日本人の海外旅行者数が130倍に成長した50年、次の時代に残すもの -海外渡航自由化50年の歴史(8)

日本旅行業協会(JATA)の発表資料で振り返る、海外渡航自由化50年の歴史。最終回の第8回では、これまでの50年間で旅行業界が築き上げてきたビジネスモデルを評価するとともに、次の50年に成すべき役割やその方向性を探る。変化にしなやかに対応し、時代が求める形にいかに進化していくのか--。(画像はJALサイトからキャプチャー)


▼世界的評価の高い日本の旅行商品

渡航自由化の1964年から2013年までの50年で、日本人の海外旅行者数は12万8000人から1747万3000人となり、130倍以上に拡大した。この成長を支えた旅行会社について、初代観光庁長官で首都大学東京教授の本保芳明氏は「日本人の海外旅行が社会的・経済的にも極めて大きな分野となるに至った過程で、旅行会社が果たした役割は圧倒的なものがあった」と存在意義を強調。

「日本人が安心して海外へ出かけられる仕組みを作り上げ、世界でも評価の高い旅行者として受け入れられるようになったのは、産業界の努力の結果。旅行業界の存在がなければ現在の日本のアウトバウンド市場は成立しなかったのではないか」と評価を語る。


北海道大学観光学高等研究センターの特別招聘教授・石森秀三氏も「日本人の海外旅行が格段に進化したベースには旅行会社の役割があった」と同調。それは日本の旅行会社の海外旅行の商品作りにもあると話す。

それを示す例として石森氏は、20年ほど前に大手旅行会社のパッケージ旅行造成部門で1年間のフィールドワークを経験した米国カリフォルニア大学バークレー校の研究者のエピソードを紹介。同氏は一連の業務を経験し、「日本のパッケージ旅行商品は芸術的でさえある」と驚愕したという。石森氏は自動車産業など日本の技術を極めた工業分野と同様に、「旅行の分野でも国際的な評価を受ける水準に達している」と強調する。

▼次の50年へ「新しい風」吹き込む

ただし、本保氏は2000年以降、海外旅行市場が1800万人前後で停滞していることも指摘。近隣国の水準を下回っている出国率の改善や、日本の人口減による市場縮小の備えのためにも、新商品やサービスの開発などによる旅行需要の創出が大きな課題だという。特に東京オリンピック開催と訪日外客数2000万人達成を目指す2020年を「目標に向けて官民が力を合わせてツーウェイ・ツーリズムの進展を図る機会」とし、「その流れを加速化することが問われる」とこの数年の重要性を強調する。

石森氏も旅行会社の商品造成力を活かし、成長させる方法として、「国内に留まらず、各国から日本へのツアー、さらには第三国間の旅行商品造成で海外市場の開拓など、新しい可能性を広げることができるのではないか」と、新展開をアドバイスする。


日本旅行業協会(JATA)会長の田川博己氏は11月4日にロンドンで開催された観光大臣サミットで、東京オリンピック開催の2020年に向けて、「持続可能な『ハイテクと文化を融合させた』観光立国の実現を目指したい」と述べ、「日本から『新しい風』を世界の観光産業に吹き込む」意欲を語った。

田川氏は「観光とメガ・イベント」をテーマに開催されたパネル討論会での発表で、今後の旅行業界としての取組みとして「官民による連携や異業種間連携のためのプラットフォーム作りを通じた強力なパートナーシップの実現」などにも言及。新しい時代に旅行業界がその価値を発揮するためには、従来の枠組みを超えた新しい姿に変わる可能性も示唆している。

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50年後の旅行業界はどのような姿になっているのか。それがどのような形であれ、社会の期待にしっかりと応えるリーディング産業となっていてほしい。いかに技術が進歩し、時代が変化しても、しなやかに対応し、発展させるための舵を握るのは人だ。

次の50年へ、産業を向かうべき方へ動かせる人材の育成も、50年の節目を迎えた旅行業界の重要な責務のひとつである。

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