米国で成長する「農業 + 観光」、農家が事業を多角化、市場規模は45億ドルとの試算も

写真:ロイター通信

米国ウィスコンシン州の田舎町で、農家のブリット・トンプソンさんは、ヴィンテージのエアストリームトレーラーを改造し、Airbnb(短期宿泊賃貸:ショート・タームレンタル=STR)として貸し出し始めた。主なゲストはシカゴ周辺で専門職についている人たち。不安定な農業の中で安定した収入源となっている。

農業収入が減少する中、アクティビティや宿泊を提供して収益を得ている農家は多くいる。トンプソンさんもその一人だ。米国農務省(USDA)のデータによると、米国のアグリツーリズム産業は45億ドル(約6885億円)規模になるという。

トンプソンさんは、Airbnbの収益はレストランや消費者に直接牛肉や羊肉を売って得た収入をはるかに上回っていると話す。

ピークシーズンになると、この地域の湧き水、マスが釣れる小川、森林に覆われたハイキングコース、汚染されていない夜空に惹かれて、ほぼ毎週末ゲストが訪れる。パンデミック中に近隣の都市がロックダウンされると、トンプソンさんのトレーラーは予約が急増した。

アグリツーリズムはコロナ禍で急成長した。その後も、平穏と孤独を求める都市住民の増加と、収益確保に必死な農場の増加に牽引され、アグリツーリズム産業は成長を続けている。

バーモント大学のリサ・チェイス教授によると、訪問者への農産物の販売も含めると、全米で約7%の農家が何らかの形でアグリツーリズムに携わっている。アグリツーリズム事業を通じて、多くの農家が年間2万5000ドル(約380万円)から10万ドル(約1530万円)の増収を得ており、B&B、収穫体験、農業体験の運営で年間100万ドル(約1億1530万円)以上を稼ぐ農家もあるという。

データ会社AirDNAによると、米国の短期宿泊賃貸(STR)プラットフォームに掲載されているファームステイの数は過去5年間で77%増加。これは、全体の掲載数の増加数の約2倍にあたる。

不況に苦しむ米国の農業

農作物価格の低下、金利の上昇、種子、肥料、労働力の高騰など農業を取り巻く現状は厳しい。米国農務省によると、2024年の農業収入は2022年から23%減少し、史上最大の落ち込みとなった。米国の農業収入は今年改善すると見込まれているが、その上昇は主に連邦政府の援助によるものだ。農作物の販売収入は引き続き減少している。

トランプ米大統領による関税措置によってカナダ、メキシコ、中国との貿易戦争が長引けば、農家にさらなる経済的苦痛をもたらす可能性がある。

すべての農場が観光に適しているわけではない。アクセスの悪い場所や、所有者が見知らぬ人に土地を開放したがらない農場もある。保険や政府規制の遵守にも費用がかかる。しかし、体験や観光からの収入は、家族が農場の所有権を維持し、負債を返済し、若い世代に引き継ぐうえでは役に立つ。若い世代は、土壌水分や穀物先物価格を注視するよりも、AirbnbやOTAに関心が高い。

ノースカロライナ州の養豚業者キャサリン・トペルさんは、「農業だけでは家族農場として生き残ることはできない」と明快だ。彼女は、Airbnbのキャビンとキャンプ場のホストになっている。「キャビンやキャンプは、農家を持続可能で回復力のある産業にしてくれる。父親たちがやっていたことをただ真似するのではなく、他の事業に参入する柔軟性も与えてくれる」と前向きだ。

田舎で子供を育て、農業生活を訪問者と共有したいという気持ちを持つ農家にとって、アグリツーリズムは大きなモチベーションになっている。

ミネソタ大学の教育者ライアン・ペッシュさんは、「若い世代は、農場が不況に耐えるだけの産業ではないことに気づいている。彼らは『なぜ他のことをやらないのか』とよく言う。彼らはそこにチャンスと起業家精神を見出している」と話した。

※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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