フランス第4の都市トゥールーズ起点に、南部オクシタニー地方を取材した、航空・宇宙産業と文化が融合、地域限定レイルパスで「列車の旅」を提案

(c)Rémi Deligeon - Agence d'Attractivité Toulouse

フランス南部トゥールーズ、そしてオクシタニー地方は2023年ラグビーW杯で一躍注目を浴び、地方として過去最高の宿泊数を記録した。今年、フランス最大の旅行商談会「ランデヴー・アン・フランス2024」の開催地となった同地域は、次の一手として、列車の旅「オクシタニー・レイル・ツアー」をアピールしていく考えだ。同地方の首都トゥールーズには街の産業を生かした観光素材も数多くある。同地域の観光客誘致への取り組みとトゥルーズの街の魅力を取材した。

列車の旅を提案、地域内を1日10ユーロで乗り放題

オクシタニー地方観光局会長のヴァンサン・ガレル氏によると、2023年にオクシタニー地方を訪れた観光客の宿泊数は国内・海外を合わせて2億2200万泊。2022年の2億2000万泊を上回った。フランス国内客が65%、海外観光客が35%。日本人客は約28万泊を超え、ガレル局長は「ラグビーW杯の効果も含め、非常に好調な年だった」と振り返る。日本市場ではラグビーW杯を通して認知度もより高まったという手応えを感じているという。

その一方で「日本人旅行者にとって、円安やフライト時間の増加など、困難な状況は理解している」と話す。そのうえで、世界遺産や美食、美しい村や自然景観といった見どころ、ラグビーW杯を通して築いたラグビー交流など「テーマ、焦点を絞ったアピールを行う」と意気込む。

具体的には、同地方の列車とバスを利用した「オクシタニー・レイル・ツアー」として提案していく考えだ。フランス国内で初めてとなるオクシタニー地方内のみで使えるフランス国鉄(SNCF)のレイルパスを利用するもの。1日10ユーロで鉄道19路線と279の路線バスが乗り放題になるパスの利用を促すことで環境に配慮した旅を実現し、「大きなホテルがない地域では民宿の活用も促進し、地域経済に貢献できれば」(ガレル局長)。パスは、2022年に鉄道のみで開始し、2023年にはバス路線も追加した。

トゥールーズをはじめ、ニームやペルピニャンなど拠点となる街から個性的なモデルコースが提案されている

鉄道ルートは「ピレネーライン」「地中海ライン」「カテドラルライン」など、方面の特徴が分かりやすい名称とし、ルートによっては路線バスのほかサイクリング、ハイキングなどを組み合わせて提案している。世界の市場では、このレイルパスを利用した旅行商品造成の取り組みが始まっており、例えばトゥールーズを着発とする「Air+Rail(航空+鉄道)」の旅を検討している北米の旅行会社や、ルルド巡礼の足としての活用を考えているインドの旅行会社があるという。ガレル局長は「今後は今まで公共交通機関がなく、行きづらかった地域にも路線バスの設営を検討し、利用可能なエリアを増やしていきたい」と意欲を見せている。

オクシタニー地方観光局会長のヴァンサン・ガレル氏

地域の拠点「トゥールーズ」、航空・宇宙産業と文化が融合する多様性

「オクシタニー・レイル・ツアー」9路線のターミナルとなっているのが同地域の中心都市トゥルーズだ。「バラ色の街」として形容される赤レンガの街並みや、13世紀まで独立した文化圏を形成していた歴史、航空・宇宙産業など多様な魅力がある。

トゥールーズのシンボルの一つ、サン・セルナン大聖堂はロマネスク建築の傑作と言われる (c)Rémi Deligeon.jpg 

パリ、マルセイユ、リヨンに次ぐフランス第4の都市で、主要産業はエアバス本社やスペース・フランスに代表される航空・宇宙産業。そもそもトゥールーズには1918年にエールフランス航空(AF)の母体の一つとなったアエロポスタル社が設立されるなど、フランスの航空事業を担ってきた歴史がある。

エアバス社の工場に隣接する航空博物館「エアロスコピア」には、7000平米の広大なホールにコンコルドをはじめとするエアバス社歴代の飛行機や模型が展示されている。その迫力と規模は圧巻だ。

コンコルドやスーパーグッピーなどが並ぶアエロスコピア。ランデヴー・アン・フランス2024の開会前夜祭もここで行われた

宇宙産業での見どころはシテ・ド・レスパス。宇宙や宇宙開発、産業について学べるテーマパークで、宇宙ステーション「ミ―ル」の試作品や欧州で開発したロケット「アリアン5」、アポロ計画で採取された月の石など、宇宙開発の歴史と軌跡が展示されている。月面探索のアトラクションでは成層圏脱出時の重力も感じる体験ができる。

シテ・ド・レスパスでは熱心に説明に耳を傾ける来場者らの姿があった。アポロ計画で使用された宇宙服の展示も

技術の街として注目したいのが「機械芸術」あるいは「機械エンタテインメント」ともいえるジャンルを生み出す「アール・ド・ラ・マシーヌ」。機械と木でつくられたギリシャ神話の怪物ミノタウロスがシンボルで、フランス南西部の都市ナントにある「レ・マシーン・ド・リル」の象などを製作したラ・マシーン社による施設だ。

高さ50メートルを超えるミノタウロス。「アール・ド・ラ・マシーヌ」はアエロポスタル社の旧滑走路跡地の一角に建つ

開設は、そもそもラ・マシーン社の芸術監督が巨大な機械製作に取り組むきっかけとなったパフォーマンス集団の拠点がトゥールーズにあったことに由来する。ナントの施設がテーマパーク的なものであるのに対し、トゥールーズの施設は実験要素と奏者一体となった遊び心が混在した特徴がある。北仏の港町カレーにもラ・マシーン社が製作したドラゴンとイグアナがいるので、これらをめぐる旅も面白い。

オクシタニー地域、トゥールーズの観光素材は、すべて「特別な旅」となり得る素材ばかりだ。

取材・記事:特派記者 西尾知子

取材協力:フランス観光開発機構、オクシタニー地方観光局、トゥールーズ観光局

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