訪日客と日本人が日本を旅するルートは、同じ国内旅行とはいえ、大きく異なる。インバウンド誘客においては、日本人の従来の経験からくる常識や思い込みにとらわれず、彼らの実際の行動や背景を理解したうえで商品開発をする必要がある。今や、訪日旅行の王道「ゴールデンルート」でさえ、多様化している。
2024年8月に実施したトラベルボイスLIVEでは、ナビタイムジャパンのトラベル事業地域連携シニアディレクター、藤澤政志氏が出演。ナビタイムジャパンのビッグデータや観光庁、日本政府観光局(JNTO)などのデータから、訪日外国人旅行者の移動に影響を及ぼす要因と誘客のヒントを読み解いた。
効率的な交通網がルート設計に影響
藤澤氏は、訪日客の行動が交通網の変化に大きな影響を受けることを説明。その例として、東京から京都・大阪へ、代表的な観光地を巡る訪日観光の王道「ゴールデンルート」の多様化が起きていることを紹介した。
まず、2015年3月の北陸新幹線の金沢延伸によって、北陸経由のルートが誕生。JR西日本はそのルートを「新ゴールデンルート」としてプロモーションを展開した。JR東日本とは、周遊パス「北陸アーチパス」を販売。2022年にはJTBが、訪日客向けパッケージツアーで「レインボールート」として商品化した。こうしたPRや商品展開の後押しを受け、北陸経由の新ゴールデンルートを選ぶ訪日客も増えた。
実際、観光庁「訪日外国人消費動向調査」によると、都道府県別訪問率の上位10位には毎年、ゴールデンルート上の都府県が多く入るが、2023年の同調査では10位に「石川県」がランクインした。
さらに、2024年3月の北陸新幹線の金沢/敦賀間開業によって、ゴールデンルートはさらに進化している。ナビタイムジャパンの訪日客向けナビゲーションアプリ「Japan Travel by NAVITIME」の利用者データ(2024年5月~6月)で滞在日数が13泊程度の米国人旅行者の宿泊地をみると、東京の次に金沢に滞在している旅行者の増加がみられた。その後は、京都に移動しており、北陸経由の新ゴールデンルートで旅行をしていることがうかがえる。
また、旅行の後半に金沢での宿泊が拡大している傾向もみられ、京都や大阪から金沢へ向かう、逆ルートの経路検索も多く選択されていた。
藤澤氏は「北陸新幹線の延伸で、北陸経由が便利になったことで、ゴールデンルートで東京から東海道ルートで京都・大阪へ行き、そこから北陸を経由して東京に戻る新ルートができつつある」と推測。訪日客の広域周遊に交通網が重要となる理由を「日本での滞在日数が決まっているから。効率的な移動が、訪日客の行動に影響を及ぼす」と説明した。
周辺エリアの誘客と、地方へのルート誘致のヒント
では、訪日外国人旅行者は観光ルートを辿りながら、どのような観光をしているのか。藤澤氏はゴールデンルートを例に説明した。
例えば、ゴールデンルート上には「忍者」を観光資源とする地域が、滋賀県の甲賀市と三重県の伊賀市の2カ所ある。「Japan Travel by NAVITIME」の利用者データを見てみると、どちらも京都と大阪を滞在拠点として、日帰りで訪問する“足跡”が見えた。
同データを細かく見ると、甲賀市は京都と、伊賀市は大阪との組み合わせで選ばれることが多い。訪問者の国籍も甲賀市はアジア圏、伊賀市は欧米豪が多いという違いがある。
藤澤氏は、同じルート上の似たような観光素材を持つ観光地でも来訪経緯には違いがあることを指摘。そのうえで、「日本での滞在日数のうち、どんなタイミングで自分の町へ来るのか、把握することが大切。訪日してすぐに訪れるのと、他の観光地を見終わった後に来るのでは、見方が違ってくる」と説明した。
さらに藤澤氏は、拠点空港から離れた地域に誘客する場合のヒントとして「訪日客の旅行日数は決まっているので、入国日などできるだけ早いタイミングで地方に入っていただく方がいい。ただし、入国日はフライトで疲労しているので、外国人旅行者は入国拠点の近くに泊まりたいと思う。それを覆しても良いと思えるような魅力的な宿泊地と交通手段を確保して訴求し、心理的な負担を下げることができれば、地方で周遊してもらう可能性が高まる」と話した。
個人旅行で入国/出国の空港を変える動きも
さらに藤澤氏は、効率的な観光をする目的で、訪日客が日本の到着/出発の空港を別々にし、ワンウェイで旅することができるルートをとるケースが個人旅行でも増えていることを紹介した。
例えば、北海道では、到着は函館空港、出発は旭川空港などのルートをとる訪日客も少なくない。北海道のゴールデンルートといえる道南と道央をめぐる観光ルートも、コロナ前から商品化されていた。台湾のようなリピーターの多い国・地域では、個人のブログや旅行メディアで、到着/出発の空港を変えて広域を周遊するルートが紹介されている。
地域の観光事業者による商品化もすすんでいる。例えば、2024年冬季には、登別から洞爺湖を通ってルスツやニセコへ行く「北海道リゾートライナースペシャル号」が運行。藤澤氏は「各地域では、地方空港を組み合わせたルートが、広域周遊ルートとして有効だと考え始めるようになった」と話した。
さらに、藤澤氏は地方空港の組み合わせルートで、「エリアをまたいだ周遊をしている旅行者は一定数いる。新しい周遊ルートが生まれてきている」と指摘。
例えば、地域経済分析システム(RESAS)で東北の空港から入国した訪日客の訪問先を分析すると、多数は東北各県に訪問しているが、北海道へ観光するケースが少なくない。「Japan Travel by NAVITIME」の利用者データでも、青森市からのルート選択の1位は青森市/函館市で、青森から北海道へ観光し、青森に戻ってくる観光が人気だった。
このように、入国/出国の空港を変えてワンウェイで効率よく周遊する観光は、レンタカーによるドライブ観光をすることで、鉄道路線のない地域でも取り入れやすくなっている。特に藤澤氏が注目しているのが四国。同エリアのレンタカー利用台数は2018年に年間1万台に迫り、2016年からの2年間で倍増した。主に、香港と台湾からの訪日客で、中部国際空港から瀬戸内エリアに入ったり、関西国際空港から兵庫へぐるりと上がって、明石大橋と鳴門海峡大橋を通って四国を横断する経路検索が、「Japan Travel by NAVITIME」の利用者データでも見られるという。
この動きに、西日本の4つの広域連携DMOによる「グレーターウエストジャパン」も、ドライブルートの訴求を強化。大阪府泉州地域や淡路島の洲本では、関空の南から航路で淡路島に入り、四国へ行く新たなドライブルートを提案している。藤澤氏は、「四国は従来、サイクリングを中心とした周遊ルートを訴求していたが、車や船などを用いて新しい流れが生まれ始めた」と期待している。
トラベルボイス代表の鶴本浩司は、講演のラップアップとして、地方誘客における大きなキーワードに(1)旅行期間中、どのタイミングで来てもらうか、(2)広域周遊での交通網の重要性、(3)地方空港へ直接入国/出国、の3つをあげた。コロナ後、日本発着の国際線は現在、98%まで回復していることも話し、「今後はいかに取り組んでいくか」とエールを送った。
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記事:トラベルボイス企画部