熱海市、「昭和モデルの観光」から脱却、平日の企業研修などビジネス誘客を推進、協業するJTBとの意見交換会を聞いてきた

静岡県熱海市は、JTBとともに熱海へのビジネス利用誘客に向けた取り組みを強化する。ビジネスを中心した市場を創出することで、関係人口・交流人口を拡大させ、需要の分散化・平準化を具体的に進めていく。

JTBは、2013年から熱海市と観光ブランド・プロモーション事業を展開。個人旅行客をターゲットに熱海の隠れた魅力を発信する「意外と熱海」をテーマに来訪促進を進めてきた。2023年10月には、コロナ後の需要の最大化に向けて新たな包括連携協定を締結。具体的な取り組みとして、交流人口の拡大やインバウンドの受入促進などとともに、ビジネス利用の受入促進も盛り込んだ。

このほど、両者はJTB本社でビジネス利用誘客に向けた意見交換会を実施。その様子をレポートする。

当面の目標は300万人への早期回復

熱海市の宿泊客数は、昭和のバブル期には500万人を超えていたが、バブル後には主力だった社員旅行が減少したことが影響し、2011年度には過去最低の247万人まで減少。その後、「意外と熱海」の取り組み効果もあり、2016年度には300万人を超えた。コロナ禍で激減したものの、2022年度は249万人まで回復。現在の目標は、早期の300万人越えへの回復だ。

熱海市の齊藤栄市長は、JTBとの意見交換会で、「熱海ではいまだに昭和モデルの観光が続いている。平日はガラガラの状況。その課題を解決するものとして、ビジネス利用の促進は令和の新しい観光になりうる」と発言した。

熱海市の観光需要は、卒業・春休みシーズンの3月と夏休みの8月に集中。また、週単位で見ると、2012年から2019年の平均で日の宿泊客数は土曜日と休日前は1万7000人を超えるものの、平日は5000人強と大きな差がある。熱海市には、この差をビジネス利用で埋めたい考えがある。

また、齊藤市長は、宿泊施設や人材の有効活用の面からもビジネス利用に期待をかける。単価の高いビジネス利用客の誘致を進めることで、従業員の給与も上げて、優秀な人材を集めることの必要性にも言及。「そうでないと、観光業は先細りする」と危機感を表した。

そのうえで、「熱海で学ぶ。熱海で創る~Find innovative insights~」をキャッチフレーズとして、一般企業をターゲットに、役員会議、研修、開発合宿、イベントなどのMICEの誘致を進めていくと強調。熱海の強みとして、多様な施設、現場を体験できるプログラム、東京からのアクセスをアピールし、「非日常空間で、イノベイティブなインサイトを発見して欲しい」と呼びかけた。

熱海市の課題と今後の取り組みについて説明する齊藤熱海市長。JTB、「企業はデスティネーションではなく目的で動く」

一方、JTBビジネスソリューション事業本部第六事業部長の宮田広太郎氏は、2023年度の実績を説明。国内の旅行案件約830件のうち、研修関連目的は約120件で、その半分が都内に集中した。熱海での開催は14件で、研修目的はなく、主な目的は大会の開催、役員の懇親旅行、役員会議だったという。

そのうえで、熱海が選ばれた理由として、程よい距離感、バリエーションが豊富な施設、多彩なエクスカーションを挙げ、熱海市が挙げる強みと合致しているとした。

また、宮田氏は今後の取り組みに向けたアイデアを披露。ソフト面では、ビジネス利用としての熱海のブランディングが重要との認識を示したうえで、スタートアップ支援、投資家やインキュベーターの誘致などを提案した。ハード面では、新人研修向けの施設、長期滞在が可能な施設のほか、都内のMICE施設は逼迫していることから、新たなコンベンションセンターの整備の可能性について関心を示した。

さらに、エクスカーションでは、熱海を伊豆半島へのケートウェイと位置付けるアイデアも示した。

このほか、第五事業部長の西田高宏氏は、「企業はデスティネーションではなく目的で動くようになっている」と説明。そのうえで、SDGs関連のチームビルディングへの関心が高まっていることや、1泊1食の宿泊ニーズが増えていることに触れた。

JTBは今後、包括連携協定のもと、都内大手企業向けのセールスを強化。都内ベンチャー企業向けプロモーションとして、3月26日に大手町の3×3Lab Futureで、熱海ビジネス利用促進イベント「熱海DAY」を開催する。

(左から)JTBツーリズム事業本部副本部長の檜垣克己氏、JTBビジネスソリューション事業本部長の大塚雅樹氏、
齊藤熱海市長、熱海市観光建設部次長の立見氏。

宿泊税導入は早くて2025年4月から

JTBからの提案を受けて、齊藤市長は、まずスタートアップ支援について言及。イノベイティブインサイトと親和性が高いため「ぜひやっていきたい」と意欲を示した。また、コンベンションセンターについては、中小規模のイベント開催が可能な500人規模の施設の整備に言及。宿泊税導入に目処が立ったことから、それを原資として整備する可能性に触れた。

宿泊税の導入について、熱海市観光建設部次長の立見修司氏は、今後議会での可決や総務省の承認が必要になるが、最短で2025年の4月に導入される見込みであることを明らかにした。

また、齊藤市長は、宿泊施設の泊食分離について、市として支援していると発言。市内での消費拡大に向けた取り組みに力を入れていく考えを示した。

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