能登半島地震の発災から1ヶ月が経った。能登地方の被害は甚大で、復旧・復興には時間がかかると見られている。一方、同じ石川県でも北陸最大の観光地である金沢市の被害は最小限にとどまった。ただ、震災後の観光客の戻りは限定的と言われている。実際のところ、現状はどうなのか。金沢市の主要スポットを巡りながら、地元の人の声に耳を傾けてみた。
金沢市を訪れたのは2024年2月5日の月曜日と6日の火曜日。JR金沢駅には、ヘルメットを被った災害ボランティアのグループや〇〇市とロゴが入ったベストを羽織った他地域からの応援職員に混じって、コンコースをスーツケースを引きながら歩く観光客もまばらながら見かけた。
2次避難を受け入れている宿泊先ホテルのロビーには、避難者への情報提供や支援物資が並べられ、通常とは異なる風景に被災県を実感する。展示室の天井ガラスなどが落下する被害を受けた「金沢21世紀美術館」では、6日に無料ゾーンがようやく再開した。しかし、市内を歩くと、被災の印象は薄れる。兼六園、近江町市場、長町武家屋敷跡などは通常通り。香林坊や片町などの繁華街でも閉まっている店舗は見当たらない。
ただ、人出は少ないという印象だ。平日と言うこともあるが、長町武家屋敷跡で旅行者らしき人が歩く姿はほとんど見られず、近江町市場の飲食店のスタッフは「全然戻っていない」と嘆く。2024年1月の兼六園の入園者数は、前年同月比で約40%減少した。
そのなかで、驚きだったのが訪日外国人の多さだ。いわゆる欧米豪と言われる遠方からの旅行者とみられるカップルやファミリーが、近江町市場で食べ歩きを楽しみ、耳を澄ますと、中国語が頻繁に聞こえてくる。長町武家屋敷跡の野村家を訪れたときも、入口に並んでいたのは外国人旅行者だけだ。雪の兼六園のフォトスポットでも、外国語の楽しげな会話が聞こえてきた。
兼六園観光協会理事長の宇田直人さんは「震災後も、海外の旅行者は予定を変更せずに来ているようです」と話す。特に小松空港に直行便が飛んでいる台湾からの旅行者にとっては、以前から北陸は人気の旅先となっていたこともあり、金沢に影響がないと知ると予定通りに訪れているようだ。
金沢市内の「金沢 彩の庭ホテル」代表の髙田恒平さんも「海外の方は、状況を説明すると、キャンセルはせずに予定通り宿泊されています」と話す。一方で、日本人旅行者はただキャンセルを伝えるだけだという。日本人は被災地への「遠慮」が先立つようだ。
石川県は実は広い。輪島市と金沢市は約112キロ離れており、例えば、東京を起点とすると静岡県の三島あるいは群馬県の高崎とほぼ同じ距離だ。
髙田さんは、宿泊施設からの立場から「日本人旅行者にも来てほしいと言う思いはありますが、まずは旅行会社の方に視察に来ていただき、安心して送客できることを確認したうえで、旅行者を金沢に送ってほしい」と話す。
「金沢 彩の庭ホテル」の客室は58室。現在、2次避難として1室に3人程度、計55人の高校生を受け入れているという。
一方、加賀友禅の工房「毎田染画工芸」の毎田仁嗣さんは、金沢市民として「金沢など南の被害が少なかった地域が元気になっていくことで、それが能登に対する支援にもつながると思います。県外から人が来てくれるのは素直に嬉しい」と話す。毎田さんの能登の友人も大きな被害を受けたという。
北陸応援割は地域の事情に合わせて
政府は、北陸地方の観光を促進していく目的で「北陸応援割」を実施することを決めた。3月16日の北陸新幹線金沢/敦賀間の開業も踏まえて、3月からゴールデンウィーク前の4月下旬までの実施を予定している。
ただ、石川県内だけでなく北陸地方でも震災の影響は地域によって異なる。兼六園観光協会の宇田さんは「応援割は、地域別に弾力的に実施した方がいいのではないでしょうか」と提言する。石川県は3月末までに約3000戸の仮設住宅の着工を目指すとしているが、入居が始まっても避難者全員が同時に入れるわけではない。金沢市内のホテルや旅館に避難している避難者が仮設住宅に入れる時期が時期がまだ明確ではないなか、宇田さんは「金沢市での応援割については、まずは避難者の方々が自分たちの地域に戻れるようになってからでもいいのでは」と話し、被災者支援を優先すべきとの認識を示す。
閑散期にも関わらず、2次避難者や支援者の受け入れで、現在の金沢市内の宿泊施設の稼働率は高い状況だという。ただ、2次避難者受け入れに対する補助金には上限がある。避難者を継続的に支援すると同時に、宿泊施設の経営を維持するためには、「まずは、応援割の実施よりも、宿泊施設への補助額を上げる方が現実的ではないか」との考えも示す。一方、北陸新幹線開業に向けて、福井県をはじめ富山県や新潟県では応援割を3月から実施することに理解を示した。
トラベルジャーナリスト 山田友樹