンチャーツーリズム(AT)による持続可能な観光地域づくりを推進するリーダー人材を育成する。

アカデミーでは、「AT推進の普及啓発および受入環境整備」「地域マネジメントのできるAT推進人材の育成」を活動方針に掲げ、2023年度内にテストプログラムを実施し、2024年度からの本格稼働を予定しているという。このほど、3者は共同で「アドベンチャーツーリズムアカデミー創立記念シンポジウム」を開催し、ATに求められる人材やATの潜在性などについて議論を行った。その内容をレポートする。

アドベンチャーツーリズム人材で身につけるべき7つの要素とは

アドベンチャートラベル(AT)とは、自然とのつながり、異文化体験、身体的アクティビティの3つの要素のうち2つ以上を含む旅行形態のこと。従来のマスツーリズムとは異なる、高付加価値化に重点を置いた旅行形態だ。

新たに設立されたアカデミーは、ATへの取り組みに関心をもつ観光事業者や行政関係者、観光協会等の観光関連団体から個人までを対象とし、(1)ATを推進する人材の育成、(2)ATの裾野を広げるための普及啓発・ネットワーキング活動、(3)ATに取り組みたい地域の受入環境整備の3つの事業を柱に運営する。2023年度は事業のトライアル実施をおこない、2024年度以降、本格始動する予定だ。

アドベンチャーツーリズムアカデミーは、AT推進を目的に3つの軸で運営

アカデミー設立のシンポジウムでは、日本アドベンチャーツーリズム協議会代表理事の大西雅之氏は「ATでは、地域をマネジメントする人材が少ない。それは全国的な課題。真のATを根付かせ、ATを日本の新たなマーケットにしていくためには、その育成が欠かせない」とアカデミー創設の背景を説明した。

日本アドベンチャーツーリズム協議会代表理事 大西雅之氏

また、観光庁観光地域振興部観光資源課課長の富田建蔵氏(当時)は、インバウンドが順調に回復しているなか、オーバーツーリズムの懸念も出てきていることに触れたうえで、「ATは、訪日外国人の地方誘客や地方でのコンテンツ作りにかなった取り組み。そのためには、ガイドやインストラクターの充実が大事になってくる。アクティビティ振興や商品流通と合わせて、観光庁としても関係省庁と連携しながら、ATを進めていく」と挨拶した。

観光庁観光地域振興部観光資源課課長(当時) 富田建蔵氏

これまで地域の観光振興では、宿泊施設や観光施設などが政策の中心となることが多く、自然の中でアクティビティを提供する事業者は観光政策のなかで中核的なポジションとなりづらい傾向があった。一方で、自然環境の中でのアクティビティは常にリスクも伴うものであり、ATの推進には、事業者と地域コミュニティとの信頼関係を構築し、地域全体で安全に旅行者が楽しめる環境づくりが欠かせない。さらに、自然資源は共有の財産であり、「保護と利用の好循環」を考えていくことも必要となる。

新たに創設されるアカデミーでは、こうした背景を踏まえ、ATガイドとしてのスキルだけではなく、地域において、行政、事業者、地域コミュニティ関係者と良好な関係を構築し、持続可能な観光地域づくりをけん引する地域リーダーとして活動する人材像を育成していく。

日本アドベンチャーツーリズム協議会事務局長の大澤幸博氏は、AT人材が身につけるべき要素として、(1)高付加価値な体験・アクティビティのプランニング、(2)地域における安全対策・危機管理力向上に向けた地域との関係構築、(3)自然環境の保護や地域の発展に向けたサステナビリティ活動の実施、(4)地域内ガイド事業者の連携体制づくりに向けたリーダーシップ、(5)国の機関および地元行政との連携強化に向けた各種施策への理解、(6)情報発信、流通促進に向けたメディアや旅行会社とのコミュニケーション、(7)グローバルなツーリズム動向の理解と地域全体での訪日外国人旅行者への対応の7つを挙げ、これら7つの観点から定期的な講習や現地研修などをおこなっていくと説明。今年度下期からは、地域で活躍する実践者や行政関係者らを講師に招いての無料のオンライン講義や、地域の課題に即した研修会などをトライアルで実施する計画も明かした。

日本アドベンチャーツーリズム協議会事務局長 大澤幸博氏

地域を牽引するリーダーの育成を

今年9月には北海道で「アドベンチャートラベル・ワールドサミット2023(ATWS 2023)」が開催され、国内でもATの機運が高まると予想される。JATO理事でJTB総合研究所主席研究員の山下真輝氏は、「その先を見据えた人づくりが大切。自然と文化を守った地域の人たちが受け入れないと旅行者の感動はない。ガイドという技術だけでなく、地域を牽引するリーダーを育てていく必要がある」と訴えた。

そのリーダー像として注目されているのが、三重県尾鷲市の「くまの体験企画」の内山裕紀子氏。1970年代から三重県の「熊野古道」の保護と活用に取り組んでいる。熊野古道は、人の手によって保全されてきた、自然だけでなく文化的な場所。現在は、16団体が維持管理に関わっているという。

