オーバーツーリズム対策のための3つの施策、世界大手コンサル企業のEY社が考察レポートを発表、海外事例から日本の住民調査まで

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(EYSC)は、オーバーツーリズム対策を考察したレポート「日本経済をけん引するツーリズム産業への成長に向けて」を発行した。このレポートは、海外でのオーバーツーリズム対策事例、オーバーツーリズムが生じていると思われる日本の10都市1860人の住民を対象にしたアンケート調査などをまとめたもの。

同社ストラテジック・インパクト・パートナーの平林知高氏は、レポート説明会で、日本の観光産業を自動車産業と肩を並べつつある巨大な輸出産業と位置付けたうえで、オーバーツーリズムは、観光産業の成長を促進していくためには、しっかりと対策を図っていかなければならない重要な課題と指摘。今回のレポートを通じて、「観光を通じた経済的な恩恵がきちんと住民に伝わること、日常生活に支障が出ないような施策を実施することが、観光を通じた経済成長には重要であることが明らかになった」と強調した。

オーバーツーリズム対策、3つの方向性

レポートでは、海外のオーバーツーリズム対策の実例を紹介。「観光客数をコントロール」する3つの方向性を示している。

1つ目は、ベネチアでの入場料の徴収、日本でも議論を呼んだ二重価格の設定のように金銭的な上乗せを設定することで、観光客の入込を管理すること。ベネチアでは、今年4月~7月にかけて、日帰り客に5ユーロの入場料を課金する実証を実施。来年には10ユーロ、最大100日に適用する案も検討されている。また、日本の姫路城では、外国人の入場料を30ドル程度に値上げする案が提案されている。

2つ目は、アムステルダムやバルセロナなどでの民泊施設数の上限設定や廃止、港への寄港を制限するなど、物理的に滞在することを制限するための措置。アムステルダムでは、今年4月に新規ホテルの建設許可をしないと発表。また6月にはクルーズ船の寄港数を制限する計画も明らかにされた。バルセロナでは、高騰する家賃対策として、いわゆる民泊の新規ライセンス発行を停止する。

3つ目は、バルセロナのサグラダ・ファミリアや米国の国立公園で導入されている事前予約制度。入場者制限を予め設定することで過密状況を避ける。日本では、今夏から山梨側の富士山でも導入された。

平林氏は、いずれの対策も、事業者や行政が主導する取り組みではなく、「地域とのコミュニケーションを通じた議論が重要になる」との考えを示した。

オーバーツーリズムと感じている住民は5割

また、日本国内の現状を把握するために、2019年と比較して宿泊者数の増加率が高い地域を10都市(旭川市、那須塩原市、台東区、静岡市、郡上市、京都市、奈良市、浜田市、出雲市、廿日市市)選び、各都市約200人の住民にオンラインによるアンケートを実施した。

その結果、観光客に対する住民感情では、「もっと多くの観光客が来てもよい」が15%、「観光客が来ている現状をよいことだと思っている」が26%となり、約4割がポジティブな受け止め。「気にならない」を加えると約7割が観光客受け入れに前向きであることがわかった。

一方、オーバーツーリズムと感じている住民は5割程度いることもわかった。その中で「とても強く感じる」は9%、「一部の地域でとても強く感じる」は13%。10都市の中では、京都市、浅草のある台東区、奈良、宮島のある廿日市市で高い割合となった。

自身の地域がオーバーツーリズムだと感じていますか(報道資料より)。その理由で最も多かったのが外国人旅行者の増加で、その割合は6割近く(59%)となり、外国人と日本人双方の増加は24%となった。

観光客の多い現状がもたらす良い影響については、「明確な理由はないが、なんとなくうれしい」が最も多く、このほか 「地域全体の景気が良くなった、お金が流れるようになった」「新しいお店が増え、選択肢が広がった」が上位に挙げられた。この傾向は、オーバーツーリズムと感じている人に限定しても、大きな違いは見られない。

悪い影響については「観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)」が最も多く、「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」「観光地・施設やその周辺が混雑しており、住民が使いづらい」が上位となった。

オーバーツーリズムと感じている人に限定すると、最も多かったネガティブな影響は「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」だった。

オーバーツーリズム解消に向けて、住民から最も要望が高かったのは「観光客のマナーの改善」で61.6%。ついで、「交通インフラの改善」(31.3%)、「観光客に対する観光税などの徴収」(24.4%)、「観光客増加に伴う経済的な恩恵の実感」(22.2%)の順となった。

観光客の多い現状がもたらす不満・課題は、どうすれば解消できると思いますか(報道資料より)。

合意形成を図る観光地マネジメントが重要

EYSCでは、オーバーツーリズム回避の施策として、人の心のクセを利用して、行動変容を促す「ナッジ(nudge)」の活用を推奨する。例えば、混雑スポットでは、あえて専用の撮影台を設置することで、周辺でのマナー違反者を減らす。また、マナー違反者の行動を繰り返し動画配信することで、規範意識を高める。平林氏は、「ナッジを活用することで、観光客に選択の自由を与えながら、反発を生まずに行動変容を促すことが可能になる」と話、その効果に期待を寄せた。

政府は、今年7月に開催された「第24回観光立国推進閣僚会議」で、現状のインバウンド市場の動向から、政府目標である2030年の訪日客数6000万人、旅行消費額15兆円の達成も視野に入るとの見解を示した。

そのなかで、平林氏は、オーバーツーリズムがその足枷になりかねないと警鐘を鳴らす。その解消に向けては、DMOを中心として、観光客を含めたあらゆるステークホルダーが「自分ごと」として取り組み、議論のうえで合意形成を図る観光地マネージメントが重要になるとの見解を示したうえで、その取り組みを「リ・ジェネレーション」と定義した。

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