地域で資源循環をおこなう地域循環モデルの拠点として誕生したサーキュラーパーク九州(cpq)。2023年に廃止された旧川内発電所(石油火力)の跡地を再活用し、その敷地は約32万平米と九州電力でも最大級の広さを誇る。
cpqは九州電力と、廃棄物処理・リサイクル事業を手掛けるナカダイホールディングスが2023年に新会社を設立、2024年4月に稼働を開始した。 まずは、廃棄物の再資源化をおこなうリソーシング事業を開始。将来的には、敷地内で宿泊施設や飲食施設、ワークショップなど来往者や市民向けの体験サービスも提供する計画だ。
サーキュラーパークが目指す未来と、観光産業における資源循環の可能性を cpq代表取締役 兼CEOでナカダイホールディングス代表取締役の中台澄之氏に聞いた。
産官学連携で課題を見える化、解決の場に
そもそも、なぜこうした施設を作ったのか。cpq誕生の背景を中台氏はこう話す。
「ナカダイホールディングスとしてはある程度リサイクルが実現できていますが、私たちが資源分別をおこない、最高級の再生素材を作っても、メーカーさんから『課題があって使えない』と言われてしまいます。しかし、その課題が量なのか、色なのか、スペックなのか、私たちからははっきりと見えません。だからこそ、メーカー、プラスチック成形・加工業者、金属加工業者といったサプライチェーンを形成する人たちの情報共有と技術連携が欠かせないと感じます。ビジネス拡大や技術共有などを目的とした同業者同士の“横の連携”はこれまでもありましたが、資源循環やサーキュラーエコノミーの実現には、いろいろな領域の“縦の連携”が必要なのです」
資源循環を実現する縦の連携。それを実現するための拠点として誕生したのがcpqというわけだ。
cpqの事業には二つの軸がある。一つはリソーシング事業だ。これは廃棄物を高いレベルで再資源化して資源循環を構築し、廃棄物の削減やリサイクル、脱炭素化などへとつなげるというもの。ナカダイでは廃棄物処理事業に加え、企業に廃棄物の効率的な回収や再資源化といった資源循環のコンサルティングをおこなっている。cpqには群馬県前橋市にあるナカダイと同等の施設、技術やノウハウを持った人材を揃え、2024年4月からリソーシング事業を開始する。
もう一つの軸はソリューション事業だ。これは産官学の連携により研究開発、新事業や技術創出の協業、実証実験などをおこなうというもの。cpqでは薩摩川内市、鹿児島大学と連携を結び、サーキュラーエコノミーの構築を目指している。これにより、各業界の抱える課題を大学が持っている技術で解決できる可能性が広がる。
そして、cpq(サーキュラーパーク九州)の名前にはパークという単語が使われている。そこには、ビジネスとして関わる人だけでなく、一般の人も集う場所にしたいという思いが込められている。イメージは、サーキュラーエコノミーのテーマパークだ。
「『ゴミの分別や資源循環は、具体的に何がどういいのかわからない』という人も多いはず。サーキュラーエコノミーや脱炭素という言葉はフワッとしているのでビジネスのフィールドでも進まず、市民の参加欲も湧かないというのが実情です。だからこそ、ここを必要なのが資源循環の良さを体感できる実験・体験の場にしたいと考えています」
ゆくゆくは企業研修なども想定しているという。また、cpqには学校単位で訪れてサーキュラーエコノミーを学ぶなど、教育旅行の場としての可能性もある。
「2割が変われば社会が大きく動く」
近年、環境に配慮した商品も増えているが、環境というキーワードが必ずしも消費者の購買行動につながるとは限らない。その点について中台氏はこう話す。
「2割の人の意識や行動が変われば世の中は変わります。業界団体が横並びでサーキュラーエコノミーに移行するのではなく、既存ビジネスを守りつつ2割をサステナブルなサブスクモデルにしてシェア拡大を目指すというのも一つの考え方。廃棄物処理業は一般的に回収量を増やすことで収益を上げるビジネスモデルですが、我々は廃棄物を回収する既存ビジネスは変えずに廃棄物を削減するためのさまざまな提案をおこなっています。1社あたりの回収量は減りますが、取引先の数は増えていくのです」