パネルディスカッションに登壇した内山氏は、以前の熊野古道の観光には疑問を持っていたと明かす。「1日十数台のバスが来るが、それぞれ滞在時間が短い。寄るのはサービスエリアと道の駅だけ。住民とは無関係だった。一方、個人旅行者は、団体よりももっと滞在時間が短く、古道の石畳の写真を撮るだけ。街中に立ち寄らないため、地域にお金が落ちない。街づくりや保全活動に悪影響が出始めていた」と話す。

その危機感から、2008年に現在の「くまの体験企画」を設立。コミュニティビジネスとして位置付け、個人客向けの着地型エコツアーを企画・造成し、古道だけでなく、街中もゆっくりと回るタビナカ体験を催行している。

一方で、地域を巻き込んだ古道の維持管理でもリーダーシップを発揮した。世界遺産に登録されていない古道は荒れているが、地域に声をかけ、一緒に整備を進めた。その活動がメディアに取り上げられ、その結果地域の人たちが地域づくりに積極的に参加するとようになったという。内山氏は「地域を巻き込むと新たな人材が出てくる。最大の地域資源は人」と話し、「地域に根ざした、みんなが笑顔になれる観光をつくっていきたい」と続けた。

くまの体験企画代表 内山裕紀子氏

また、インバウンド専門会社「wondertrunk&co」代表取締役共同CEOの岡本岳大氏は、パネルディスカッションで外国人富裕層の誘客について持論を展開。「デスティネーション開発で必要なことは、価値の意識を変えること。『いいものを安く』という考えから、『いいものだから高く』という考え方への転換が必要」と話したうえで、「正当な値付けが一番大事なポイント」と指摘した。

さらに、ターゲットについては、従来の国・地域別の分類から、タイプ別の分類に変換し、ターゲットの解像度を上げていく重要性にも触れ、特にATでは「モチベーションの分類によるターゲティングが重要なのではないか」と提言した。

このほか、地域の人材については、「地域の資源を観光化するのではなく、自分たちの生活で実践していることを地域の価値として信じて、価格設定を主導できる地域経営人材、戦略を精緻化していくマーケテイング人材、地域を巻き込むファシリテーター人材が求められている」と話し、設立されたアドベンチャーツーリズムアカデミーの活動に期待をかけた。

wondertrunk&co代表取締役共同CEO 岡本岳大氏

環境省「国立公園満喫プロジェクト」と文化庁「文化観光推進法」

自然環境や文化財の「保護と利用の好循環」をつくることは、AT推進において欠かせない観点のひとつであり、シンポジウムでは、この考え方においてATとの親和性の高い環境省と文化庁の取り組みも紹介された。

環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室室長の水谷努氏及び室長補佐の川瀬翼氏は、環境省が推進する「国立公園満喫プロジェクト」について説明。ブランドコンセプト「その自然には、物語がある」は、ATの概念に近いと位置付けたうえで、「国立公園の高付加価値化を進め、押し付けられた保護ではなく、次の世代に残していく保護と利用の好循環が求められる」と話した。

具体的には、自然環境と地域社会を国立公園の土台として、そのうえにストーリー、インタープリテーション、ルール、体験コンテンツ、ツアー化の5つの要素を積み上げ、これらが磨き上げられたものがATとなっていき、地域への経済効果、自然資源や地域の保全、そこへの再投資というサイクルを作り上げていく施策を進めていく考えだ。

川瀬氏は「日本の国立公園の強みは、人の暮らしを内包しているところ。その土地の生活・文化を踏まえた本物の体験を提供することで、利用者に自己内面の変化を起こすことができる。エコツーリズム推進法で立ち入り制限などを実施する地域もあるが、逆に高付加価値化のために規制をうまく活用することも大切」との認識を示した。

環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室室長補佐 川瀬翼氏

文化庁参事官文化観光推進コーディネーター丸岡直樹氏は、2020年5月に施行された「文化観光推進法」について触れ、「保存と活用は両輪。価値を守る側と活用する側の対話が可能になった」と評価した。

そのうえで、文化観光では「文化について理解を深める観光」と「文化への再投資・好循環」が大切と指摘。文化について理解を深める観光では、「わかりやすく伝える」ことと「間違った情報を伝えない」ことの必要性に触れた。

また、文化への再投資・好循環では、「価値を生み出している人や場所にお金が循環する仕組みを構築していくことが求められる」とし、例として、熱海の花火大会では、ストーリーテリングなどの付加価値を付けた有料桟敷席を設け、その収益の一部を花火師に還元する取り組みが実施されていることを挙げた。

丸岡氏は「文化、観光、経済の好循環を作っていく。文化がただ残るだけでなく、発展していくことが文化観光」と述べ、文化観光とATとの親和性を強調した。

文化庁参事官文化観光推進コーディネーター 丸岡直樹氏

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記事:トラベルボイス企画部

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