福島第一原発から放出された処理水について、中国や韓国などの近隣諸国の旅行市場では訪日への懸念が広がっているという様子が報道されている。しかし、他のほとんどの国では訪日旅行の予約に影響は出ていないようだ。アジア地域の有力旅行業界誌「TTGアジア」がその反応を報じている。
2011年の東日本大震災と津波で福島第一原発は被災。日本はその後の汚染水の処理に苦慮してきた。放出される処理水にはトリチウムが含まれており、国内外で放出に反対の声が上がっている。その中で、東京電力は、国際原子力機関(IAEA)が希釈された処理水は国際基準を満たしているとの結論を受けて、8月24日に放出を開始した。
ある訪日旅行会社は、これによって、紅葉シーズンの中国人団他旅行のキャンセルが一部出ていると明かす。予定を変更し、他の目的地に変更をした中国人ツアーグループもいるという。
それでも、ほとんどの市場では、計画の変更は見られず、訪日旅行の需要は依然として高い。
旅行会社のインサイドジャパン・ツアーズの広報担当者ジェームス・ムンデイ氏はTTGアジアに対して、「秋のピークシーズンでの影響が全くないだろう。 実際、この秋は2019年に匹敵する、これまでで最も忙しい秋になりそうだ」と話した。また、「福島への旅行について、問い合わせがいくつかあるが、それが訪日旅行のキャンセルにはつながっていない。逆に、キャンセルが出たら驚くことになるだろう」と続けた。
同社では、静かな滞在を求める旅行者に向けて、東北地方のプロモーションを今後も継続していく考えだ。
富裕層向け訪日旅行会社ラグジュリーク(Luxurique)CEOの眞野ナオミ氏も、「顧客はこれまでのところ処理水放出について心配していないと言っている」と明かした。
海外の旅行会社も、見方は楽観的
パノラマJTBツアーズ・インドネシアCEOのヘレン・シュー氏によると、日本への問い合わせや予約は今も続々と入っており、キャンセルした顧客は一人もいないとという。「日本は最近、(ジャカルタで)ジャパン・トラベル・フェアを開催したが、非常に好評だった。私ちたちにとって、日本はヨーロッパに次いで2番目に大きなマーケット。以前に予想した通り、年末に向けた予約は非常に好調だ」と明かした。
シュー氏は、来年の桜の季節の予約について、イスラム教の断食月と、断食明けのレバラン休暇の祝日が1か月後にあるため、需要の多少の減退が予想されるが、2024年下半期の予約は好調に推移するだろうと予想している。
アップル・バケーションズ・マレーシアの共同創設者兼グループマネージングディレクターのコー・ヨック・ヘン氏によると、2023年12月に北海道と東北地方に出発が決まっているツアーの予約について、これまでのところ2~3%の小幅なキャンセルが見られているという。
彼は、「一部の旅行者にとって海産物が心配であることは理解しているが、さまざまな好みや食事のニーズにも対応できるように、鶏肉や牛肉を含むさまざまなメニューオプションを用意している」と話す。
一方、日本側はインバウンド市場への潜在的なダメージを軽減しようとしている。
マレーシアの消費者向けアウトバウンド旅行イベントMATTAフェアへの参加中、日本政府観光局(JNTO)は、日本の魚介類が安全であるとアピール。日本の経済産業省が作成したパンフレットを配布した。
JNTOクアラルンプール事務所の関係者はTTGアジアに対し、マレーシアの代理店パートナーから報告されたツアーキャンセルはほとんどなく、旅行者は日本の安全対策に引き続き信頼を寄せていると話した。
観光庁は、岩手県、宮城県、福島県、茨城県など、放水による影響が懸念される地域でのブルーツーリズムと海の魅力の推進を支援し、風評対策に取り組んでいく。
※編集部注:この記事は、アジア太平洋地域の旅行業界情報誌大手「TTGアジア」から届いた英文記事を、同社の正式な許諾を受けてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事: Most tourist markets undeterred by Fukushima nuclear water release
著者: Kathryn Wortley