客船「にっぽん丸」を運航する日本のクルーズ会社・商船三井クルーズ(旧名:商船三井客船)は、2024年12月に新客船「MITSUI OCEAN FUJI」(3万2477トン、乗客定員458名)の運航を開始することを発表した。あわせて、同社として初のクルーズブランド「MITSUI OCEAN CRUISES」を発足。新ブランドのもと、「にっぽん丸」をあわせた複数船体で、最上位のラグジュアリークルーズのカテゴリーでの事業展開をはかる。2027年以降には、さらに2隻を追加投入する予定だ。
新客船は米国のクルーズ会社「シーボーンクルーズ」から、スモールラグジュアリー客船の「シーボーンオデッセイ」を購入したもの。発表記者会見で、商船三井クルーズ代表取締役社長執行役員の上野友督氏は「新客船では、日本の上質なおもてなしと欧米のラグジュアリークオリティを融合した新しい顧客体験を提供する。コロナ禍以降の新しい価値観に沿った多様な選択肢を用意し、ゲスト1人1人が幸せを感じる、日本発祥のウェルビーングを実現する」とコンセプトを説明した。
商船三井常務執行役員の向井恒道氏は、クルーズ事業を拡大する背景として「国内外で到来する本格的なクルーズの時代に、新ブランドで顧客層を拡大する」と説明。コロナ禍に縮小したクルーズ市場だが、世界では2023年に乗客数が2019年の297万人を超え、315万人になる見込み。日本はクルーズ再開が世界から遅れたことで、2023年はコロナ禍以前には満たないが、急回復してきている。何より、2010年以降、大型船を運航する海外の大手クルーズ会社が日本に参入したことで、コロナ禍まで日本市場は勢いよく伸びていた。
近年、日本のクルーズ会社は小型から中型サイズの1隻体制であったことで、ほぼ日本人のリタイヤ世代を中心とする顧客層で運航していた。そこに、商船三井クルーズは新客船を投入してキャパシティを広げることで、従来の顧客層に加え、新客層となる日本人の有職シニア層やパワーカップル、そしてインバウンドも獲得していく考え。
同社が大きな強みになるとみるのが、地方の小さな港に入れる小型船であることをいかした寄港地ラインナップと観光体験。寄港地の自治体との関係性を強化し、本物の地産地消となる独自体験の提供を目指す。向井氏は「本物の日本の体験と日本の快適さを求める旅行者に、新しい顧客になっていただきたい」と自信を示した。
インバウンドは、まずは商船三井の海外ネットワークを含めてアプローチしていく。2030年半ばには、乗客に占めるインバウンドの割合を25%~30%程度にすることを目指す。
2024年12月の就航時には、お披露目を兼ねて2、3泊のクルーズを中心に運航。これをメインの商品帯とし、1週間の周遊クルーズ、世界一周クルーズも運航する。訪日客に人気の高い日本の旬を楽しむクルーズも組み込んでいく。クルーズ料金は旅程によっても異なるが、1泊あたり7万~10万円程度を想定している。
新客船は全室スイート、旅先テレワーク用に専用ブースも
新客船「MITSUI OCEAN FUJI」は、商船三井クルーズが運航していた客船「ふじ丸」と、日本の象徴である「富士山」を意識して名付けた。船内はもともとオールスイート客室仕様だった船体をいかし、オールスイートの客室を全229室・7タイプで用意。バトラーとコンシェルジュがサービスする。
食事は小型船ながら、フルサービスレストランとビュッフェレストランを2つずつ設け、選択肢を用意。ユニークなところでは、既存の顧客層に加え、有職者もターゲットとすることから、旅先テレワーク(ワーケーション)やブレジャーでクルーズを楽しめるよう、高速の通信環境を整備し、パブリックスペースには専用のワーキングブースも設置する。
なお、新客船で2025年4月12日から100日間で16カ国24港に寄港する世界一周クルーズを運航することも発表した。