航空会社によるサブスク型サービスが急増している。
マレーシア拠点の航空会社エア・アジアは2024年3月、既存の旅行サブスクリプション・プランをさらに充実した新バージョンを発表。アセアン(ASEAN)10カ国を発着するフライトが制限なしで利用可能とする方針を打ち出した。
アラスカ航空も3月下旬、既存の年間契約のフライト・サブスクリプション・プログラムに加えて、月額料金で特典が利用できる会員制プログラムを発表した。
この1カ月ほど前には、サウジアラビアの航空会社、サウディアが中東エリアでの新サービスを発表している。サブスク事業に強いバルセロナの旅行テック会社、カラヴェロ(Caravelo)と提携した。
新たなトレンドになるのか? 顧客ロイヤリティに効果大
フライトのサブスクサービスが相次いだのは、単なる偶然か、それとも新しいトレンドの始まりなのか?
関係者の見方は後者だ。カラヴェロのCEO、Iñaki Uriz氏は、ネットフリックスやディズニープラスのような月額制ビジネスモデルが航空ビジネスに普及するには、もうしばらく時間がかかるが、すでに誰もが検討しているだろうと話す。
「3~4年前までは、航空業界でサブスクの話はほとんど出なかった。だが今は違う」と同氏。「程度の差はあるが、誰もが注目している。すでに動き出したところもあれば、検討段階のところもあるが、ほぼ全員が意識している」。
もちろん同社は、長年、サブスク普及に力を入れてきた立場だ。2023年には、ハンガリーのウィズ・エアとの提携により、欧州第一号の航空サブスク・サービスを実現した。またウィズ・エア、アラスカ航空、サウディアだけでなく、メキシコのVolaris、中東のジャズィーラ航空、カザフスタンのフライ・アリスタンなどのパートナーにもなっている。
だが、航空サブスクに積極的な事業者は、同社だけではない。航空テック・コンサルティング会社のAffinnity創業者、シニード・フィン氏は、こうした変化の理由について、まず顧客を挙げる。
「顧客側が、サブスク事業モデルに慣れたことが一つ。アマゾン、ネトフリ、スポティファイなどの効果だ」。航空会社側のメリットとしては、顧客ロイヤルティへの効果が大きいとし、「会員の購入額は、非会員より多くなる傾向がある。さらに定期的かつ予測しやすい売上が期待できるので、事業計画全体が安定する」(フィン氏)。
スイスの旅行コンサルティング会社、Threedot創業者のエリック・レオポルド氏は、航空業界におけるデジタル・トランスフォーメーション、NDC導入やリテール営業の強化が、サブスク事業への関心が高まりの背景にあると指摘する。
「旧来型のテクノロジーや古い業務プロセスがまだ温存されている航空会社が多いので、新しいやり方をすぐに取り入れるのは難しい。だが今後5年ほどで、新しい技術や業務プロセスへの移行が進み、サブスク事業はずっとやりやすくなるだろう」。
サブスク事業にも色々なタイプがあるが、ネットフリックスのような見放題プランより、アマゾン・プライムの特典パッケージに近いものになるのでは、と同氏は予想する。とはいえ、まだ数年を要するとの見方で、決定的な成功事例がないことが一因としている。
上限なしで利用できるフライトサブスク
航空会社によるサブスクには、どんなタイプが想定されるのか。
まず、「飛びたいだけ飛べる」事業モデルは、空席を埋め、アンシラリー・サービスの売上を増やす効果がある。ターゲット顧客は、その航空会社の運航ルートを好きなだけ利用できる自由な生活環境にあり、余裕をもって予約できる人々になる。「航空座席という期限付きの在庫を無駄にせず、売上化するために有効だ」とUriz氏は話す。
「エアアジア・ムーブ(旧エアアジア・スーパーアプリ)」の場合、数量限定の年間パスを288ドル(約4万4640円)で販売している。購入すると、フライトを何度でも利用できるほか、一部ホテルや交通機関の割引もある。
サブスク特典で利用したフライトには、税金、手数料、乗り継ぎ料金などが別途、発生する。予約は出発日の14日前まで。運航状況によって、座席が確保できない場合もある。エア・アジアによると、サブスク会員による利用席数は、前年実績で8万席ほどだ。
他にも様々ある航空サブスクモデル
2つ目のタイプは、毎月、定額料金を払うことで、決められた範囲内の旅行が楽しめるモデルで、カラヴェロとウィズ・エアが展開するのがこのタイプだ。イタリア国内線やポーランド発国際線を対象としたマルチ・パスで、顧客は毎月、定額の会費を払い、片道あるいは往復のフライトを利用する。
このタイプは、需要の創出やマーケット・シェア拡大に効果があり、安定した売上を継続してもたらす点が、航空会社にとって最大の魅力だ。
カラヴェロでは2022年、アラスカ航空とも同様のプログラムを開始。欧州に続き、米国でも初のフライトサブスク事業となった。同社のUriz氏は、毎月、必ずフライトを利用してくれる顧客が確保できるようになり、「ハイパー・ロイヤルティ」が生まれると話す。
ただし、ターゲット顧客は、特定のルートを頻繁に利用する一部の旅行者に限られてしまうのが難点だ。より「ユビキタス」な第三のサブスクモデル、幅広い顧客が対象となる形として、レオポルド氏が有力視しているのが会員制クラブ方式だ。このタイプでは、会費を払った人限定の特典やポイントが最も重要になる。
具体的な例が、アラスカ航空による新しいサブスクサービスだ。一カ月5ドルの会費を払うと、メンバー限定の割引や、機内で利用できる高速WiFiサービスなどが提供される。
「ロイヤルティ・プログラムの進化形」でもあるとレオポルド氏は指摘する。決済手段のデジタル化に伴い、これまではクレジットカードと連携する形が主流だったリワード・プログラムの在り方も多様化していくとの見方を示した。
レオポルド氏自身は、イージージェット・プラス・カードの会員で、年会費を払うことで、座席指定や優先搭乗、荷物を預ける際の特典などを受けている。いずれも、通常は有料のアンシラリー・サービスだが、利用回数が多い同氏にとっては、会費を払った方がむしろお得になる。一方、イージージェットにとっては、顧客のリピーター化に役立っていると言う訳だ。
※ドル円換算は1ドル155円でトラベルボイス編集部が算出
※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:ARE FLIGHT SUBSCRIPTIONS STARTING TO TAKE OFF?
著者:D.J.Carton氏