世界で台頭する「ライブツーリズム」とは? 旅を再定義する「感情的共鳴を体験する瞬間の旅」を考察【外電】

2024年の旅行市場で、最も話題となったのは「Live Tourism(ライブツーリズム)」だろう。これまでは、象徴的なランドマーク、ビーチ、文化体験などが旅行コンテンツの主流だったが、昨年は、それらとは全く異なるモチベーションへのシフトが見られた。ライブコンサート、天体現象、スポーツイベントなどを追い求め、それまでは道中の一時的な体験だったものが、旅程の中心になったのだ。

自然の驚異が旅の目的に、日食、オーロラ

ライブツーリズムは、場所ではなく、その瞬間が旅の中心となる。2024年4月の米国での日食では、テキサス州からメイン州まで、小さな町でも、リングライトやドローンカメラを装備したアマチュア天体観測者やインフルエンサーたちが押し寄せた。

民泊エアビーアンドビーによると、ホテルは満室、キャンプ場は満員、短期宿泊レンタル(STR、いわゆる民泊)は100%稼働、 皆既日食の前後の検索数は1000%増加したという。日食を追いかける多くの人々にとって、このイベントは旅行計画の中の目玉でなく、計画そのものだった。

オーロラ観測も絶好調だった。異常に活発な太陽周期のおかげで、ニューヨーク州北部、ノルウェー、アラスカ、スコットランドなどさまざまな場所でオーロラが見られた。旅行業者も、この機会を逃すまいと、フィンランドのガラスドームのイグルーからカナダの移動式ツンドラロッジまで、あらゆるコンテンツを提供した。

旅行者は、保温下着と暗視機能付きiPhoneで武装し、氷点下の気温にも負けず、きらめく夜空の写真をSNS用に撮影した。日食とは異なり、オーロラはシーズン中に何度も観測にチャレンジできる。2月のアイスランドで飽き足らなかったら、3月にラップランド(フィンランド)、4月にユーコン(カナダ)に出かけることだって可能だ。

ライブコンサートは経済イベントに、地域活性化に一役

ライブコンサートも、かつて見たことのないほど観光の原動力となっている。2024年を通して開催されたテイラー・スウィフトの「The Eras Tour」は、その究極の例だろう。スウィフトの熱心なファンは、彼女のショーを見るために大陸を横断。ブエノスアイレスのホテルを満室にし、米国では郊外のスタジアムまでバスをチャーター。欧州の都市はポップコンサートのメッカとなった。

The Eras Tourは、単なるコンサートツアーではなく、経済イベントでもある。コンサート会場の地域経済はテイラー・スウィフトを中心に回った。コンサートが開かれる都市に飛ぶ航空会社も潤った。

他のメジャーアーティストやバンドも続いた。ビヨンセの「ルネッサンスワールドツアー」は、世界中の熱狂的なファンを集め、彼らの多くは休暇を延長した。

スポーツイベントも例外ではない。パリ五輪では、オリンピック自体だけでなく、パリ以外の都市や村にも何百万人もの旅行者が訪れた。ボルドー、マルセイユ、ニースでは、体操やサッカーの観戦とともに、リビエラの夕日や田舎でのワインテイスティングを楽しむ観光客が急増した。

また、F1も遠く離れた街を週末の人気スポットに変えた。ラスベガスでは史上初の夜間ストリートレースを開催。ホテルは、ヘリコプターツアーやシャンパン付きVIPパーティーなど、F1パッケージを造成した。

その余波は? 旅を再定義、「瞬間」「感情的共鳴」

こうした現象では、旅行者の旅程から象徴的なランドマークや自然鑑賞の選択肢が消えているわけではないが、それらは主役から脇役になっているのは間違い。ライブツーリズムで重要なのは、場所ではなく共同体験。これは経済的にも重要な変化となる。

一方で、イベント主導の旅行にはマイナス面もある。まず、一気に旅行者が押し寄せることで、環境への負荷は否定できない。地方では、突然押し寄せる訪問者を収容できるほどのインフラが整っていない。その中では、イベントが大々的に宣伝されている一方で、ライブ後に失望感を味わうことになる旅行者も現れる。

今後もライブツーリズムはさらに盛り上がりを見せるだろう。観光事業者も、そのことに気づいている。航空会社は、フライトとコンサートチケットや試合当日の移動手段をセットにした特別パッケージを提供。受け入れ側はマーケティング戦略を見直し、イベント主導のキャンペーンに重心を移しつつある。デジタルノマドでさえ、ライブツーリズムを仕事のスケジュールに組み込む方法を探している。

ライブツーリズムの核心は、深い感情的共鳴だ。旅行者は単にイベントを見るために旅行しているのではなく、感じるために旅行している。何万人もの見知らぬ人々と肩を並べて同じ歌詞を歌うこと。太陽が月の後ろに隠れるときに、皆で畏敬の念を抱いて息を呑むこと。チームが決勝点を決めると声がかすれるまで応援すること。これらは場所を超えた「瞬間」であり、私たちに共通の人間性を思い出させる。

ライブツーリズムは、旅行トレンドの変化というだけでなく、旅行に対する考え方を完全に再定義した。ライブツーリズムが、当面なくなることはないのは明らか。新たなイベント、コンサートツアー、自然のスペクタクルが何百万人もの人々の心と旅費をつかむことだろう。

コンテンツが飽和状態の中、全てが記録され、投稿され、共有されるという「ハイパーコネクト」時代を反映した現象なのかもしれない。あるいは、もっと単純に、自分自身よりも大きな何かの一部になりたいという願望、落ち着きのない日常の中で、つかの間でも刺激的な「今」に留まりたいという願望なのかもしれない。

いずれにせよ、ライブツーリズムの台頭は、従来の旅行を一変させている。もはや、行く場所ではなく、追い求めている「瞬間」が重要なのだ。ライブツーリズムは断片的でバラバラになっているように見えるが、それは旅するための価値あるストーリーなのかもしれない。

※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(Skift)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:Live Tourism Was 2024’s Most Important Story in Travel

著者:Sarah Kopit氏


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