次世代クルーズ客船のサステナビリティとは? 液化天然ガス(LNG)が燃料の大型客船に乗船し、環境対策を取材した

プリンセス・クルーズが2024年2月に就航した新造船「サン・プリンセス」は、液化天然ガス(LNG)を燃料とする次世代型クルーズ客船。同社初のLNG客船だ。

クルーズライン国際協会(CLIA)によると、現在、世界で運航するクルーズ客船300隻のうち、LNGを搭載する客船は約6%。今後、少しずつ増加が見込まれており、2025年には日本の客船会社もLNG搭載船の就航を予定している。

LNG搭載の客船とは、どんな船なのか。プリンセス・クルーズで最大となる「サン・プリンセス」(約17.8万トン、乗客定員4300人/最小時)の地中海クルーズに乗船して感じたこと、同社に聞いた船内の環境対策、2050年の目標をレポートする。

LNGクルーズ客船のメリットは?

プリンセス・クルーズの「サン・プリンセス」は、イタリアの造船会社フィンカンティエリ社による造船。国際基準に適合した先進技術を搭載し、最もクリーンな化石燃料であるLNGを燃料とすることで、大気へのガス排出を削減する。

具体的には、従来の石油系燃料の使用と比較して、排気ガスから環境に悪影響を与える元素状炭素(ブラックカーボン)や有機炭素を含む硫黄を99%、粒子状物質(PM)を60~90%除去し、窒素酸化物を10%削減する。プリンセス・クルーズによると、燃料から除去した硫黄は排水として、もともと硫黄が豊富に含まれている海に戻すという。

ジブラルタルに停泊するサン・プリンセス。停泊中はエンジンを切って自家発電をせず、陸上電力供給システムを使用

燃料をLNGにした場合、排出ガス削減以外にも利点がある。

まずは、メンテナンス。LNGは、供給時に気体(ガス)とするため、エンジンの摩耗や損傷が少なく、従来の石油系燃料よりエンジンが長持ちしやすい。また、ガス化する際に発生する大量の気化潜熱(冷熱)を船内の空調システムに再利用し、船全体のエネルギー消費量を削減することができる。

乗客にとって気になるのは乗り心地だが、筆者が乗船した際はエンジンの駆動などを感じることがほとんどなく、快適なクルーズだった。大型船という安定感も影響していたかもしれない。プリンセス・クルーズによると、LNG客船である「サン・プリンセス」のエンジンは、従来の石油系燃料を使用するエンジンより、騒音が小さいという。

CLIAは、2050年までにクルーズ業界でネット・ゼロ(温室効果ガス排出量を実質ゼロ)の目標を掲げている。同協会に加盟するプリンセス・クルーズも、2050年に船舶運航によるネット・ゼロの達成と、すべての保有客船への陸上電力供給システム完備(港に停泊中に必要な電力は陸上から供給し、船内発電機を停止すること)を目指している。

航海中はプレスと海外の旅行会社向けに操舵室の見学も

食品廃棄物を削減する仕組み、オペレーションの工夫も

「サン・プリンセス」では、船内から排出されるゴミなどに対する環境対策も実施している。例えば、食品廃棄物(生ゴミ)は微生物の力で分解し、排水として処理できるパワーノット社製の処理機を使用。1トンもの生ゴミを、24時間以内にわずか約1キロに削減する。処理後の排水は他の船内の排水と同様、安全基準を満たすように浄化してから船外へ排出している。

また、オペレーションによる、排出物の削減の工夫もしている。その1つが、さまざまな乗客が好みのスタイルで食事ができるよう、バラエティ豊かな料理を揃えるブッフェだ。「サン・プリンセス」のブッフェ「イータリー」では乗客が料理をとるセルフサービスではなく、スタッフが提供するサービスに変えた。乗客がガラスの仕切りの向こうに並ぶ料理から好みのものを伝え、スタッフがその場で皿に盛りつけて提供する。

2018年に建造計画が始まった同客船。当初は通常と同じセルフサービス形式のブッフェを提供する予定だった。ところがコロナ禍が発生し、現在の形式に変更した。プロセスの変更により、衛生面の改善だけでなく、食事品廃棄量の削減にもつながったという。乗客側としても、取り分けられる前の料理が美しく保たれるメリットがあるうえ、セルフサービス形式よりもスムーズになった印象がある。

食品廃棄物(生ゴミ)を微生物の力で分解する処理機。米シリコンバレーのスタートアップ、パワーノット社の「LFCバイオダイジェスター」を使用

ブッフェ「イータリー」の様子。調理スタッフしか触らないので、見た目がきれい。セルフサービスよりも効率が良く思える

快適なクルーズを提供する秘訣

これ以外にも、新造船である「サン・プリンセス」ではこれまでの同社のノウハウを生かし、快適な船上ライフを楽しむための工夫が凝らされている。

例えば、従来は船内でのイベント開催中、イベントの内容によっては、イベントで発せられる音がそのほかのスペースに影響することもあった。しかし、筆者は同客船に乗船中、こうしたイベントの音漏れに気が付かないくらい静かだったことに驚いた。同客船では最新の防音技術を取り入れ、イベントが他の場所にいる乗客を煩わせないよう、資材からレイアウトまで最適化を図り、騒音レベルを抑制しているのだという。

イベントが盛り上がっていても、ピアッツアから離れるとあまり音が聞こえてこない

また、大型客船の悩みどころである、人の集中を緩和させる工夫もある。その1つが、3階構造のメイン・ダイニング。さまざまな乗客が好みの食事スタイルを選べるよう、フロアごとに「事前予約制」「トラディショナル(2回制)」「エニタイム(anytime)」とサービスを変えている。これが、混雑の分散と待ち時間の短縮にもつながっている。

乗客の快適性や効率改善を目的に、運航しながらオペレーションや提供内容を変えることもある。その際、同社では乗客に配布するウェアラブルデバイス「メダリオン」のデータを重視する。乗客の実際の足取りを把握することができ、利用実態にあった改善ができる。

サステナビリティやクルーズ体験の向上に向けて、革新を続けるプリンセス・クルーズ。今後、同社では、「サン・プリンセス」のようなLNG客船を保有する「LNGプログラム」を拡大していく方針。2025年秋には、サン・プリンセスの姉妹船で、同社のLNG客船第2弾となる「スター・プリンセス」が就航する予定となっている。

乗客の衣食住を載せて運航するクルーズ客船。社会的責任を果たすべく、各客船会社はサービスの磨き上げとともに環境保護対策にも注力している

記事:山田紀子

取材協力:プリンセス・クルーズ

取材:2024年6月

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