カタールの首都ドーハ(後編)
興奮のデザート・サファリ体験
朝10時、宿泊しているドーハ空港近くのホテルに、1台の大型四輪駆動車が迎えにきた。ガジーと名乗るカタール人ドライバーが「砂漠のドライブを楽しむにはここがベストシートです」と助手席のドアを開け、私に着座を促す。
>>前編はこちら: 新空港はサッカー場50個分、変貌を遂げるドーハ
ここから国道を南下し、目指すはサウジアラビアとの国境沿いに広がるインランド・シーだ。静寂につつまれた内海と息をのむような砂漠が織りなす絶景を抜きに、中東の旅は語れない。そんなことを昨夜、サジャドから聞いて、私は帰国する前にデザート・サファリを体験しようと思い立った。
出発して1時間ほどが過ぎた。人工的な都市ドーハから自然が造形した砂漠へと、周囲の風景が一変する。砂丘の入り口までくるとガジーさんがクルマを止め、降りていきなりタイヤの空気を抜き始めた。
「何をしてるの?」と、窓から顔を出して聞いてみる。「パンク?」
「いいえ、ご心配なく」と、作業を続けながらがジーさんは言った。「こうしないと、砂にタイヤをとられてしまうんです。10分ほど休憩していてください」
砂丘の入り口のほうに目を向けると、何かがもぞもぞっと動いた。あ、ラクダだ! クルマを降りて近づいてみる。客待ちをしているラクダのタクシーだった。乗りたい! 作業を続けるガジーさんのもとに戻って「乗っていい? 時間ある?」と聞くと、彼は顔も上げず「時間ないです」と答えた。「ねえ、お願い。少しだけ待って」と頼んでも、
首を振って「だめです。置いていきますよ」とばっさり。けち。乗りたかったなあ。
4本のタイヤの空気圧調整が終わり、出発の準備が整ったらしい。ここからは一気に砂漠に突入。彼の巧みなドライビングテクニックが披露される。ルート上には激しいコースとソフトなコースが交互に出現し、砂丘のエッジから直角に落ちる感覚はまさにスリス満点だ。高低差が20メートルはありそうな斜面を全速で下るときには、声も出せなかった。
いくつものアップダウンを繰り返しながら、やがてインランド・シーのまぶしく白いビーチに到着した。遠浅の海はコバルトブルーに輝き、白い砂漠と私たちが乗ってきた四輪駆動車のほかは何も目に入らない。聞こえてくるのは風の音だけ。海辺の砂の上に張ったテントでバーベキューランチを食べ、海が砂漠に囲まれているという幻想的な風景に見とれながら、私は興奮した身体と心をいつまでも覚ませずにいた。
- 作家/航空ジャーナリスト 秋本俊二
- 取材協力:カタール航空