生成AIが観光ビジネスを抜本的に変える時代、これから起きる3つの変化に対応するヒントとは? ―トラベルボイスLIVEレポート(PR)

「ChatGPT」の登場で、生成AIに対する注目が一気に高まった。生成AIは、急速に人々の日常に浸透しており、観光産業にも大きな影響を与えることは間違いない。事業者は生成AI時代のビジネスに対応するための変革が急務だ。

コンサルティング大手EY JapanのメンバーファームであるEYストラテジー・アンド・コンサルティングのパートナー、平林知高氏は「生成AIは事業者と旅行者の関係性を変え、観光ビジネスの前提そのものを変える」と未来を見通す。

2024年11月29日に開催したトラベルボイスLIVEでは、平林氏が出演し、生成AIの浸透によって今起こっていること、生成AI時代の観光ビジネス、事業者が対応するためのヒントを講演。その内容をレポートする。

観光産業でも生成AIの活用は始まっている

平林氏は、ビジネスで生成AIが活用されている領域を(1)パーソナル化(パーソナライゼーション)、(2)自動化・効率化、(3)コミュニケーションの3つに分類した。観光産業での活用を見ると(1)パーソナル化では、旅程の提案が多い。OTAやメタサーチなどは、サイト上に生成AIを活用した対話型のUI(ユーザーインターフェース)を実装し、ユーザーの様々な情報を取得しながら、ニーズに対応した旅行情報やスポット、旅程などを提示している。

また(2)自動化・効率化では、大手航空会社がフライト遅延時にターミナル変更や遅延要因などの関連情報を搭乗客に通知するサービスで活用。経費管理ソリューションを提供する大手企業では、企業の出張規定に即した航空券とホテルを、生成AIアシスタントを活用して対話型で手配するサービスを、2025年内に開始する予定を発表している。同分野では、顧客満足度の向上と業務負荷の軽減という2つの観点で、活用が進んでいる。

(3)コミュニケーションでは、米国の大手OTAが生成AIの音声エンジンを導入。ユーザーの問いを音声で自動的に認識し、ユーザーはホテル検索やアクティビティ等のレコメンドをハンズフリーで、自然な音声の会話で受けることができる。

そして平林氏は、これらの領域を中心に生成AIの活用が進むにつれて「観光産業には大きく3つの変化が起きるのではないか」と展望する。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング パートナーの平林知高氏

変化1:データ収集の流れが変わる、CRMからVRMへ

まず1つ目が、データ収集におけるベクトルの変化。これまで、事業者は情報や商品提供の個人への最適化に向けて、顧客情報を個々に収集してアプローチをしてきた。しかし、旅行は、Eコマースの中で購入頻度が低い商品といえる。平林氏は「本当にその情報で旅行者のペルソナを深掘ることができるのか。しかも、各事業者は旅行者が自社サービスを利用している時の断片的な姿しか見えていない」と課題を指摘する。

そこで平林氏は、事業者が旅行者の情報を取得する方法として、3つの方向性を提示した。1つ目は、多様なサービスを提供して、旅行者の様々な情報を蓄積していくこと。平林氏は「事業者や地域によるプラットフォームサービスが想像しやすいだろう」と説明する。

ただし、この方法はある程度の規模や体力がないと難しい。そこで平林氏は、2つ目の動きとして「事業者が連携して旅行者のデータを集める」と言及。さらに3つ目として「旅行者自身からデータを受領(旅行者が積極的に情報提供する)ようになる」と展望した。

これについて、平林氏はインターネット社会や経済のビジョナリーであるドク・サールズ氏が著書「インテンション(意図)・エコノミー」で提唱した「VRM(ベンダー・リレーションシップ・マネジメント)」の考え方を紹介。VRMとは、事業者が顧客情報を収集・管理して顧客との関係構築を図るCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)とは逆のアプローチだ。旅行者が自身の情報を管理し、事業者により良いサービスを提供してもらうことを目的に提供する。

「事業者が持っているデータは断片的なので、旅行者は『(自分のことを)わかっていない』『ちょっと違う』と多少なりとも感じていたはず。今後は旅行者自身が、常にアップデートしている自分の情報を管理し、事業者に伝える。それに対して事業者がサービスを提供することで、より満足の高いサービスとなる」(平林氏)。

平林氏は同書の発行が11年前の2013年であることに触れ「当時はこの概念に時代が追い付いていなかった。テクノロジーの進化によって、実現できる時代になってきた」と話す。

 CRMからVRMへ。データ収集とアプローチの流れがシフト

変化2:流通が変わる、産業構造が劇的に変化

生成AIによって、旅行者はより自分が望む形の旅行の実現が、事業者は業務効率化や顧客サービスの高度化ができるようになる。そうなると「サプライヤーが旅行者により良いサービスを提供するために、自ら自社のサービスを提案したいと思うようになる」と平林氏。「サプライヤーのビジネスモデルは旅行会社からの送客を受けるものだったが、今後は旅行会社が担っていた仲介者の役割も変わっていく」と展望する。

