DMOや自治体の観光部局、観光機関等がいま、重視しているのは、デジタルを活用して地域の稼ぐ力を引き出すこと。域内の各地で市場ニーズを捉える商品を揃えて販売・流通ができる仕組みを作り、全域で観光売上を作って域内の消費額を高められることが理想的だ。多くの地域がこの実現に頭を悩ませていることだろう。
姫路観光コンベンションビューロー(姫路CVB)は昨秋、地域のタビナカ商材のオンライン販売と販売データのフィードバックを得られる仕組みを構築し、地域観光プラットフォームとして市内事業者と協業を開始した。そのソリューションとして採用したのは、タビナカ予約の在庫管理システム「JTB BÓKUN」。観光庁の補助金事業の採択を受けた取り組みだ。なぜ姫路CVBはこの構想を描き、地域課題の解決に着手することができたのか。姫路CVBの戦略と、JTB BÓKUN導入の経緯を聞いた。
地域の宝を掘り起こし、回遊・滞在型観光を促進
兵庫県姫路市を代表する観光資源は、言わずと知れた国宝「姫路城」だ。日本初の世界遺産であり、古くから数々の映画やドラマなどの舞台となった名城は、国内はもとより海外でも知名度が高い。コロナ前には観光客数の約3割をインバウンドが占めていたという。
姫路城のほかにも城下町を中心とした観光スポットが数多くあり、2006年に1市4町が合併してからは、さらに多様な魅力を持つ観光地域になった。南は播磨灘の島々、北は中国山地に続く山間部へと市域が広がり、以前からの魅力である歴史と都市機能に海と山の景観や文化等がバランスよく加わったのだ。それにも関わらず、姫路城のインパクトが強く、ほかの観光資源が認知されにくいのが、姫路CVBの悩み。新幹線停車駅のあるアクセスの優位性は、姫路城のみの立ち寄り観光が増える要因にもなった。
このため、姫路CVBは姫路市の観光で目指すべき方針を「通過型観光ではなく、姫路エリアで回遊・滞在する旅行需要の開拓」(姫路CVB事業推進部DMO・インバウンド担当係長の浦上正寛氏)と定めた。姫路城を目的に訪れた観光客に姫路エリアで回遊・滞在してもらうことにより観光による経済効果を隅々まで行き渡らせることが、製造業に加え次世代の産業として姫路市を支えることが期待されている観光業の役割だという。
そこで姫路CVBが着手したのが、各地における着地型コンテンツの強化。「既存の観光事業者はもちろん、市内の様々な事業者を観光体験の提供者として巻き込んでいく。各事業者が持つノウハウや魅力に横串を刺して情報を整理し、観光素材の発掘と商品化を促して多くの人に利用していただけるようにする」(浦上氏)。市内に観光目的となる魅力を増やし、そこへ送客する仕組みを作る。その枠組みとして姫路CVBが白羽の矢を立てたのが、JTB BÓKUNだ。
タビナカのデジタル化でJTB BÓKUNを採用、OTA流通も期待
JTB BÓKUNは、トリップアドバイザー傘下のタビナカ体験予約在庫管理システム「Bókun」の日本国内における独占的営業権をJTBが取得し、「JTB BÓKUN」として提供しているもの。現地ツアーやアクティビティ、体験商品の予約・在庫管理、決済まで、一貫してオンライン化し、自社ホームページでの販売やチャネルマネージャーによるOTA流通も可能としている。
姫路CVBでは導入前から、地域の着地型コンテンツをポータルサイトである姫路観光ナビ「ひめのみち」で紹介していたが、予約は電話受付のみだった。ホームページを持たない事業者も珍しくなく、デジタル対応の進度がまちまちだからだ。しかし、多くの人の目に触れるには情報発信のみならず、商品の予約販売もオンラインで対応できるのが望ましい。そこでJTB BÓKUNを地域の観光プラットフォームとして活用し、「ひめのみち」内で着地型商品のオンライン販売をする計画を立てた。
具体的には、JTB BÓKUNが持つ特徴のひとつである地域事業者との相互販売機能を活用。同プラットフォームに参画を決めた地域の事業者がそれぞれJTB BÓKUNのアカウントを持ち、「ひめのみち」で販売する商品を各事業者が直接、在庫管理をして予約販売をできるようにする。地域事業者はその時々の販売動向や需要に応じた在庫調整をリアルタイムに反映できるので、販売機会を最大限に生かし、柔軟で効率的な販売が可能になる。
