2023年度の中学校・高校の修学旅行、「学びの旅」に向けた多様化、費用高騰への対応などを識者が徹底分析【コラム】

みなさんこんにちは。日本修学旅行協会の竹内秀一です。

(公財)日本修学旅行協会では、毎年、前年度に実施された全国の中学校・高校の修学旅行に関するアンケート調査をおこなっています。2023年度実施の修学旅行についての調査結果がこのほどまとまったため、本コラムでも修学旅行の現況と今後の展開について私見を述べたいと思います。

ただし、この調査は抽出調査であり、結果はあくまでも傾向を示したものであることを承知おきください。今回の調査では、中学校は1038校(国公立839校、私立199校)、高校は1123校(国公立705校、私立418校)から回答をいただきました。

コロナ収束も海外修学旅行の戻りは鈍い

2023年度の修学旅行の実施率をみると、中学校は全体の98.7%、高校は全体の98.3%となっています。新型コロナの影響をまったく受けていない2018年度は、それぞれ98.6%、97.7%でしたので、実施状況はコロナ禍前に完全に戻ったといえるでしょう。しかし、高校の国内修学旅行と海外修学旅行の実施率を見ると、修学旅行を実施した学校のうち国内は95.7%、海外は4.3%となっていて、2018年度の86.0%、14.0%と比べると海外修学旅行の戻りの鈍いことがわかります。

これは、コロナ禍の最中に旅行先を海外から国内に変更して実施した学校が、昨年度も引き続き国内で実施していることによるものと考えられます。その理由としては、昨年度の修学旅行の旅行先が1年半から2年前のコロナ禍の時期に決められていたこと、さらに円安や航空運賃・宿泊費などの値上がりで旅行費用全体が高騰していることなどがあげられます。

海外修学旅行の訪問国・地域では、コロナ禍前には毎年度トップを占めていた台湾がオーストラリアにその席を譲ったことが注目されます。台湾は、日本からの距離も近く、旅行費用もあまりかからないことから公立高校が多く旅行先としていました。一方、オーストラリアを旅行先としていたのは主として私立高校でした。このことから、とくに公立高校での海外修学旅行の実施が難しくなっている現況が窺われます。

しかし、修学旅行に異文化体験や英語学習を取り入れたいという高校は多く、海外修学旅行の実施を困難にしている円安や物価高といった現状が、早期に改まることを期待したいと思います。 

海外旅行はオーストラリアがトップに

 旅行費用上昇はどう影響しているか

国内修学旅行の旅行先では、中学校で京都、奈良が1、2位となっていることはコロナ禍の時期を含めて変わっていません。ただし、清水寺や鹿苑寺金閣といった京都市内の人気スポットの混雑については多くの学校が問題視しています。

一方、高校ではコロナ禍のなかでランクが下がっていた沖縄がトップに返り咲きました。やはり、平和学習の適地であること、本土と異なる歴史や文化、亜熱帯の気候やサンゴ礁の海など学びの資源や沖縄ならではの体験プログラムが豊富にあることが旅行先として選ばれる理由なのでしょう。しかしながら、沖縄修学旅行でも旅行費用の高騰が大きな課題となっています。

国公立学校の国内修学旅行の費用の推移をみると、中学・高校ともにコロナ禍前に比べてかなり上がっていることがわかります。つまり、これまでと変わらない費用では、これまで通りの旅行先でこれまでと同じ内容の修学旅行を実施することができなくなっているのです。

各自治体は「修学旅行実施基準」を定めており、公立学校はその基準に従って修学旅行を実施しています。実施基準のなかに旅行費用の上限を設けている自治体もあって、その引上げを行ったところもありますが、残念ながらそれも物価上昇に追いついていないようです。

修学旅行の費用は、学校が保護者から徴収する積立金で賄われていますので、保護者の負担増に配慮すれば、これもやむを得ないことなのかもしれません。

もちろん学校も、旅行費用を抑えるためにさまざまな工夫をしています。たとえば、高校の修学旅行は、大学受験への体制づくりといった理由から2学年の10月から11月に実施することが多いのですが、都立高校では沖縄修学旅行を1、2月に実施する学校が増えています。これは、航空運賃や宿泊費用が比較的安価な時期を選んでいることの表れといえるでしょう。

このように、実施の時期を変更するだけでなく、泊数を減らす、宿泊をホテル・旅館から民泊に変える、現地での体験内容を変える、といった学校も出てきています。なかには、昼食を班別自主行動中に各自で摂らせる、という学校もあるようですが、これでは旅行費用を抑えることにはならないし、旅行先の「食」文化に触れる貴重な機会を失うことにもなってしまうので、いかがなものかと思います。

