2025年大阪・関西万博の開幕まで、あと約1カ月。2025年3月10日に、大阪・夢洲の会場で大規模パビリオンのひとつ「未来の都市」の完成記念式典とメディア向けの内覧会がおこなわれた。同パビリオンは、万博の運営を担う2025年日本国際博覧会協会と協賛する12企業・団体が共同出展。内覧会では、水素エネルギーで動くモビリティや風力で水素を製造、貯蔵、運搬する船の模型など未来の都市を体験できる展示が公開された。その様子と注目のポイントをレポートする。
企業や団体が垣根を超えて「未来の都市」を共創
「未来の都市」パビリオンは、万博が掲げるコンセプト「未来社会ショーケース」における6つの基幹事業のひとつ「フューチャーライフ万博」に属し、「未来社会の実験場」を体現するもの。組織や企業、業界が垣根を超えて協力し、経済発展と社会課題の解決を両立する「未来の都市」を来場者とともに考え、描くことを目指している。
会場の西側に位置し、施設面積は約4800平方メートル、展示面積は約3300平方メートル。「幸せの都市へ。」をテーマにした3つの共通展示と、「Society5.0と未来の都市」「交通・モビリティ」「環境・エネルギー」「ものづくり・まちづくり」「食と農」の5分野の個者展示で構成される。
同日に開催された完成記念式典には、同協会事務総長の石毛博行氏やパビリオンのクリエィティブディレクター、SD代表取締役の古見修一氏、協賛企業・団体の代表者らが出席。石毛氏は同パビリオンについて、万博で最大級であること、日本を代表する12の企業・団体が共創にチャレンジしたこと、遊びながら学べるという特徴を強調した。古見氏は「万博は最新の技術と芸術が集まるところ。展示を通して、子どもたちにいろいろな明日の夢を育んで欲しい」とあいさつした。
関係者がテープカットし、パビリオンの完成を祝った
協賛企業・団体を代表して挨拶したクボタ代表取締役社長、北尾裕一氏は、「世界から集まる1人でも多くの子ども、経験豊かな大人たちに見て、触れて、感じていただき、さらに新たなアイデアが生み出されることを期待している。未来の都市が命を考えるきっかけとなり、新たな行動が生まれ、多くの笑顔や幸せをもたらすことを願っている」と力を込めた。
人ではなく、モビリティが移動するシステム
パビリオンは、高さ約5メートル、長さ約92メートルの蛇行したテーマ展示「40億年・幸せの旅」から始まる。両側の巨大スクリーンには、人類が誕生してから社会が形成され、未来の都市へとつながっていく映像が映し出され、未来に向けて取り組むべき社会課題が示される。2035年の人々の暮らしを3D映像などで描いた共通展示や、未来の産業や社会を仮想体験できる巨大な子どもの顔をしたロボットなどの共通展示などを抜けると、協賛する企業・団体がそれぞれの技術や知見を生かした個者展示のゾーンに至る。
段ボールで作った巨大な子どもの顔をしたロボット
2035年の人々の暮らしを3D映像で描いたキューブ型の共通展示
交通・モビリティの分野では、川崎重工業が未来の公共交通システム「ALICE SYSTEM」を公開した。水素エネルギーで動くモビリティ「ALICE Cabin」に乗り込めば、キャビンが自動で電車や船、飛行機といった公共交通を乗り継ぐシステムだ。会場には、鉄道車両に接続するキャビンの実物大モデルを展示。車両の中に入って、未来の移動を体感できる。
キャビンで電車や飛行機などを乗り換える川崎重工業の公共交通システム「ALICE SYSTEM」
このシステムは「人が乗り換えるのではなく、キャビンそのものが乗り換えれば、人がわざわざ動かなくていい」という発想から考案されたという。同社の執行役員、鳥居敬氏は「未来の旅は、人や荷物をそのまま移動する、リビングごと現地に行けるようになる。キャビン自体が通信をして、移動している場所の情報を知ったり、(離れた場所の)医師に体調不良の相談をしたりできるようになる。障害がある人も安心して快適に移動できる旅を実現したい」と、展示が体現する世界観を説明。そして、「小さい頃、大阪万博を見て未来はこうなるんだろうなとわくわくした。子どもたちにもそれを感じてもらって、未来は自分たちが作っていくと思うきっかけになればいい」と期待をかけた。
商船三井は、風を捉えて水素を製造、貯蔵、運搬する未来の水素生産船「ウインドハンター」の大型模型を展示。来場者が模型の回転・拡縮する帆にうちわで風を送り、水素を製造・供給するまでの流れをゲーム感覚で学べるアトラクションも用意した。
商船三井が手がけた未来の水素生産船「ウインドハンター」の大型模型
同社の代表取締役社長執行役員の橋本剛氏は「こうした未来の船は、客船事業にもつながっていく。日本でも、海外の人に対して胸を張って示せるようなクルーズ事業、質の高いレジャーコンテンツを提供したい。Wi-Fi環境を整えたクルーズ船で、仕事もできるし、家族で遊べるといったような人々のライフスタイルにも彩りを添える、新しいクルーズ事業のコンセプトを打ち出していきたい」と力を込めた。
完全無人プラットフォームを活用した「食と農」
「食と農」の分野では、クボタがデータを活用し、農作業などを完全無人でおこなう完全無人プラットフォームを展示。大型スクリーンに、プラットフォームを活用した未来の食と農業の様子を映し出した。クボタ社長の北尾氏は「農家が農地に行かなくても、遠隔で農作業ができるようになる。こうしたシステムが実現すれば、食料の増産に貢献し、農家自身も、まちから来た人たちも、楽しめる新しい農村が生まれるのではないか」と期待を寄せた。
完全無人プラットフォームについて説明するクボタ代表取締役社長、北尾裕一氏(右)
万博では、「未来の都市」をメタバース上に実装した「バーチャル未来の都市」も運営する。協会や協賛する各企業・団体が描いた「未来の都市」が来場者、とりわけ子どもたちにどう映るのか? 観光事業者は、旅や移動の未来へのヒントは見つけられるのか? 開幕まで間もなくだ。