イタリア・ベネチア市は、2024年4月から7月まで、歴史地区に入る日帰り旅行者に対して、混雑が予想される特定日に1人5ユーロ(約820円)を課税する制度を試験的に導入した。これは、長年の課題だったオーバーツーリズムを回避するための措置だが、どうやら、行政側の思惑は外れたようだ。
試験期間の最初の11日間で、この制度に登録した人は約75万人。これは、前年同時期の観光客数約68万人を上回った。それでも、ベネチア市は、2025年もこの制度を実施し、一部の特定日には今年の2倍の10ユーロ(約1640円)を徴収することを決めた。
ベネチア市民の多くは、当初から入場料の導入に反対していた。住宅権を求めて闘う地元団体のスザンナ・ポロニ氏もその一人。彼女は、この制度が支払いを義務付けられた観光客だけでなく、支払いを義務付けられていない居住者にも影響を及ぼしていると指摘する。
「世界で最も美しい都市を唯一の有料都市におとしめ、住民に対してこの都市の住民であることを証明するように強いることはプライバシーへの侵害。それを正当化できる合理的な理由などあるだろうか。オーバーツーリズムの重荷が市民の生活に押し付けられているだけだ」と訴える。
ポロニ氏は、ベネチア市の公式データを調べ上げ、当局が取り組むべき別の問題を浮き彫りにした。彼女によると、集計された宿泊者数は、市内に登録されているベッド数よりも多いことから、違法な短期宿泊レンタル(民泊)が、少なくとも数十軒はあると結論付けた。「市内の民泊を大幅に減らす住宅賃貸規制を整備することは、必要不可欠な緊急課題」と強調する。
ベネチア市は観光マネジメントに投資を
多くの活動家が、ベネチアに損害を与えているのは、観光客の数だけでなく、観光の種類だと指摘している。そのうちの一人、旅行者アドバイスサイトを立ち上げたヴァレリア・デュフロ氏は、地元住民に利益をもたらす観光モデルを提唱している。
彼女は「日帰り旅行者への課税は十分ではない。ベネチアのコミュニティや遺産の衰退を教訓として捉えて、観光産業にもっと地元コミュニティを関与させるべきだ」と主張する。
デュフロ氏は、観光客が地元のコミュニティ、経済に直接利益をもたらす場所や時間にお金を使うように働きかけている。
ポロニ氏は、住宅賃貸規制に加えて、「他に必要な緊急対策は、公営住宅の空室の改修と割り当て、観光業以外で雇用を生み出す経済の多様化、公共交通機関や社会福祉サービスの改善」と訴え、「この方法でしか、街を救うことはできない」と付け加えた。
※ユーロ円換算は1ユーロ164円でトラベルボイス編集部が算出
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。