国として観光客の数より質を重視し、消費額拡大を目指すことを明確にした新たな「観光立国推進基本計画」が発表され、日本でも旅行コンテンツの高付加価値化に取り組む機運が高まっている。そこで、2023年11月のトラベルボイスLIVEは、JTBと共同開催。タビナカ事業者の体験アクティビティ商品のオンライン販売や予約管理を支援する「JTB BÓKUN」運営チームの松澤翔太氏が出演し、高付加価値旅行の考え方を整理しながら、代表的な商品例や特徴、流通の重要性を解説した。
松澤氏は、JTB BÓKUNの協業先であるトリップアドバイザーとの意見交換を通し、世界のタビナカ市場の最先端の情報に日々接している。「高付加価値という言葉は多様な捉え方ができ、そもそも高付加価値とは何か、悩む人も多いと思う。私もその一人だった」と語りかけ、講演をスタートした。
「高付加価値化」とは何か?
まず、松澤氏は、観光立国推進基本計画で「高付加価値」のキーワードが、3つのパターンで使われていることを説明。そのうち(1)「高付加価値旅行者」と(2)「観光地・観光産業の再生・高付加価値化」についての説明はあったが、(3)「高付加価値な商品・サービス」はキーワードのみで、明確な定義は見当たらなかった。
そこで松澤氏は、経営コンサルタントの田尻望氏(カクシン代表取締役)と、やまとごころ代表取締役の村山慶輔氏の考えを紹介。
田尻氏は「付加価値とは、お客様の期待、ニーズ。高付加価値化とは、ニーズの裏のニーズを叶えた先にある。この潜在ニーズを最大化し、付加価値ベースで値付けすることで、利益が出る会社となる」と定義。村山氏は「高付加価値化とは、富裕層向けビジネスに限定した話ではなく、どんなビジネスでも当てはまる概念。大切なポイントは、商品・サービスに独自の価値を加えることで、顧客に高い価値を感じてもらい、結果、高いお金を払ってもらうこと。高くしても買ってもらえなければ意味がない」との見解を示している。
これを踏まえ、松澤氏は2人の考えの共通項は「高付加価値な商品・サービスとは、お客様にとって価値が高い商品である」とし、高付加価値な商品・サービスとは「高単価でも、お客様のニーズを満たし、満足度が高い(価格に納得性のある)商品。言い換えれば、お客様の『ニーズ=価値』を捉え、価値に相応しい価格で販売すること。単なる高額な商品ではなく、富裕層戦略でもない」との考えを述べた。
松澤氏は、高付加価値な商品・サービスの定義を捉えるための一例として、人気の高い都内のカフェ「KOFFEE MAMEYA -Kakeru-」のメニュー「コーヒーのフルコース(価格:3500円)」を紹介。「『高い』と思う人、コンビニの100円コーヒーで満足という人も多いと思う」と問いかけ、その感想の違いを「価値観が異なる表れ。同じ人でも場所やタイミング、同行者などが違えば、価値は変わるのではないか」と説明した。
世界と日本のタビナカ、高付加価値化の事例
次に松澤氏は、実際に販売されている商品から、インバウンド対策の参考になる高付加価値な体験商品の事例を紹介。「インバウンドを語る上では、世界のマーケットを知る必要がある」と話し、提携先のトリップアドバイザーのデータから主要国の売上高トップ10の商品をピックアップした。すると、上位の商品には高付加価値の要素が認められ、そのキーワードには有名な観光地のガイドツアーや優先入場、料理教室、食を楽しむツアー、プライベートツアーなどがあげられるという。
例えば、パリのルーブル美術館での優先入場付きプライベートガイドツアー。通常の入場料(約2000円)の10倍である約2万円の設定だが、自分の興味のある作品に時間を割いて深く知ることができる価値で、人気を得ている。また、ローマでのパスタとティラミスのクッキング体験は、本場で調理過程を学びながら料理と食事を楽しむ内容で、料金は1万円。
松澤氏は「この2つは有名な観光地だから、自分の地域には参考にならないと思う人もいると思う。しかし、工夫次第だと思っている」と話し、事例として、パリから車で約2時間を要するオーヴィエ村での「シャンパンの試飲ツアー」を紹介。