一方で、ひめのみち運営者である姫路CVBは、各事業者の商品情報の登録や在庫の管理業務をおこなう必要がないので、管理面の省力化が期待できる。これにより、「情報発信やプロモーションをはじめとするDMOの仕事に専念できる」と、姫路CVB事業推進部DMO・インバウンド担当主任の佐伯策輝氏はその意義を強調する。姫路市では観光業を、成長が期待できる産業として育てる方針で、姫路CVBは観光庁の観光地域づくり法人(区分:地域DMO)に登録したところだ。今回の取り組みは、タビナカ事業者のデジタル化支援と同時に、DMOとしての機能強化を図ることができるメリットがあるという。
観光庁の補助金事業とJTBならではのサポート
取り組みの追い風となったのが、観光庁の補助金事業だ。
姫路CVBがJTB BÓKUNの存在を知ったのが2021年春頃。ちょうど同じタイミングで観光庁が「令和2年度第3次補正予算事業 既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」の公募を開始した。これに姫路CVBが「地域課題の解決を目的とした実証実験」の事業計画を申請する予定だったが、その申請書類に「着地型観光コンテンツの整備・誘客プロモーション」の販売環境整備策として、JTB BÓKUNを活用することを盛り込んだ。
姫路CVBは同年5月に同事業に申請し、6月に採択が決定。8月下旬に補助金の交付決定を受け、JTB BÓKUNを活用したプラットフォームの構築に、補助金を活かせることになった。そこから地域の民間事業者の参加を募り、10月16日に商品販売を開始。わずか2カ月の過密なスケジュールの中でプロジェクトを円滑に進められたのは、JTBならではのサポートがあった。「8月中旬から今年1月上旬までの期間中、週1回のペースでJTB BÓKUNとのミーティングを実施した。コロナ禍中のためオンライン形式だったが、プロジェクトのスムーズな推進に欠かせないサポートだった」と、浦上氏は振り返る。
ミーティングにはJTB姫路支店も参加。内容はJTB BÓKUNの操作などの取り扱いや活用方法に限らず、旅行ビジネスに携わってきたJTBグループの力を反映した広範なものだった。ただし、JTBは旅行会社として他の同業他社と競合する事業をおこなうのではなく、あくまで地域にソリューションを提供する事業として参画し、共創する基盤を提供する、というスタンスだ。具体的にはプロジェクトの進行にあわせた、各事業者の営業状況や商品登録状況の進捗確認や商品開発のアドバイスから、JTB BÓKUNにおける旅行業商品販売の設定支援、プロモーション関連のアドバイスも含まれていたという。
インバウンド再開時に向けた対応も
姫路CVBがJTB BÓKUNを選んだもう1つの理由は、コロナ後を見据えたインバウンド再開時の対応だ。特に「グローバル市場ではOTAとの連携が不可欠で、海外OTAとの接続が充実しているJTB BÓKUNは最良の選択肢だった」と判断。観光客の目に触れる機会を増やす流通の重要性を強調する。
導入に際し、姫路CVBは事業者に、オンライン説明会を開催。準備期間に間にあった29事業者による体験コンテンツ37件、ツアー商品5件のオンライン販売が開始された。全加盟事業者の足並みが揃ったわけではないが、観光を本業とする事業者だけでなく、瓦メーカーや靴店などの参加もあり、地域の生活に根付く魅力で姫路観光の幅を広げた。浦上氏は、「最初のステップとしては多彩なコンテンツを集められた。優れたシステムがあっても、観光客に利用したいと思わせるコンテンツがなければ意味がないし、バランスも必要。まずまずのスタートが切れた」と手ごたえを話す。
課題も見えた。実証期間中の利用が少なかったコンテンツは、利用の動機づけをどう図っていくのか。「内容の問題か表示や導線など見せ方の問題か、データを分析して次に生かしていくこともできる」(浦上氏)。姫路CVBではまず、2022年3月末までにコンテンツ部分の表示を改修する予定だ。
観光庁の「既存観光拠点の再生・高付加価値化推進事業」の実証は、2021年10月16日~12月26日の約2カ月間で終了。細かい評価作業は進行中だが、「地域の事業者やJTB BÓKUNとともに、これまでない体制を組んで取り組めたこと自体が大きな財産になった」と浦上氏は話す。オンラインの必要性や自ら情報を発信する重要性などの気付きに基づく、事業者の意識変化もあるという。
姫路CVBでは今後も事業者を巻き込み、コンテンツの充実とデータに基づく施策を展開する。そして、地域事業者間で販売しあう仕組みやGoogleを通したプロモーションなど、JTB BÓKUNの機能を活用した新たな一手を打っていく方針だ。
2分でわかる!JTB BÓKUN紹介動画
広告:JTB BÓKUN
問い合わせ:support_jtbbokun@jtb.com
記事:トラベルボイス企画部