過去のオフラインの時代は、旅行者が旅行会社の店舗に行って希望を伝え、旅行会社がそのニーズに沿った商品を提示した。それがオンラインの時代になると、OTAを通じた予約へシフト。消費者はOTAのサイトにアクセスして行き先と日程の希望から表示されるリスティングから選んで予約する形になった。

つまり、オンラインの時代は、旅行者は明確な日程と行き先を事前に決める必要があり、曖昧なニーズにこたえられていない。つまり、旅行はしたいが中身を相談して決めたいという旅行者の思いに応えられていない。一方で、サプライヤー側は、リスティングに載せるだけでは、商品の中身を認知してもらう機会が限られる。

平林氏は「生成AIを通じて旅行者の曖昧な需要を可視化し、その情報にサプライヤーがアクセスできる状況になると、サプライヤーが力を持ち、旅行者のニーズに直接応える世界に変わる。産業構造が劇的に変化する可能性もある」と予測。旅行者のニーズは多様なので、旅行の構成要素を1つ1つばらす(アンバンドル化する)ことで、旅行者にリーチできるサプライヤーが増え、観光産業に多様な事業者が参入しやすくなる。

そして「こうした動きで、旅行者とサプライヤーをつなぐ仲介者は、AIマッチングプラットフォームなどのようなものへと変わってくる」と平林氏との見方を示した。

生成AIは旅行のビジネスモデルを変え、産業構造のシフトを加速していく

変化3:必要なデジタル人材が変わる、分析結果を「読める」人に

デジタル化の時代では、データサイエンティストのようにデータを正しく扱い、分析できるデジタル人材が必要だといわれてきた。今後は、生成AIによってデータ収集から分析まで自動化してできるようになることで、求められるデジタル人材の役割が変わる。「アウトプットされた結果を戦略や施策につなげるため、出てきた数字をどう解釈し、どのように使っていくかが重要になる」と平林氏。求められる人材は「データ分析ができる人材」から「データを読み解く力を持つ人材」へと高度化してシフトするという。

これまで、デジタル人材の不在が、データを活用して戦略や施策を立案する際のボトルネックになっていた。生成AIはこうした課題を抱えていた、特に中小の事業者や地域にチャンスをもたらす。

求められる人材は「データ分析ができる」から「データを読み解く力を持つ」へとシフト

生成AI時代のビジネス戦略、方向性は?

最後に平林氏は、今後のビジネス戦略の方向性として4つのポイントを示した。

1つ目は、「旅行者のニーズをいかに聞き出せるか」。旅行は、その旅行者の生活のごく一部の時間でしかないため、旅行以外の行動や嗜好を把握することで、その人にとって最適な商品を提供することができる。そのためには「旅行者の日常生活でタッチポイントの多い事業者との連携がポイントになる」とアドバイスした。

2つ目は、組織内業務では「定型のタスクは生成AIに移管し、接客や経営にリソースをシフトする」。リソースの割り当てと再配分の検討時にも、生成AIを活用できるという。

3つ目は、ディスカッションのパートナーとして「生成AIの活用」も提案した。人材不足の中、組織内の議論の参加者は固定される。「必ずしも人ありきではなく、テクノロジーを使った効率化・意思決定を取り入れる。その結果をどう解釈し、判断するか。それができる人材の育成や自分自身がそうなることが、これからの時代に必要」(平林氏)。

4つ目に「企業間連携や人の判断による全体設計を、生成AIとともに考えていくのが、これから必要な戦略ではないか」と話し、平林氏は講演を締めくくった。

進行役を務めたトラベルボイス代表の鶴本浩司は、講演中に受け付けた視聴者の質問やコメントから「ビジネスモデルの変革や観光産業の構造変化。旅行者とサプライヤーがつながり、仲介者にAIマッチング的なプラットフォーム(仮)が来るという見通しへの反響が多かった」と紹介。そして平林氏に「VRMは、今後の主人公になっていくというイメージでよいか?」と質問した。

平林氏は肯定し「情報取得を目的化すると、旅行者から情報が出てこなくなる」と注意を喚起。「旅行者が心地良いと感じるサービスの延長線上で、気が付いたら自身の情報を出していたというUI/UXが重要。そういう世界観に近づいていくのでは」とヒントを示した。

トラベルボイスの鶴本浩司(代表取締役社長)

広告:EYストラテジー・アンド・コンサルティング

EYツーリズム関連レポート:

関連サービス:

記事:トラベルボイス企画部

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…