交通手段の変更を考える学校もあるようですが、そうなると旅行先の変更もともなってきますので、修学旅行の受入地としては静観しているわけにはいきません。受入地のほうでも、自治体や観光協会などを中心に修学旅行への助成金制度を設けたり、学校のニーズを踏まえた魅力的なプログラムをつくったりという取り組みが進められています。

旅行先の推移と増加する修学旅行の費用

学校が今後の修学旅行に取り入れたい体験活動とは

このように修学旅行を取り巻く環境が大きく変化しているなか、これからの修学旅行はどうなっていくのでしょうか。

学校が、校外での行事でもっとも重視しなければならないのは生徒の安全・安心の確保です。コロナ禍は収束しましたが、感染症対策はこれからも継続して行っていかなければなりません。また、食物などのアレルギー、地震や豪雨をはじめ多発する自然災害、中学校の修学旅行が盛んに実施される5、6月には熱中症、といったように修学旅行中のリスクは高まっています。

旅行費用の高騰に加えこのようなリスクを背負いながら実施される修学旅行であるなら、それに見合うだけの教育効果があがるものでなくてはなりません。学校が、現行の学習指導要領に示された「探究的な学習」と修学旅行の体験活動とをつなげようという動きをみせているのは当然のことと思います。

そこで、中学・高校が今後の修学旅行に取り入れたい体験活動を見てみると、中学・高校ともに「平和教育・平和学習」が上位になっています。これは、教科の学習では十分にカバーすることができない「戦争と平和」の問題について、生徒たちが自分ごととして学び・考えるうえで、戦争遺跡やそれに関する資料館などがある現地を訪れ、現地の人々と対話・交流することを学校が重視していることの表れであると考えられます。

SDGs学習も「探究的な学習」の探究課題として多くの学校で取り組まれています。平和学習もその一つといえますが、それ以外にも「住み続けられるまちづくりを」や「気候変動に具体的な対策を」につながる防災・減災学習、「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」につながる農山漁村体験など、学校は、これまで以上に旅行先での様々な体験を通して「学ぶこと」を中心に据えた修学旅行を考えていることがわかります。

「学ぶこと」に重点を置いた修学旅行であるなら、多人数で、しかも短時間でおこなうような体験活動では学校が考える学習の成果を十分に得ることはできません。したがって、これからはテーマ別や班別など少人数のグループが分散しておこなう、「ほんもの」に近い体験ができる「学び」のプログラムが受入地や施設に求められていくのではないでしょうか。

ただし、修学旅行のすべての行程を、ガチガチの「学び」のプログラムだけで固めてしまうと、かえって生徒たちの意欲は低下し、学習効果は薄れてしまいます。修学旅行に、アクティビティやスポーツ体験など生徒にとって楽しい体験活動を組み込むのは、それを踏まえてのことでもあると思います。ただし、このような体験活動も単なる「レクリエーション」ではなく、仲間同士の協力の在り方やチームビルディングといった「学び」の要素も、学校としては期待しているのではないでしょうか。

学校側はどんな体験活動を意識しているのか

多様化するこれからの修学旅行

今、進められている「探究的な学習」は、学校によってその取り組みに大きな差があるというのが現実です。たとえば、「探究的な学習」の柱である「総合的な探究の時間(中学校では「総合的な学習の時間」)」は、週に1時間ずつ時間割の中に位置付けられることが多いのですが、工業高校や農業高校など職業系の高校では、ほとんどが最終学年に3~4時間まとめて設ける「課題研究」を「総合的な探究の時間」の代替としています。ですので、必ずしも修学旅行を「探究的な学習」と結びつけようとしているわけではないだろうと思います。

修学旅行は、それぞれの学校が教育目標や教育課程上の位置づけ、生徒の実態などを踏まえてそのねらいを明確にし、計画・実施する教育活動です。修学旅行を取り巻く環境が大きく変わっている現在の状況を踏まえれば、修学旅行の在り方も従来通りというわけにはいかず、旅行先も体験活動の内容もこれからはますます多様化していくことが予想されます。

これを機に、修学旅行がこれまで以上に「学び」を重視した、それぞれの学校のオリジナリティーあふれる「学びの旅」として実施されていくことを期待したいと思っています。


竹内秀一(たけうち しゅういち)

竹内秀一(たけうち しゅういち)

(公財)日本修学旅行協会理事長。東京教育大学文学部史学科(日本史専攻)卒業。神奈川県立、東京都立の高等学校教諭(いずれも日本史担当)、都立高等学校副校長を経て都立高等学校長。東京都歴史教育研究会会長、全国歴史教育研究協議会副会長。昨年度まで順天堂大学国際教養学部の非常勤講師として教職課程担当。

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