急拡大するウェルネス・ツーリズム、その成長を支えるテクノロジー、AIやウェアラブル端末の役割を考察した【外電】

「5年前ほどまで、ウェルネス旅行(ウェルネス・ツーリズム)といえば「ニッチ市場」のひとつで、主にスパやヨガを楽しむ休暇、という扱われ方だった」。ウェルネス・トラベルに専門特化した予約プラットフォーム「Vacayou Wellness Travel」のCEO、ミュリエル・モンテカルボ氏はこう振り返る。同社は、2022年にフォーカスワイヤが選ぶ「注目の旅行スタートアップ25選」に選ばれている。

だが、今やウェルネスは、旅行において「最注目のテーマ」だと同氏は指摘する。グローバル・ウェルネス研究所(GWI)予測によると、その市場規模は2025年に1兆3000億ドル(約195兆円)に届く見込みで、パンデミック前のピークだった2019年の7200億ドル(約108兆円)に比べて倍近くなる。

ウェルネス旅行に力を入れてきた旅行テック事業者たちは、成長の勢いはさらに増すと期待している。旅行におけるウェルネス体験への関心を、さらに押し上げているのがテクノロジーの存在で、ちょっとしたウェルネス体験から、旅行の全行程において、心身ともに快適に過ごせるプランを重視したウェルネス・ツーリズムまでが昨今の注目トレンドになっている。

2024年の「注目の旅行スタートアップ25選」に選ばれたBoddy社は、旅行者向けにフィットネスとウェルネス体験を提供しているマーケットプレイスだ。

同社のCEO、ハネス・ボラー氏は、これから数多くの変化が起きるとの考えで、「我々は今、革命的と呼んでもおかしくないようなテクノロジーの大転換期の始まりにある」と話す。同社が取引するスタジオは、当初300社ほどだったが、わずか15か月間で1500社以上に増えており、「この先、12か月後にどうなっているか、想像すらできない」と話す。

AIの役割

ウェルネスを中心に据えた旅も登場するなど、旅とウェルネスの関係はますます緊密になっているが、背景にあるのが「AI(人工知能)」だとモンテカルボ氏は見ている。

「特に生成AIによって、ウェルネスと旅の融合は飛躍的に進んでいる。これまでよりずっと簡単に、旅行中も、心身の健康を最優先した過ごし方ができるようになった」とモンテカルボ氏は話す。

Vacayouでは、AIベースのソリューション「トリップ・フュージョン(TripFusion)」をローンチすることで、シームレスな予約体験を目指している。

「このプラットフォームでは人工知能を活用しており、その人に合ったおすすめの休暇の過ごし方を提案できる」(モンテカルボ氏)。「ウェルネス旅行とは、心身共に元気を回復するための旅であるべきだ。実現するには、まずプランニングからだ。Vacayouの目標は、もっと楽しみながら、自分らしい旅を計画できる効率的なサービスの新しいスタンダードを作り上げること」という。

同様に、ボラー氏率いるBoddyでも、ユーザー体験の向上とインターフェースのマルチモーダルを目指し、AIを組み込んでいく計画だ。検索機能の改善や、ターゲット顧客にリーチする精度アップにも、AIが役立つと期待している。

一方、サーカディアン・リズム(いわゆる体内時計)をもとにした時差ボケ対策を提供するTimeshifterの共同創業者兼CEO、ミッキー・ベイヤー・クラウゼン氏は、AIを使うことで、より的確なアドバイスができるとの考えだ。

ウェルネス旅行でもパーソナライゼーション

観光産業におけるもうひとつのバズワード、「パーソナライゼーション」についても、AI活用のメリットが大きく、ウェルネス旅行においても同様だとモンテカルボ氏は考えている。

「旅行者の健康状態やウェルネス嗜好をもとに、旅程をパーソナライズできるようにすること。体験アクティビティや食事内容、元気になる過ごし方などを、それぞれの必要に応じてAIが提案できるようになる」とモンテカルボ氏は見ている。

2019年の「注目の旅行スタートアップ25選」に選ばれたSanctiflyの創業者、カール・ルウェリン氏も、AIのおかげで、パーソナライゼーションが容易になると予想している。同社では、旅行中の休息タイムにおすすめの健康的な過ごし方を提案している。

「我々の関心事は、旅行者の好みや旅程に応じたパーソナライゼーションを、どうやって実現するかだ」とルウェリン氏。「その人の予定や好みを把握することができれば、こちらから興味ありそうなことを提案できる。旅行者が自分で探す手間も軽減できる」。

ウェアラブル端末ができること

ベイヤー・クラウゼン氏は、ウェアラブル端末を使うことで、可能性はさらに拡がると話す。

例えば、体内時計の感知に役立つセンサーを活用できるようになれば、ウェアラブル端末が担う役割は大きく変わるだろうと指摘する。

「睡眠や心拍変動、体温などはすでに計測できるが、自分の体内時計が今、何時なのか、正確に把握することはできない。これから確実に注目が高まる領域の一つだ」。

ボラー氏も、人々がはっきりとウェルネスを意識するようになる上で、ウェアラブル端末は重要な役割を果たすとの見方を示す。「ウェアラブル端末やモバイルアプリというのは、家でも外出中でも、リアルタイムで必要な数値を把握できるところが強みだ」。

コラボレーションと相互接続がウェルネス市場成長の両輪

Vacayouでは、ウェルネス旅行サービスの予約をスムーズにするテクノロジーを、自ら開発してきたが、他社との提携や統合に目を向ける企業もある。

ルウェリン氏が目指しているのは、統合による事業成長。

「我々にはないパズルのピースを持つ相手となら、統合について非常にフレキシブルに考えていることは、広く知ってもらいたい。我々には、流動性が不可欠だ。だが今はそうなっていない。多くのデータはハードコードで、特定の環境やシステム内でしか活用できず、アクセスするには手間がかかる。まずは自社の在り方から見直し、自由自在に動ける形を目指している」。

BoddyはこのほどLiveWellと提携した。ボラー氏は、相互間のコネクティビティがいかに重要かを強調する。

同社が目下、進めている技術的な取り組みは、パートナーとの提携によってのみ、実現できるものだという。

「ユーザーの不便を解消するために、フィットネス施設の顧客管理システム(CMS)、ホテルやOTAの予約システムなどとの統合を行っている」とボラー氏。

旅行全体を通じて、ウェルネスがますます重視されるようになり、技術的にも新しい手法が利用できるようになるなか、スパやジム、ヨガ・スタジオなど、事業者側のデジタル対応も以前より進んでいるという。こうしたなか、旅行者がアクセスしやすい形で、より多くのサービスを提供することがBoddyの役割との認識だ。

ルウェリン氏は、ウェルネスと旅行の未来について、長期的な視野に立てば、テクノロジーの統一化がもっと進むべきだと考えている。

「ひとつのソリューションに対し、これを提供するアプリが3つも4つもある、という状況はなくなっていくだろう」と同氏。

ひとつのインターフェースを登録すれば、あらゆる選択肢にアクセスできるのが理想の姿であり、複数のアプリをダウンロードしないと、フィットネス施設を選んだり、フライトを手配したり、カレンダーをチェックできない状況は、改善されるべきだとしている。

※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイスが算出

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

著者:リンダ・フォックス氏

オリジナル記事:HOW TECHNOLOGY IS HELPING TO FUEL WELLNESS OPPORTUNITIES FOR TRAVELERS  

著者:Morgan Hines氏


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