「この商品は、パリ発の商品であることを謳っている。地域の魅力を表現した交通付きのツアーを販売できれば、人を呼び込む仕組みを作ることができるのではないか。ツアー&アクティビティで、地方への誘客促進が実現できると思う」と説明した。同ツアーはプライベートガイドツアーで、料金は1人5万6000円だ。
さらに松澤氏は、これらの人気商品の特徴を分析・抽象化したところ、高付加価値な商品・サービスの構成要素として「地域独自の素材と、地域の人とのコミュニケーション、専門性、希少性といった付加価値の掛け算で成り立つのではないか。『知らなかった』という学びや『希少な体験をしている』という特別感と優越感、何より『楽しい』という感情を生み出すことができれば、価値が高い商品だといえるのではないか」と話した。
松澤氏は、こうした要素が当てはまる日本の商品事例も紹介。その1つが三重県鳥羽市の事業者「はちまんかまど」による「海の幸『伊勢海老』『アワビ』を、海女小屋で愉しむ食体験」だ。実際に松澤氏も参加し、現役の海女さんが目の前で調理をしたり、食材について語ったりする接客を受けた。そのコミュニケーション能力の高さ、人からにじみ出る魅力、地域に伝わる芸能などのストーリー性、エンタメ性を実感したという。この体験は、特に外国人観光客にも人気だ。
高付加価値な商品・サービスの造成に必要なこと
では、観光素材を高付加価値な商品に磨け上げるために何をすべきか。松澤氏は「素材選定」「付加価値の要素」「値付け」の3つのアクションをあげた。
特に素材選定については、地域が認識する強みが、来訪する外国人の印象と異なるケースが多いことを説明。静岡県富士宮市では富士山は日常的な景色であることを引きあいに出し、「地域には当たり前のことが、実は大きな価値。第三者の意見を聞き、今一度見直してほしい。そうして見出した地域の素材に、付加価値の要素を複合的に組みあわせていくのがよいのでは」との考えを述べた。
もう1つ、松澤氏が注意喚起したのは、販売価格。日本人が陥りやすい値付けの仕方として、「単純に、原価に10%~20%程度の収入の上乗せで値付けしがち」と指摘。「それも誤りではないが、旅行者のニーズや満足度が伴えば、原価基準の価格設定ではなく、商品が持つ価値基準の価格設定でもいいのではないか」と続け、「価値基準で商品の予約購入を促し、満足度を高めていけばよいと思う。それは、決して不当な価格設定ではない」と話した。また、シーズナリティや提供するガイドの言語によっても、価格を変えることもできると話した。
高付加価値でも売れなければ意味がない
最後に松澤氏が強調したことは「商品は、体験して初めて価値があると判断される。しっかりと売れる仕組みを作る」こと。そのためにはまず、旅行者が商品・サービスを購入する場所とタイミング、方法を知ることが重要だと指摘した。
まずはタイミング。トレンドは「間際予約」「即時予約」で、JTB BÓKUNのデータでは、予約のピークは体験する前日や2日前だった。また即時予約に関しては「旅行者は商品を見つけたときが最も購入意欲が高い」と話し、リクエストベースの回答はなるべく避けるようアドバイス。主要国の売れ筋トップ10の商品も、ほぼ即時予約が可能になっていたという。
このほか「写真や動画、テキストで魅力を明示する」「簡単な予約購入ができる」などの重要性も説明。そのうえで、「オペレーション、予約管理をしっかりすることで売れる仕組みになっていく」と話し、「業務の効率化」「リスク回避」「販売機会拡大」を実現する「JTB BÓKUN」のような予約在庫の一括管理システムの活用を推奨した。
進行役を務めたトラベルボイス代表の鶴本浩司は、高付加価値をとらえる事例として、マーケティングコンサルタントの永井孝尚氏の著書「100円のコーラを1000円で売る方法」を紹介。「例えば、高級ホテルで出されるコーラ自体は100円で販売されているものと同じだが、ホテルで飲食する場合は場所の空気感などの付加価値があるから、1000円でも当然と感じるのだと思う」と解説した。
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記事:トラベルボイス企画部