では、観光産業で資源循環を実現するなら、どんな手法が考えられるだろうか。
「いきなり大風呂敷を広げるのではなく、『資源循環に興味がある人を2割取り込めたらよし』とするのがいいと思います。例えばホテルなら20個くらいゴミ箱を置き、細かく分別をしない人の宿泊費は1万5000円にして、徹底的に分別したら割引して宿泊できるようにするとか。 そうした社会実験をcpqでやってみるのも面白いかもしれません」
また、観光産業からサーキュラーパークへの参画はどうか。
「たとえば、ホテル事業者の方がcpqに進出し、我々や他の事業者と連携して資源循環の実証実験をおこなうのもいいですよね。例えば、ゴミを20種類くらいに分別するなど資源循環に徹底的にこだわる部屋を作ってみるとか、そういう試みも面白いのでは。ここでの実証実験の結果や知見を、他の施設に展開するのもいいでしょう」
イベントや祭りは資源循環がしやすい
中台氏は、資源循環の難しさについて、「いつ何がどのくらい捨てられ、回収できるか」という予想が立てにくい点だと指摘する。一方で、「いつ、どんな廃棄物がどのくらい出るか」がわかるシーンは資源循環を実行しやすいという。
「観光産業で言えば、イベントやお祭りですね。イベントやお祭りは、会場を設置し、撤去する期日が決まっています。『来場者に何をどのくらい配るか、どの程度分別するか』を考えてみてください。そして、イベントではゴミの分別などを100%やろうとするより、『30%リサイクルできた』と考える方がいいでしょう」。
例えばゴミを10種類に分別収集するなら10種類のゴミ箱の他に“その他”のゴミ箱を作っておく。来場者の中には帰りの時間が迫っている人も、どこに捨てたらいいかわからないゴミも出てくる。「大切なのは一気に変えようとしないことと、ルール化しないこと。ルール化すると“やらなければならない感”が出てしまいます。楽しんでもらいながら、『ご協力いただける方はお願いします』と伝えるといいでしょう」
日本独自のゴミマネジメントもコンテンツに
資源循環の取り組みについては「日本は、海外と比べて遅れている」というイメージを持つ人も多いかもしれない。また、日本を訪れた欧米の外国人旅行者が、日本人が頻繁にペットボトルや缶の飲料が購入していることに驚き、「日本人はゴミをたくさん出している」という印象を持つという話も聞かれる。しかし、こうした話だけで「欧米と比べて日本が特に大量廃棄をしている」と解釈するのは早計のようだ。「そこにあるのは分別のスキームの違い」と中台氏は語る。
「海外ではセンター集約方式が多いですね。これは『リサイクルする・しない』程度に分別したゴミを自宅の前に出すと大きな収集車が回収に来てセンターで選別するというもの。一方、日本式は『市民が何種類にも分別したゴミを集める』というもの。日本式だとレベルの高い再生資源ができます。これを海外に広めることができれば広域の資源循環ビジネスができますし、リサイクルしやすい商品も海外で売れるようになる」
2021年のバーゼル法の改正で海外に廃棄プラスチックを輸出できなくなったこともあり、今後は「ゴミをどこに捨てるか」が問題になると言われている。資源枯渇を防ぐためにも、資源循環はあらゆる業界が取り組むべき問題だ。日本方式のごみ分別や資源循環に関する日本ならではのスキームや知見、技術をコンテンツと位置付け、海外からの視察や研修を受け入れることも十分可能だろう。
最後に中台氏に今後の展望を語ってもらった。
「最終的にはcpqを仮想大学にしたいと思っています。資源循環やサーキュラーエコノミーを体験しながら学ぶことができる場所。今後、日本各地で廃止される火力発電所は増えるでしょう。火力発電所があるような場所は岩盤が頑丈ですし、セキュリティも頑丈ですから、企業が守りたい技術や実験プロセスを守ることもできます。こうした火力発電所跡地を廃墟にせず、cpqのような施設を作れたらいいですね」
既存のビジネスに何をプラスし、社会を変えるきっかけを作る「2割」の存在となるのか。観光産業においてもこうした視点は今後さらに求められていくことだろう。
取材・記事 フリーライター 吉田渓