EYストラテジー・アンド・コンサルティングは2024年11月26日、生成AIの活用が進むことでツーリズム産業でこれから起きること、重要になる課題に関するレポート「生成AIがツーリズム産業にもたらす影響」を発表した。
2022年秋のオープンAIによるチャットGPTリリース以降、AI市場は加速度的に拡大している。Statista(スタティスタ)は、その成長ペースを2024~2030年で年平均成長率(CAGR)35.5%、市場規模は1兆8400 億ドル(約276兆円)を超えると予測している。生成AIが産業全体に適用された場合の経済効果は2.6~4.4兆ドル(約390兆~660兆円/マッキンゼー)、世界のGDPを10年間で7%増やす可能性(ゴールドマンサックス)といった試算が明らかになっている。
ツーリズム産業でも活用は進んでおり、主要OTAやホテルチェーン、エアビーアンドビーなど各社が、AIによるお勧め情報や旅程の自動生成、写真による部屋の疑似体験コンテンツ生成、食品廃棄やCO2排出の削減などに取り組んでいる。こうしたAI活用の現状について、同レポートでは主に「パーソナル化」「自動化」「コミュニケーション深化」の3つの領域に大別できるとし、具体例を紹介している。
EYジャパンのストラテジックインパクト パートナー、平林知高氏は、今後、より重要な論点になるのは、AI導入により、ツーリズム領域でどのような変革が進むのかだと指摘し、「データ収集のベクトルの変化」「ビジネスモデルの転換」「求められる人材の変化」の3点を挙げた。
まず、データ収集では、各事業者がそれぞれ顧客データを集めて管理するだけでは、断片的な旅行者のペルソナしか把握できず、パーソナル化には限界がある。大手企業ではこれまで、自ら様々なサービスを提供することで顧客データを蓄積する垂直統合を進めてきたと説明。今後は、事業者どうしが手を組み旅行者データを集約する連携型の動きや、企業が顧客情報を収集する従来のCRMではなく、旅行者自身が自分の旅行履歴データを管理し、これを必要な時に旅行サービス事業者(ベンダー)に提供する「VRM(Vender Relationship Marketing)」がますます重要になってくるとの考えを示した。
ビジネスモデルの変化については、AIによって、旅行者の曖昧なニーズを可視化したり、宿泊、飲食、体験など各サプライヤーが直接、旅行者にアプローチしやすくなるため、サプライヤーの立場が現状よりも強くなる可能性が高いと同氏は指摘。同時に、既存OTAや大手プラットフォーマーが、現在の有利な立場を活かし、旅行者とサプライヤーをつなげるAIマッチング・プラットフォームを構築する可能性や、旅行者のニーズを聞き取りながら旅程を提案してきた老舗旅行会社が、ノウハウとAI技術を組み合わせて画期的なサービスを構築する可能性、顧客を多く抱える異業種プラットフォームの参入なども想定できると話した。
最後に、今後、ツーリズム分野で求められる人材については、平林氏は「どうデータを分析するか」よりも「どうデータを解釈するか」にシフトすると指摘。これまでは分析スキルの高いデータサイエンティスト不足が問題だったが、生成AIの分析能力が向上していることが理由で、「データ結果をどう解釈し、どう戦略や施策に反映するべきかを考えられる人材が最も必要になる」(平林氏)とみている。